その頃    前編《執筆者:亀馬    つむり》

文字数 1,642文字

木かげに座り、遠くをぼんやりと見ている。そんなシェロの視界の端に、誰かが近付いて来るのが見えた。

「なぁ、ノアどこ行ったか知らないか?」
「ノアなら、シュートといっしょに「え!?なんで声かけられて無いんだ俺!?」
「知らないわよ……」

落ち込むトウラ、呆れるシェロ。トウラがシェロの隣に座る。シェロはノアが言っていたことを思い出す。

「確か、調べ物がどうとか」
「俺はいらない子かよ……」
「疲れてるなら寝かしてやろう、とか言ってたみたいだったから、違うと思うけど?」
「なーんだ。てっきりノアのやつは俺のことボロクソ言ってるかと思ったぜ」
「あ、舌打ちはしてたかも」
「やっぱそういうやつだよなアイツは!」

シェロは思わず笑う。それに釣られるようにトウラも笑った。朗らかな風が吹いていた。ひとしきり笑って、トウラの顔が変わる。

「シオン、大丈夫かな」
「大丈夫、と思いたいけれど……」
「この世界でやっと会えた身内、だったんだよな。懐いてた、っていうか」
「そうね。和尚とシオンには二人の空気があった」

シェロとトウラはシオンと和尚が修行している時、食事している時、いろいろ教えてもらっている時、どんな顔を、声を、雰囲気をしていたかを思い出した。たしかに自分たちはシオンの仲間である、と思うけれど、それとは違う、別の関係でシオンと和尚が結ばれていたことは間違いなかった。

「ねぇトウラ」
「何?」
「家族を亡くしたことってある?」
「……無いな。両親もおじいちゃんおばあちゃんも元気そのものだったし、兄弟もみんな風邪知らずって感じだしな」
「そうなのね。じゃあ貴方も頼りにはできないわね」
「待ってなんで俺をdisるキャンペーンが始まってんの」
「でぃす…?なんて言ったの?」
「あーー、なんで突然俺をバカにするようなこと言うの?」

シェロは小首を傾げた。トウラは心臓を押さえたくなった、が、怪しまれるのはイヤなのでどうにか堪えた。シェロはトウラの発言の意図をようやく掴んだらしく、なるほど、と言わんばかりに説明する。

「言い方が悪い、とは思うんだけど。もしトウラに身近な人をなくして、立ち直った経験があったら。……今のシオンもなんとかしてあげられるんじゃないかって」
「なるほどなぁ……」

トウラは頭の後ろに手を組んで、空を見上げた。シェロもトウラの視線を追って空を見た。

「飛びたいなぁ……」
「それな〜」
「?」

シェロはトウラの方を見る。

「いや、ホラ。俺、竜だったじゃん?」
「あぁ、そういうこと。トウラも飛ばせる人だったっけって思ったわ」
「ホントのところさ、空を飛ぶのめっちゃ楽しかったんだよね」
「そうよね!空はイイわよね!」
「お、おう……あー、命に別状無かったら竜を手放したりしなかったんだけどなぁ」

急に立ち上がったシェロに驚きながらも、なんとなく思っていたことを呟くトウラ。

「じゃあ、飛ぶ?」
「おう!……って言いたいところだけどなぁ」
「さすがに、ね」
「どうせならシオンが元気になってからって感じだよな」

「……ねぇ!シオン見なかった!?」「もういいだろ……?」
「あら、フリージアにアザミじゃない」
「シオンもどっか行ったのか?」

トウラとシェロは思わず顔を見合わせ、皆どっか行ってるなと笑った。フリージアは二人の様子を不思議に思いはしたが、それよりもシオンの行方だった。

「シオン、教会行ってからどこかに行ったみたいなんだけど……」
「私は今日はシオンに会ってないわ。トウラは?」
「俺もだな。情けないんだけど、何言ったらいいか分からなくて、会いそびれててなぁ」
「それで良かったんじゃない。シオン、ボクに掴みかかったんだ」
「アザミ、それはシオンは心がいっぱいいっぱいだったからで……」

アザミの発言にまさかと思った矢先にフリージアが言ったことで、どうやらシオンがアザミに掴みかかったらしい、と二人は悟った。
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