決戦    後編(執筆者:横澤 青葉)

文字数 1,455文字

「……霧です」

「やっと、か」

やっと日が昇る。
そう、霧だ。

「集まる……皆、ここに集まる!」




「1時間で、意外と集まったわね」

シェロは少し驚いたように言う。 シオンからしてもそれはびっくりである。

「わたし、だいぶやったよね」

「お前はすげえなぁ」

リシュリューの黒いセーラー服のような服は赤い液体がこびり付いていた。

「俺、頑張ったわ」

「私も……!」

みんなの顔には安堵の表情が浮かんでいた。

「さぁ、みんな乗り込んで。 早く、霧が出ているうちに出るわよ」






戦艦の音と霧に紛れて巡洋艦がまず脱出、その後戦艦も逃げ切る、という作戦である。

「では」

「うん」

シオンは巡洋艦を指揮する人に手を振る。シオンはそのまま戦艦に乗り込んで行くはず──であった。


霧が。
晴れたのであった。

晴れない霧は無いのだが、予想以上に晴れるのが早い。

「……どうするの?」

シェロがシオンに不安そうに聞く。

「……戻ろう」

そう、1度島に戻るのだ。 このままでは戦艦も逃げきれなくなってしまう。
それ即ち、巡洋艦を見捨てる、という事だ。

「……戻ろう。」

シオンは戦艦の上で、俯きながら言った。

「帰ろう。……帰れば、また来れるんだから」




その後、巡洋艦が帰ってくることも、通信が来ることも、無かった──




「……英断だよ」

シオンは甲板でうずくまっていた。 24人を見殺しにしたのだもの。

「……ええ。あなたは悪くないわ。 大丈夫よ」

シェロの励ましも今は耳に入らない。 それほど、シオンの心は傷を負っていた。

「……あなたのはんだんは、にんげんてきには『ひじんどうてき』とののしられるかもっすが、わたしたち『ぐんじん』はちがいます」

リシュリューは言った。
とても、10代前半の女の子とは思えない言動である。

「……ひゃくにんの『つかえないにんげん』よりは『じゅうにんのつよいにんげん』をわたしはたすけます。 あなたはちがういみでにげたのはわかっていますが、わたしの『思考』はこんなかんじです」

「醜いけど、それが人間ね。 かわいい自分の身だもの」

シェロはそう言った。
彼には重すぎたのかもしれない。
しかし、後々の事を考えれば、いい教訓になるのかもしれない──






「今日……」

次の日も。
濃霧である。

「さぁ、今回は帰ろう」

「いや、俺達は残るぜ」

カーボベルとリシュリューはそう言った。

「な、なんでですか?」

「お前たちだけで逃げろ。 俺達には俺達なりの『落とし前』つけなきゃならんのさ」

「……そうですか」

シオンはそう言って、戦艦に戻り──

戦艦の外に銃用の弾薬を2キロほど置いていったのだった。

「……中々面白いやつだな。 俺達を見捨てないとは」

「まぁ、わたしたちのぐんたいのもんだいですから、もらってももうしわけないっすけどね」

リシュリューもそう言う。

戦艦は霧に紛れて出発するのを見ながらカーボベルは言った。

「『落とし前』……つけないと」

「そうっすね」

陸軍の残党がカーボベル達を囲む。
彼らは武器を構えて、言うのだった。

「『ラ・カサエル王国』騎士団長、カーボベル」

「同じくリシュリュー」

「「推して参る」」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み