第57話 破 綻

文字数 1,434文字

創生ファーマの社長が臓器密売組織との違法取引を告発したこの動画のおかげで、我々の計画はオジャンだ。
和倉さんが開発した抗マラリア新薬を創生ファーマに作らせてアフリカで広めることを考えていたのね。儲からないクスリを売りたがらない創生ファーマを、アメとムチで動かした。
なぜ、そこに気づいた?
警視正は、他省庁の同期のお仲間と親しくしていらっしゃいました。外務省、厚労省のお友達とつるんでアフリカ支援計画をぶち上げるのは、想定の範囲内です。
そうか、貴様は俺の下で3年も働いていたのだったな。発想を読まれても仕方ないか……
我々の計画は、日本の国益にかかわる重大なものだった。日本のアフリカへの浸透は、中国と比べると、周回おくれになっている。

日本は、新興国の開発援助に熱心だったじゃないか?
それは、昔の話だ。日本は1970年代から政府開発援助(ODA)を拡大し続け、ピークの1997年度には1兆円を超えた。しかし、その後1999年度から16年連続で削減され、その後少し増えたが、それでも2020年度予算が5,810億円。ピーク時の半分だ。


(出典)外務省『一般会計ODA当初予算の推移(政府全体)』

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/yosan.html

日本は2010年頃に国民総生産(GDP)で中国に抜かれた。だが、その後も2018年まで対中ODAを続けている。その中国に対アフリカ支援で先行を許してるってのは、皮肉な話だな。
だけど、中国は善意じゃなく、征服欲からアフリカ援助をやってて、支援先の国を借金漬けにするとか、インフラ建設に中国人労働者を送り込んで現地の労働者を締め出すとか、色々悪い評判があります。
善意で国際援助をする国なんて、ない。みな、自国への見返りを考えて他国を支援するんだ。

それから、中国についての悪評は欧米が意図的に流している可能性もある。

なんで、そう思うんだ?
少なくとも雇用については、中国が現地の雇用拡大に貢献しているという報道もある。


出典:『日本経済新聞』「アフリカで搾取する中国」は大きな間違い

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46950280U9A700C1000000/

ともかく、中国は侮れない。
危機感を抱いた日本政府は、人材開発や予防医療の分野でアフリカ支援を強化しているが、アフリカでの存在感は、中国に比べてまだまだ小さい。
和倉さんが開発した新しい抗マラリア薬は、日本のアフリカ支援の切り札になるはずだった。
従来のクスリより安価で効果の高い日本製抗マラリア薬をODAを使ってアフリカに提供すれば、一気に日本の存在感を増すことができるはずだった。そのために外務省・厚労省の仲間と2年がかりで積み上げきた努力が、創生ファーマ社長の自白映像で水の泡だ。
警視正たちの計画は、内閣の承認を得ていたのですか?
ノーコメントだ。
仮に内閣の承認は受けていなくても、バックに有力な政治家がいるはず。それも、創生ファーマとつながりのある政治家が。
余計なことに関心を持つと、コンクリート詰めにされて東京湾に沈むぞ。
警視正たちの計画を破綻させた組織に心当たりはありますか? 
貴様らでないとしたら、CIAだ。
CIAだって!
CIAと言っても、本体ではない。我々が「ファーマ・サークル」と呼んでいる闇の組織のために働いている一部のエージェントたちだ。
製薬シンジケートって、なんだ?
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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