計画 後編(執筆者:市川 雄一郎&かーや・ぱっせ)
文字数 3,457文字
着いた場所では、美味しい空気がシオンたちを迎えてくれた。そこでは――空の上では見えなかったが、露店がひしめき合っており、老若男女問わず人が集まっていた。
「ここはね、トランという村なの」
「トラン? ……ルイドじゃなくて?」
「そう。この村を通るしか、ルイドへ行く方法がないの」
シェロが言うには、ルイドの村は山や崖に囲まれており、戦闘機や航空機はもちろん、どんな乗り物を駆使してもたどり着くことが出来ない――まさに「辺境」という言葉がぴったりな村だという。
「とにかく、簡単にはルイドに行けないんだね」
「そういうわけだから、どうやってここからルイドへ行けるか、今から調べるわよ」
「あれ? シェロ、行く方法知らないの?」
「実は私、「行く方法がある」って聞いたことがあっただけで、詳しい方法は分からないの。ごめんなさい、シオン」
「いやいや、謝らなくていいよ。とりあえず一緒にルイドへ行く方法を聞いて回ろ……!?」
シオンが聞いて回ろうと言おうとした瞬間、シェロがシオンの唇の前に人差し指をかざした。指をかざすシェロの顔つきは険しい。
「シオン、喫茶店での話、忘れたの? 転生者の話をしたらあなたが大変なことになるのよ。しかも、トランの人々は皆、転生者が少しでも集まっているルイドの村を嫌っているの。だから、ぜーったいに聞いちゃダメ」
「そ……そうだった。ごめんなさい」
「いいえ。――そういうことだから、ルイドへ無事たどり着くために、しっかり計画 を立てていかなくちゃ」
◆◆◆◆◆◆◆◆
シオンとシェロはルイドへ行くための計画を立てるため、まず、村の中を下見しよう、ということになった。しかしいくら回っても、ルイドへ行けるような抜け道などは見つからなかったのだ。
「シェロ……本当は他の村からじゃないの?」
「いいえ。ここからしかルイドへ行ける方法はないわ。よく探して」
その時、シオンは閃いたのである。
「シェロ……子供なら、行けると思う」
「え?」
「だって子供ならよく遊ぶから怪しい場所を知っているかもしれないし、そもそも転生者のことやルイドのことはそんなに詳しくないはずだと思うから……」
「……それは良いわね。そうしましょう!」
シオンの発案から子供に聞くという作戦が計画され、すぐに実行された。そして2人は、親が同伴してなさそうな子供をターゲットに村内を回ることに決めたのだ。
「あ、君達!!」
シオンはまず、公園にいた男の子2人を見つけ、質問するために声をかけた。しかし、不意に声をかけてしまったため、子供達は――相当驚かせてしまったみたいだ――シオンから一歩離れると、疑心にあふれた目でこちらを見てきた。
「驚かせてごめんね。道を聞きたいんだけど、いいかな?」
警戒中の子供達が顔を合わせる。
「……道を教えるくらいなら、いいんじゃないかな」
「うん。僕もそう思う。――お兄ちゃん、どこに行きたいの?」
「ありがとう。ここから隣の村へ行けるらしいんだけど、君達は知ってる?」
「隣の村? さあ……俺は知らないよ」
「僕も知らないや……あ。そういえば他の子が、村をうろうろしていたら変な地下道に迷い込んだって言ってたよ」
「変な地下道!? 多分それだよ! ありがとう!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
しかし、そのあとからシオンは、公園で会った男の子2人以上の情報を得られずにいた。
「はあ……困ったなあ……」
「シオンー!」
「あ、シェロ! どう? ルイドの村は見つかった?」
「いいえ。シオンは?」
「変な地下道があるって話が聞けたんだけど、その道の手がかりがなくて――」
「そう……」
「あーあ。このまま見つからなかったらどうしよう――」
「シオン、諦めたら一生ルイドへ行けないわよ。「地下道がある」なんて情報、私達にとっては大きな手がかりだわ。あとは、君がその話を信じて、根気よく探し続けられるか、それだけよ」
