分岐点     前編(執筆者:畑の蝸牛)

文字数 3,806文字

 シオンは、いやその場に居た全員が耳を疑った。いま、あれほどトウラのお願いを突っぱねた人物が何と言った? 当然シオン一行は固まった。

「仲間に入る、と言うと語弊があるな。そうだな……、逆だ。俺の仲間だとお前達を認めてやる。少なくともジャマにはならないみたいだしな」

「協力してくれるってことですか?」

「お前達からしたらそうなるんだろうな。……特に、過ぎた力を得たお前はな」

 突き刺すかのように、トウラに人差し指が向けられる。

「……ということは!!」


「ああ、なんとかしてやらんでもない」

「本当か!! さすが救世主さまは話が分かるぜ!!」

 あまりの喜びからかルクスに抱きつこうとするトウラ、「こいつやっぱころしたろうかな」と言いたげな顔でかわすルクス。シオンはふぅ、と息を吐いた。

「ちょい集合」

「なに?」

「どうしたの?」

 シュートがシェロ、シオンの二人を呼ぶ。ナイショ話の構えだ。

「今の見たら分かると思うけど、トウラはテンション上がるとあんなになるから注意な」

「確かに……めんどくさそうね」

「シュート、どんな時ああなるの?」

「……はじめてここに来て酔ったときはそりゃあ、もう。……思い出したくもないよ。それにここの酒、度数が高いんだよ。それで俺もあんなになってさ……はぁ」

「それは……ご愁傷様ね」

「大変だったね……」

 シュートがいちいち集合かけてトウラの生態を伝え終えたところで、シェロが重大なことに気づいた。そう、彼が仲間になるというのなら、ぜったいに無視できない問題が。

「あの人、どこに乗せようかしら」

「「あっ」」

 そう、移動手段である飛行機の問題である。ただでさえ無茶して四人してここまで飛んできたというのに。

「シオン、あなた彼の……ルクスの膝の上でもへいき?」

「………最終手段だね」

 シュートはシオンが一瞬表情が青ざめたのに気づいた。想像してしまったのだろう。しかし気持ちは分かるので責められなかった。代わりにからかうことにした。

「シェロの、だったらよかったのにな〜シオン?」

「……なっ何を言うんだよシュート!!」

「悪い悪い。ジョークだってジョーク」

「え、そうだったの? てっきり抱えたまま操縦しろって言うのかと思ったわ」

「「………」」

 二人はその言葉に閉口し、互いに顔を見合わせ、諸手をあげて、「だめだこりゃ」と心の中でやりあった。わりかし兄弟のようだった。もちろん地球産まれのジェスチャーであるため、ヒューマニー産まれ、ヒューマニー育ちのシェロはハテナ顔だった。

「でも、実際そこは問題だよな」

「まさか飛べる異能持ち、とかだったら? さっき使ってたの、魔法じゃないって言ってたし」

「ああそうだ魔法じゃない。あんな誰でも使えそうなのと一緒にしないでもらいたい」

「うおっびっくりした……あれ? トウラは?」

「ほれ」

 ルクスの指さした方には、何者かによってボコボコにされたであろうトウラの姿が!

「トウラに何しやがった!!」

「落ち着けシオン。たぶんトウラが暴力で何とかせねばならぬほど、ウザかっただけだ。そうだろ?」

「そのとおりだ。それと、そちらの話は聞いていたが心配ない。俺はお前等に同行するつもりなんてないからな」

「あなたさっき仲間になるって!」

「言ってないからな? あくまでも敵が同じ、とかそんなもんだ。あと、あいつは借りていくからな」

「……必要なことなんだな?」

 特に返事はせずに、踵を返し去ろうとするルクス。と、思いきや止まって何やら胸ポケットをごそごそやりだし、出したものをシュートへ投げた。
「おっと、……なんだよこれ」

