第61話 子どもたちを助けたい!

文字数 1,927文字

「ファーマ・サークル」の息がかかったCIAの連中が、和倉と貴様ら二人の命をずっと狙っていたことわかっわけだ。女二人でCIAに狙われる気分はどうだ? 泣き出したいか? チビりそうか?
あたし達とCIAは休戦してただけだ。またケンカが始まっても、驚くことでも、ビビることでもない。それから、「チビる」は失礼だ。
「女二人」も失礼ね。「女だからビビって、男ならビビらない」というのは、古臭いジェンダー観に毒された偏見だわ。
貴様ら、「古き良き日本」を壊そうとするフェミニストだな!
警視正、私は自分がフェミニストだと思ったことはありませんが、慧子さんに100%同意します。
女性と男性に、生物学的な違いはある。だが、人間は、生物学的な要素だけで決まるほど単純な動生き物じゃない。異性間の違いより同性間の個体差の方が大きいことだってあるんだ。
貴様ら、よってたって……
ボクらは、「よってたかって」佐伯さんを責めてるわけじゃないっす。おかしいことをおかしいと言ってるだけっす。
民が「おかしいことを、おかしい」と言っている。なのに、それに耳を傾けようとしない。そんな人に、総理大臣になって欲しくありません。
おっ、宝生さんにしては珍しい政治的発言っすね。
あたしは、最初っから、この警視正殿が総理大臣になるなんて「あり得ない・あっちゃいけない」と思ってるよ。

あたしは、そんなことよか、もっと・ずっと、大事なことを考えてる。

何を考えているの?
貧しいアフリカの人たちに和倉の抗マラリア薬を届ける方法だ。
貴様には、そんなことを考えてる余裕はないぞ。どうやったらCIAから逃げられるかを考えろ。
わかんねぇ奴だな。CIAに追われるのは、あたし達にとっては生きてく上で避けられない条件なんだよ。殺されないため、身を隠す、闘う。だけど、それだけで人生が終わっちまったら、つまんな過ぎんだろうが。人生にはな、目的ってもんが、必要なんだよ。
ガキは威勢が良くていいな。(慧子にむかって)あんたは、こんな甘いこと考えてないよな。
考えていなかった。でも、今、この子が言うのを聞いて、素敵な考え方だと思った。CAIから逃げるのは、雨が降ってきたら傘をさすのと同じ。私たちが生きていく目的ではない。
警視正殿、あんた、創生ファーマが使えなくなったら、抗マラリア薬を使ったアフリカ支援ができなくなると言ったな。

だけど、和倉のクスリを作れるのは創生ファーマだけじゃないぞ。

頭の悪いガキだ。和倉の抗マラリア薬は、創生ファーマの知的財産だ。他の製薬会社に作らせたら、創生ファーマの知的財産権を侵害することになる。
「知的財産」ってのは、売り買いできんだろ。創生ファーマに命令して、和倉のクスリを作れる他の製薬会社にクスリ情報をを売らせりゃいい。
ダメだ! 私が厚労省、外務省の同志と進めてきた「BCAプロジェクト」は、創生ファーマあってこその計画なんだ。

佐伯警視正が厚労省、外務省の同志と進めている「BCAプロジェクト」については、

第49話「BCAプロジェクト」をご参照ください。

https://novel.daysneo.com/works/episode/b0ffbc03b786854782e156f77f50df5d.html
警視正とお仲間のお役人さんたちの裏にいる代議士先生が創生ファーマを使えと言っているのですね。
課長級の役人仲間だけでアフリカ支援プロジェクトを進められるわけがない。あんたらの後ろには有力な政治家がついている。そして、そいつは創生ファーマとべったり癒着してる。
ノーコメントだ。
相変わらず、ウソつくの下手っすね。顔に「その通り」って書いてありますよ。
警視正殿、あんた、自分が役人として目立つために「BCAプロジェクト」を始めただろう? それは間違ってる。「BCAプロジェクト」の目的は、アフリカの貧しい人たちをマラリアから救うことだ。
「BCA=Beat China in Africa」というプロジェクト名も変えるべきね。中国がアフリカで何をしているかに関係なく、あなた達が抗マラリア薬をアフリカに提供することには価値がある。
俺の出世につながらない。中国に対抗するという国益にもつながらない。それなのに、俺が汗をかくことに何の意味がある。
「世のため、人のため」になる。
貴様、正気か? 「世のため、人のため」なんてのは、額に収めて壁にかけておく言葉だ。真面目に実行する奴なんか、一人もいやしない。
あたしが、やってやる。「世のため、人のため」だと立派すぎっから、今、マラリアで苦しんでるアフリカのチビっこたちのために、あたしがやる。
(佐伯に向かって)「血の汗」を流すことになっても、この子はやるわよ。
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登場人物紹介