「根気よくかあ……そうだね! 僕、もう一度隅から隅まで探してみるよ」
「その調子よ。私もシオンには負けられないわね」
シェロのアドバイス通り、根気よく聞き続けて数時間。シオンは村の集会所らしき建物の前で、ある男の子に声を掛けたのである。
「ねえ、君! 突然ごめんね。お兄ちゃん、隣の村へ行きたいんだ。地下道があるらしいんだけど、君は知ってる?」
「うーん……隣の村へ行くかどうかは分からないけど、妹が変な扉を見つけたって言ってたよ」
「変な扉?」
「そう。その話をお母さんにしたら妹のやつすごく怒られたの。「その扉のことは早く忘れなさい」ってね」
「(……その扉のことは忘れなさいか)」
シオンはその扉がルイドへ行く道と確信したのである。そして男の子に扉の場所を聞き出そうとするとなんと、母親が現れたのだ。
「こら! 知らない人に話しかけちゃダメでしょ!」
「だってお母さん……この人隣の村に行きたいって……」
「(あ!! うわあ……言っちゃったよこの子!)」
なんとシオンが隣の村に行きたいことを男の子は母親に言ってしまったのだ。すると母親の目付きが鋭くなり口調もドスを利かせてはシオンを睨み付けた。
「あなた……息子に何を聞いているのかしら……」
「あ、えっと……本当は僕の――僕の母親が転生者に殺されて、その人が隣の村に逃げたって聞いたんです。だからどうしても復讐してやりたいって気持ちが――そう! 僕、隣の村に行って、転生者に復讐したいんです!」
シオンはとっさにごまかしたが信じてもらえないだろうなと思っていた。
しかし、予想とは反して母親の目付きは落ち着いた感じになり口調も優しくなった。
「……それなら、私が教えるわ。村の奥に酒場があって、そこの横にはしごがあるの。それを下りたら扉があるから、入って地下道を進むと辿り着けるわよ、可愛そうに……こんな小さな子の母親を殺すだなんて」
「あ……ありがとうございます! これで母親の仇を討ちにいけます!」
そして去っていく親子にシオンは何度も何度も頭を下げ、そうしている内にすぐにシェロがやって来たのである。
「あらシオン、そんなに頭を下げて、どうかしたの?」
「シェロ……! さっきたまたま、子供のお母さんから道を教えてもらったんだ! 村の奥の酒場の横に、下りるはしごがあって、それを下りたら地下道に行ける扉があるんだって!」
「本当!? よくやったわシオン! 早速酒場に向かいましょ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
男の子の母親が教えてくれた道程を頼りに村を歩いた結果、2人はついに、扉の前にたどり着くことができた。
「やっと見つけた……!」
「いよいよね。さあシオン、自分の手で扉を開けるのよ」
「うん!」
ふたつ返事でシオンは扉のノブに手をかける……のだが。
「あれ? ……あれ!? 変だなあ、どうしてだろう――」
「何を遊んでいるのシオン?」
「遊んでなんかいないよ! 開かないんだ、この扉」
そう。シオンがどんなに力を込めても、扉はびくともしないのである。シェロも試しに扉を開けようとしてみたものの、シオンと同じ結果が待っていたのだった。
「おかしいわね。鍵でもかけているのかしら。」
「でも、以前に子供が……って、あれ?」
シオンは足もとを見ると鍵が落ちていたのである。そして鍵を拾うとそれを鍵穴に入れた。
「まさかこれが鍵だったとかいう展開なんてあるはずが……って開いた!?」
「まあ、なんて偶然。……とにかく進みましょ、シオン」
扉を開けると、子供の母親が言っていた通り、地下道が待っていた。2人は意を決して足を踏み入れる。
「少し暗いね」
「ええ。でも道が一本しかない地下通路だから迷わずに済むわ」
「あ、出口が見えた!」
少し歩くと光が見えてきたので先に進むと外に出たのだ。そこは周りが崖に囲まれていて鉄筋のプレハブ小屋みたいな建物が並んでいた。
「シェロ……ここが……」
「ええ。ルイドの村よ。おそらくあなたの仲間がいるはずだわ」
――シオン達はついにルイドに到着した。