「変装薬の製法だ。お前ならなんとか作れるだろう」

「……っ!? さんきゅーな!」

 ルクスは今度こそ去っていった。ボコボコのトウラをひきずりながら……。

「いいのかな、あれ」

「命が助かるんならいいんじゃない別に」

「それはそうとシュート、それ見せてもらえるかしら」

「ちょっと読んでみる。……あっ、あーーそういうこと」
「一人で納得せずに見せて欲しいんだけど」

「いや、シオン。これは俺の、俺にしかできない仕事だ。俺ひとりで行かせてくれ」

「大丈夫なの?」「大丈夫かしら?」

「あれ、俺そんなに頼りがい無かった?」

「ジョークだよ、シュート兄さん」

「ジョークよ、シュート」

「……お、おう! 兄貴に任せとけ!」

 サムズアップして走っていくシュート。残された二人に近づく影があった。気付いたシオンが反応する。

「どうしたんですか?」

「あぁ、お礼を言おうと思ったのだが言いそびれてしまってね。彼に感謝していたと伝えておいてくれませんか」

 声をかけてきた人物の腕には、先ほど人質にされていた子が抱かれている。親なのだろう。そしてその後ろに、申し訳無さそうな人が並んでいるのが見えた。

「えぇ、伝えておくわ」

「……お願いします」

 シオンはどうしたらいいか分からずに眼を泳がすことになったが、とんとんと肩を叩かれたの見やるとシェロからアイコンタクトが飛んでくる。民衆の方にちょこんと礼をして、夜蝶のジュリエットとの戦場を後にした。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「なんで直接お礼を言わないんだろうね」

「出会い頭に指名手配犯呼ばわりしたから気まずくなったんでしょう。……別に実害が無いなら気にしなくてもいい事なのにね」

「そう考えられるのはシェロだからだよ……」

「メルシー。褒め言葉として受け取っておくわ」

「うん、そうして」

 シオンとしては呆れ半分であった。転生者である僕の最初に出逢った人がシェロで無かったら、そう思うと本当にありがたかった。神に感謝……いや、地球の神に感謝したいぐらいの幸運というか。めぐり合わせって物なのだろうと思った。

「さーて、次はどこに行こうかしら」

「そっか、確かにあては無いよね。どうするの?」

「オウルニムス、探してみる?」

「……それでアッサリ見つかったら、預言者? としての、なんて言うの? ……凄さが弱くならない?」

「私だってさほど期待はしてないわ。でも、居たら……」

「居たら?」

「かの伝説の預言者から伝えられた道筋を辿る! ロマンがあるじゃない?」

 そう言ったシェロの咲いた花のような表情に思わず顔を背けてしまうシオンである。

「ん、どうしたのー? シオン?」

「なっなんでもないなんでもない! 西日が目にグサーってなっただけだから!」

「ふふっ、今の面白いわね。書くべきかしら?」

 どこからともなくメモ帳を取り出すシェロ。

「え!? えー……」

 シオンは止めようと思ったが、そう言えばシェロの目的って本を書くことだったっけと思い出して止めるのを止めた。真剣な人を邪魔するのは気が引けるシオンであった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 オウルニムスが居そうな所、なんなら昨日の宿の近くまで行ったりしたがやはり見つからず、それらしき目撃情報も無さそうだった。そんな風にうろちょろしている途中でシオンのお腹の虫が鳴り、それをからかうシェロという一幕もあった。二人してハンバーグを頬張る姿を見て「仲の良い兄妹ねぇ」と呟いた人が居たとか、居なかったとか。

 そして、紆余曲折を経て、自分たちの足を停めてあった場所まで戻ってきた。二人して狐に化かされたような気分でいる。なぜなら!


「借りたやつ、どこ行ったの」

 そう! 繁忙期だからとの理由でレンタル料ぼったくられたはずの単葉機が消えていた!

「えーと、ルノーから考えてあの機体の値段は………」

 ただでさえ色白なのに、より色を落として指折り数えて何かを考えこむシェロ。見ていられなくなって、残された複葉機に近づくシオン。すると、何かメモのような物が貼っつけられてるのが見えた。ちょいと背伸びをすると手に取れた。

「え、英語?」

 文字は全部アルファベットであった。英語が得意じゃなかっただろうと、何故か確信できるので眉をひそめる。しかし、よく見てみると読めるのだ。

「あ、コレローマ字じゃん。えーと、『ボロい方は借りてくぞ。』」

 誰かと考えるが、それほど難しい事でもない。すぐ分かる事だ。

「シェロ〜、持ってったのたぶんあの人だ!」

「200万アイロ? ……いやいや、そこまではしないはずよ。150万かしら……払えなくはないけど色々キツい……」

「持ってったのルクスだから大丈夫だよ!? お金の計算しなくていいから!」

 しゃがみこんでいたシェロの肩を揺らしながらシオンが言う。

「え、そうなんだ。……そうなの。なら心配いらないわね!」

「なんでそうなるのさシェロ」

「壊したら教会に請求すればいいからよ!」

「…………」

 二人が知り得る事ではないが、ルクスは別に教会に所属しているわけではなく、近くに現れた転生者案件をなんとかするために常駐してたような物なのだ。

 それを見越して誰かさんは「彼に頼ると良い」と言うような言い方をしたのだが、やはり二人には知る由もない。
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