山科 アオイ  17歳


アメリカ国防総省が日本に設置した秘密研究所で放電能力を持つ生体兵器に改造された少女。

秘密研究所を脱出した後、国家や企業から命を狙われる個人を保護するグループ「シェルター」に拾われ、「シェルター」が保護している人々のボディガードとなる。

山科アオイは、国防総省から逃れた後に名乗っている偽名。本名は、道明寺サクラ。


《放電能力》


※非接触放電  有効射程 20メートル

・単独のターゲットに致死的な電流を浴びせる設計だったが、アオイを暗殺兵器にしたくなかったレノックス慧子が故意に改造手術をミスしたため、致死量の放電はできない。

・設計にはなかった複数のターゲットを同時に攻撃する能力が発現している。


※接触放電  対象と身体を接して放電し対象を金縛りにする事ができる。


レノックス 慧子/アオイの相棒  37歳


元は、アメリカ国防総省で特殊兵器を開発する技術者だった。

日本人の両親の間に生まれたが、両親が離婚し母がアメリカ人と結婚したため、レノックス姓を名乗っている。


慧子を含む5人を「放電型生体兵器」に改造した。そのうち4名は職業軍人で改造されることを志願した者たちだったので、設計どおり致死能力を持たせた。

しかし、国防総省に拉致された民間人であるアオイに対しては、設計上求められていた致死能力を与えなかった。このため、アオイは一度も暗殺兵器として利用されていない。

アオイが秘密研究所を脱出するのを助け、後に自らも国防総省を離脱してアオイに合流して、2人で「シェルター」のボディガード役を務めている。

M 年齢不明


「シェルター」内でのアオイと慧子の「世話役」。アオイ達と「シェルター」の関係を調整する。

「シェルター」は組織に追われる個人をかくまうが反撃はしない非抵抗主義を貫いていたが、強力な戦闘力を持つアオイが加わっったため、一定限度の自衛力を持つ方向に転換した。

しかし、アオイ達の活動と「シェルター」本来の非抵抗・非暴力主義との関係は微妙で、Mは、常に難しい舵取りを求められる。

元はロボット工学の権威で、現在でも、アオイと慧子に様々な偵察・攻撃用の超小型ロボットを提供している。

宝生 世津奈(ホウショウ セツナ) 35歳


産業スパイ狩りを専門の調査会社「京橋テクノサービス」の調査員。

以前は、警視庁生活案全部生活経済課で営業秘密侵害事案を扱っていた。


ITとクルマに弱く、この方面では相棒のコータローに頼りっきり。


ホワっと穏やかだが、腹が据わっていて、必要とあれば銃を取って闘うこともためらわない。

コータロー(本名:菊村幸太郎) 27歳


調査員。宝生世津奈の相棒。

一流大学の博士課程(専攻は数理経済学)で学んでいたが、アカデミック・ハラスメントにあって退学。2年間の引きこもりを経て、親戚の手で「京橋テクノサービス」に押し込まれる。

頭脳明晰で、IT全般に強い。空手の達人で運転の腕も一流。


アカハラの後遺症で「ヘタレ」の傾向がある一方、自分が納得しさえすれば身の危険をいとわない勇敢さも持ち合わせている。

和倉 良一  35歳


日本有数の製薬会社、創生ファーマの研究員。

創成メディカルは、公には人工的に合成した臓器を新薬開発に用いているとしているが、実は、実は手術患者から摘出した臓器を用いていた事を知り、会社を内部告発する決意をする。その直後に、何者かかに命を狙われ、「シェルター」に助けを求めてくる。

アオイと慧子の警護対象者。

近江 正一 50歳


産業スパイ専門の調査会社「京橋テクノサービス」の付属救急センターで働く外科医。NGO「国境を越えた医師団」の一員として紛争地の野戦病院経験が長く、腕は確か。ただ、スピードを重んじるあまり、仕上げが荒い傾向がある。

頭に傷を負ったアオイを会社に秘密で応急処置した後、知人の外科医、川辺憲一にゆだねる。

川辺 憲一 28歳


若き天才外科医。大学病院の医局で起こったある事件が原因で病院を追われた上に医師免許も剥奪された。しかし、本人は、「運転免許のような更新制度のない医師免許は、終身免許だ」とうそぶき、闇で医師稼業を続けている。近江医師とは、長年の知り合い。

イケメンかつ女性大好き男で、彼の自宅兼マンションには女性の出入りが絶えない。一方で、公私を厳しく分ける潔癖さも示す。

佐伯 達彦 47歳


警察庁生活案全部の特命係長。階級は警視正。

総理大臣のイスを狙う野心家で、警察庁警備部に強いライバル意識を持っている。

人間を組織内の位置づけでしか評価できない男。警察を辞めた世津奈を警察時代の階級で呼び続けて、世津奈を鼻白ませる。

ただし、世津奈の粘りと度胸は評価している。

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