嵐の前の静けさ《執筆者:鈴鹿 歌音》
文字数 2,573文字
ヒマリたちは、イザベラの屋敷の温泉に
「あぁ~、極楽極楽」
ハートがおばあちゃんみたいな事を言っているのを聞いたヒマリは、ハートに抱きついた。
「どうしたの、ヒマリ」
「何か、あたしのお祖母ちゃんみたいな事言っているなぁ、と思って懐かしくなったの」
「ヒマリには、家族がいるのよね?」
ヒマリは、表情を曇らせ、首を横に振る。
「あの日、災害が起きた時にみんな死んじゃった。お兄ちゃんもあの日、一緒にいたけどはぐれちゃった」
「ヒマリ、そんな表情しないの。あなたにはやるべき事があるでしょ。今は、それを成し遂げないといけないわ。その先にきっとあなたのお兄さんはいると思うわ」
ハートの言うことは何でも正しい。ヒマリは、ハートといるのが好きだ。仲間が増えるともっと嬉しい。ヒマリは、再びハートに笑顔を見せた。
「何か変な事言ってごめんね、ハート。あたしは大丈夫だから」
「それならよかったわ。それに、シフォンもそんなところに隠れてないでこっちに出てきなさいよ」
ハートは、シフォンが隠れているであろう岩場に向かって話しかけた。
すると、シフォンからも返答がある。
「出ていくって裸をさらけ出すって事ですよね?」
「そうよ。もうシフォンの裸は見ちゃったから遅いわよ。胸が大きいの
ハートは、自分のスレンダーな体つきを見て1人で落ち込んでいる。
「ハートの胸は、あたしのよりは大きいから大丈夫だよ。誰も胸の大きさで選んだりなんかしないから」
「ヒマリは優しいわね。私、ヒマリに出会えて良かったわ。シフォンにも出会えて良かった。私は、幸せ者ね」
ヒマリたちは、一夜の温泉を楽しむのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
温泉から上がり、ヒマリたちは用意された部屋に行った。そこには、4人部屋なのか2段ベッドが2つ備え付けられており、テーブル1つと人数分の椅子が置かれていた。それ以外にヒマリは、家族が写った大きな写真が飾られているのを見つけた。
「そういえばイザベラ、家族の話しなかったよね? どうしてだろう?」
「それは分からないわ。もしかすると今はもう生きていないのかもしれないわね」
ハートの言った言葉にヒマリは言葉を失う。ハートの言った言葉にシフォンが口を挟む。
「人の命は美しくも儚いものです。だから、イザベラさんは話さなかったのでしょう。
「そうね。シフォンの言うとおり今は休むのが良いわね。ヒマリももう寝なさい」
ヒマリは、2段ベッドの上に上がり、温かい布団を被る。が、なかなか眠れない。シフォンの寝息が
ヒマリは何度も寝返りをうった。ヒマリの下のベッドで眠っているハートに申し訳ない、と思いながら。
その時、優しい歌声が部屋に響き渡った。
誰の歌声なんだろう、と考える。お母さんの歌声に似ていて落ち着く。
ようやく、睡魔が訪れたヒマリはそのまま意識を歌声に預けた。
……………………。
「……あれ……ここはどこ?」
ふと目を開けたヒマリは真っ白な空間にいた。
「あたしは、イザベラ・キャンプにいたはずなのに……」
どこまでも続く白の領域に、ヒマリは恐怖を覚える。
「ハート? シフォン? イザベラ? ねぇ、どこにいるの?」
辺りを見回してもハートやシフォン、イザベラの姿は見当たらない。まるで、世界でひとりぼっちにされてしまったようだ――。
「あたし、
「ヒマリ――」
その時、懐かしい声と共に、目の前に1人の少年が現れた。
その面影は、ヒマリの記憶の中にある大好きなあの人にそっくりだった。
「……お兄、ちゃん?」
「ヒマリ、迎えに来たよ」
ヒマリは、懐かしい双子の兄を前にして涙を浮かべる。ここまでの武勇伝を語らいたい、とヒマリは兄に抱きつこうとした。
しかし、それが出来なかった。ガラスが飛び散るかのように兄の姿が砕け散ったのだ。それと同時に世界は暗転し、ヒマリのみ取り残される。
「い……いや……お兄ちゃん。どうして……」
その場に座りこみ、涙を流すヒマリを
「お兄ちゃん……。あたし、どうしたら……」
「……マリ、……て」
暗転した世界に手を差し伸べるかのように声が聞こえる。
「誰?」
「……から……きて」
この声は、聞き覚えのある声――。
ハートだ。ハートの声だ。
「ハート?」
「……変な事に……なってるの」
聞き取れる所と聞き取れない所がある。夢の中で発生しているノイズのせいだ。ヒマリは、耳をすませ、ハートの声を聞き取ろうとした。
「ヒマリ、起きて!! 敵襲よ!! 今、あなたは何者かの贈り
敵襲?
ヒマリの頭の中はぐちゃぐちゃになってしまう。早く起きないと……。でも、どうやって?
焦りと混乱が芽生える。
ヒマリは、辺りを見回すと光が射し込んでいる小さな穴を見つけた。そこから声が聞こえる。不思議とヒマリは、恐怖を感じることはなかった。
ヒマリの意識は、徐々に浮上していく。この夢は無かった事には出来ない。