この村に同じ転生者の集団がいる……そう思うとシオンは仲間が近くにいるという気持ちからか少し安堵を感じるのであった。
「ここはね、トランという村なの」
「トラン? ……ルイドじゃなくて?」
「そう。この村を通るしか、ルイドへ行く方法がないの」
シェロが言うには、ルイドの村は山や崖に囲まれており、戦闘機や航空機はもちろん、どんな乗り物を駆使してもたどり着くことが出来ない――まさに「辺境」という言葉がぴったりな村だという。
「とにかく、簡単にはルイドに行けないんだね」
「そういうわけだから、どうやってここからルイドへ行けるか、今から調べるわよ」
「あれ? シェロ、行く方法知らないの?」
「実は私、「行く方法がある」って聞いたことがあっただけで、詳しい方法は分からないの。ごめんなさい、シオン」
「いやいや、謝らなくていいよ。とりあえず一緒にルイドへ行く方法を聞いて回ろ……!?」
シオンが聞いて回ろうと言おうとした瞬間、シェロがシオンの唇の前に人差し指をかざした。指をかざすシェロの顔つきは険しい。
「シオン、喫茶店での話、忘れたの? 転生者の話をしたらあなたが大変なことになるのよ。しかも、トランの人々は皆、転生者が少しでも集まっているルイドの村を嫌っているの。だから、ぜーったいに聞いちゃダメ」
「そ……そうだった。ごめんなさい」
「いいえ。――そういうことだから、ルイドへ無事たどり着くために、しっかり
◆◆◆◆◆◆◆◆
シオンとシェロはルイドへ行くための計画を立てるため、まず、村の中を下見しよう、ということになった。しかしいくら回っても、ルイドへ行けるような抜け道などは見つからなかったのだ。
「シェロ……本当は他の村からじゃないの?」
「いいえ。ここからしかルイドへ行ける方法はないわ。よく探して」
その時、シオンは閃いたのである。
「シェロ……子供なら、行けると思う」
「え?」
「だって子供ならよく遊ぶから怪しい場所を知っているかもしれないし、そもそも転生者のことやルイドのことはそんなに詳しくないはずだと思うから……」
「……それは良いわね。そうしましょう!」
シオンの発案から子供に聞くという作戦が計画され、すぐに実行された。そして2人は、親が同伴してなさそうな子供をターゲットに村内を回ることに決めたのだ。
「あ、君達!!」
シオンはまず、公園にいた男の子2人を見つけ、質問するために声をかけた。しかし、不意に声をかけてしまったため、子供達は――相当驚かせてしまったみたいだ――シオンから一歩離れると、疑心にあふれた目でこちらを見てきた。
「驚かせてごめんね。道を聞きたいんだけど、いいかな?」
警戒中の子供達が顔を合わせる。
「……道を教えるくらいなら、いいんじゃないかな」
「うん。僕もそう思う。――お兄ちゃん、どこに行きたいの?」
「ありがとう。ここから隣の村へ行けるらしいんだけど、君達は知ってる?」
「隣の村? さあ……俺は知らないよ」
「僕も知らないや……あ。そういえば他の子が、村をうろうろしていたら変な地下道に迷い込んだって言ってたよ」
「変な地下道!? 多分それだよ! ありがとう!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
しかし、そのあとからシオンは、公園で会った男の子2人以上の情報を得られずにいた。
「はあ……困ったなあ……」
「シオンー!」
「あ、シェロ! どう? ルイドの村は見つかった?」
「いいえ。シオンは?」
「変な地下道があるって話が聞けたんだけど、その道の手がかりがなくて――」
「そう……」
「あーあ。このまま見つからなかったらどうしよう――」
「シオン、諦めたら一生ルイドへ行けないわよ。「地下道がある」なんて情報、私達にとっては大きな手がかりだわ。あとは、君がその話を信じて、根気よく探し続けられるか、それだけよ」
「根気よくかあ……そうだね! 僕、もう一度隅から隅まで探してみるよ」
「その調子よ。私もシオンには負けられないわね」
