トウラの力    後編(執筆者:金城 暁大)

文字数 855文字

「宿が取れたわ。行くわよ」
「本当!? 大丈夫だったんだね!」
「ふふふ、まぁね」

 意味深な笑みを浮かべるシェロに、シュートが食ってかかる。

「おいおい、もしかして女の武器を使ったって訳か? まぁ、シェロは美人だからなぁ――」
「メルシー。でも、舐めないでちょうだい。こう見えても私、節度はあるのよ」

 シェロの一喝に、シュートは苦虫を噛み潰した様な顔をした。そのシュートの背中を見るトウラがニヤニヤとしている。

「さあ、中に入るわよ。暖かいベッドが待ってるわ」

 その時だった。


「出てけ! この死に損ないが!」


 突如、店から怒鳴り声が聞こえたかと思うと、店から転がり出る様に1人のみずほらしい老人が店から出てきたのだ。
 そして、その老人の持ち物と思われる長い杖が、外に放り出された。

「二度とこの宿に来るんじゃねぇ!」
「後生です! どうか、今夜だけでも……わずかでも良いんです。食事と寝床を恵んで下さい!」
「うるさい! お前みたいな薄汚い浮浪者が、この店に来ると迷惑なんだよ!」

 それだけ言うと、店主らしい男は老人を蹴飛ばした。
 だが、シェロと目が合うと男は一変。腰を低くしながらこちらに近付いてきた。

「これはカロリアーナ様! とんだお恥ずかしい所をお見せしてしまいましたね! 申し訳ありません。
 ――おや、ご一行様も一緒ですか! ようこそ! 宿ロップルへ!」

 にへらと笑顔を作る男の様子は、シオンが見ても「態度が違う」ことは明らかだった。
 そこで、すかさずシェロがシュートに耳打ちする。

「あの宝石はあとどれくらい残ってる?」
「ん? まぁ残ってるっちゃ残ってるが……あんまり数は無いぞ?」
「それを全部私に貸してくれない? 利息付きで返すわ」
「え? なんでそんな――」
「良いから!」

 シュートは意味が分からず、宝石の入った袋をシェロに手渡した。するとシェロは、宝石の入った袋を店主に渡してこう言ったのだ。

「あのご老人も、私の同伴者にします」
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