第54話 盗 聴 ⇒改題 裏取引

文字数 1,393文字

世津奈たちは、厚労省の八木課長のパソコンをハッキングして、課長が神楽坂の料亭で創生ファーマの工藤社長と神楽坂の料亭で会食する予定を突き止めた。

当日、慧子と世津奈は、当の会食が行われる料亭から100メートルほどの神社でタブレットの画面をのぞいていた。

画面には、会食が行われる料亭前に置いてきたテントウムシ型の監視ロボット2機からの映像が届いている。

可愛いテントウ虫ロボットさん、大したものね。映像の解像度は高いし、仲居さんが出入りしたりすると、音声をちゃんと拾って送ってくる。
私たちは警察のような人海戦術が取れないので、こういう自律移動式の監視ロボットが頼みの綱なんです。調査対象者に密接して監視する時は、今使っているテントウ虫型、距離を置いて監視する時は無音飛翔できるドローンと、使い分けています。
5分後、いかにも公用車らしい黒塗りのセダンが料亭の前に乗り付け、スーツ姿の男性が降りてきた。

世津奈がタブレットの画面を2分割し、厚労省のデータベースから盗み出した八木課長の顔写真と比較する。

八木課長に間違いありません。テントウ虫も課長の顔を認識しました。課長について料亭に入ります。
明るい屋内で課長に接近しても、見つからない? 大丈夫?
大丈夫です。超小型ですし、表面が光沢のない鏡状の素材で覆われていて周囲に溶け込みます。警戒して監視していないかぎりは、発見できません。今、会食の部屋に入りました。
厚労省の八木課長と創生ファーマの社長がどんな話をするか、楽しみね。
3時間後、創生ファーマの社長と厚労省の課長が料亭から出てきた。厚労省課長の公用車が料亭の前に乗り付け、課長が乗り込む。深々と頭を下げた社長と秘書らしき男性に見送られ、公用車が走り出す。
慧子さんの予想どおりでしたね。厚労省は、創生ファーマと臓器密売業者との闇取引に目をつぶる。その引き換えに、創生ファーマは和倉が開発した抗マラリア薬を大量生産する。それを日本政府はアフリカの医療支援に使う。
このあと、この抗マラリア新薬事業がODA(政府開発援助)の対象になれば創生ファーマもそこそこは儲けられるということで、工藤社長も最後は喜んでいたわね。
不正に目をつぶってやるだけで十分すぎるくらいなのに、その上、利益も約束してやるなんて、創生ファーマに甘すぎると思いますけど。
八木課長の後ろに控えている政治家の差し金ね。創生ファーマを儲けさせておけば、それが政治献金になって懐に入ってくる。そういう仕掛けよ。
まったくウンザリする話です。でも、これで、アフリカの貧しい人たちに安価で効き目の高い新薬が提供されるのだから、「良し」としますか。
「汚れた正義」だけど、その中ではマシな方よ。
そうですね。
創生ファーマの社用車が料亭に乗り付けた。工藤社長がお帰りよ。私たちも引き揚げましょう。
あっ、慧子さん、これ、見てください!
タブレット画面では、創生ファーマの社用車の進路をふさぐように黒塗りのワンボックスカーが乗り付けていた。

中から黒ずくめの4人組が降りてくる。特殊警棒で社長と秘書に襲いかかり打倒す。社長の膝を叩いて動けなくしてから、ワンボックスカーに押し込こむ。ワンボックスカーが急発進して現場から逃げ去った。

創生ファーマの社長が何者かに拉致された。佐伯警視正から社長の奪還を振ってこられるかもしれないわよ。
もう、面倒はたくさんなんですけど。
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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