シェロのアドバイス通り、根気よく聞き続けて数時間。シオンは村の集会所らしき建物の前で、ある男の子に声を掛けたのである。
「ねえ、君! 突然ごめんね。お兄ちゃん、隣の村へ行きたいんだ。地下道があるらしいんだけど、君は知ってる?」
「うーん……隣の村へ行くかどうかは分からないけど、妹が変な扉を見つけたって言ってたよ」
「変な扉?」
「そう。その話をお母さんにしたら妹のやつすごく怒られたの。「その扉のことは早く忘れなさい」ってね」
「(……その扉のことは忘れなさいか)」
シオンはその扉がルイドへ行く道と確信したのである。そして男の子に扉の場所を聞き出そうとするとなんと、母親が現れたのだ。
「こら! 知らない人に話しかけちゃダメでしょ!」
「だってお母さん……この人隣の村に行きたいって……」
「(あ!! うわあ……言っちゃったよこの子!)」
なんとシオンが隣の村に行きたいことを男の子は母親に言ってしまったのだ。すると母親の目付きが鋭くなり口調もドスを利かせてはシオンを睨み付けた。
「あなた……息子に何を聞いているのかしら……」
「あ、えっと……本当は僕の――僕の母親が転生者に殺されて、その人が隣の村に逃げたって聞いたんです。だからどうしても復讐してやりたいって気持ちが――そう! 僕、隣の村に行って、転生者に復讐したいんです!」
シオンはとっさにごまかしたが信じてもらえないだろうなと思っていた。
しかし、予想とは反して母親の目付きは落ち着いた感じになり口調も優しくなった。
「……それなら、私が教えるわ。村の奥に酒場があって、そこの横にはしごがあるの。それを下りたら扉があるから、入って地下道を進むと辿り着けるわよ、可愛そうに……こんな小さな子の母親を殺すだなんて」
「あ……ありがとうございます! これで母親の仇を討ちにいけます!」
そして去っていく親子にシオンは何度も何度も頭を下げ、そうしている内にすぐにシェロがやって来たのである。
「あらシオン、そんなに頭を下げて、どうかしたの?」
「シェロ……! さっきたまたま、子供のお母さんから道を教えてもらったんだ! 村の奥の酒場の横に、下りるはしごがあって、それを下りたら地下道に行ける扉があるんだって!」
「本当!? よくやったわシオン! 早速酒場に向かいましょ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
男の子の母親が教えてくれた道程を頼りに村を歩いた結果、2人はついに、扉の前にたどり着くことができた。
「やっと見つけた……!」
「いよいよね。さあシオン、自分の手で扉を開けるのよ」
「うん!」
ふたつ返事でシオンは扉のノブに手をかける……のだが。
「あれ? ……あれ!? 変だなあ、どうしてだろう――」
「何を遊んでいるのシオン?」
「遊んでなんかいないよ! 開かないんだ、この扉」
そう。シオンがどんなに力を込めても、扉はびくともしないのである。シェロも試しに扉を開けようとしてみたものの、シオンと同じ結果が待っていたのだった。
「おかしいわね。鍵でもかけているのかしら。」
「でも、以前に子供が……って、あれ?」
シオンは足もとを見ると鍵が落ちていたのである。そして鍵を拾うとそれを鍵穴に入れた。
「まさかこれが鍵だったとかいう展開なんてあるはずが……って開いた!?」
「まあ、なんて偶然。……とにかく進みましょ、シオン」
扉を開けると、子供の母親が言っていた通り、地下道が待っていた。2人は意を決して足を踏み入れる。
「少し暗いね」
「ええ。でも道が一本しかない地下通路だから迷わずに済むわ」
「あ、出口が見えた!」
少し歩くと光が見えてきたので先に進むと外に出たのだ。そこは周りが崖に囲まれていて鉄筋のプレハブ小屋みたいな建物が並んでいた。
「シェロ……ここが……」
「ええ。ルイドの村よ。おそらくあなたの仲間がいるはずだわ」
――シオン達はついにルイドに到着した。
この村に同じ転生者の集団がいる……そう思うとシオンは仲間が近くにいるという気持ちからか少し安堵を感じるのであった。