ムルアハ伝説(執筆者:KAZU)
文字数 3,125文字
「オイ! トウラ! 起きろ! 朝だ!」
今日も教会の朝は騒がしい。ノアはトウラを起こしにかかっている。
「んや~、もう少し寝かせてくれ~」
「ダメだ! 早く起きろ!」
「やめろ~」
ノアはトウラの布団をめくって無理やり起こそうとする。トウラは布団を持ってそれに抵抗している。しかし、結局トウラは簡単に布団から引きはがされたのだった。
そして、朝食のあと、今後の方針を話し合うことになった。朝食時にノアに呼ばれたのは、シオン、シュート、トウラ、アザミ、司教だ。司教には司教の仕事があるのだが、彼もまた、周辺の情報を持っているので、参加することになった。そして、少女、フリージアはまだ目を覚まさない。
「本題に入ろうか」
ノアが前に出て口火を切る。
「まずは昨日の遺跡のことからだ」
「遺跡ですか?」
「まず、ガキ、お前がこの前村で収集した情報を話してくれ」
と、ノアが言ったが返事がない。するとノアがシオンの至近距離まで来て大声で指をさした。
「何ボーッとしてるんだ!! お前だお前!!」
「え!? すみません、ガキは隣にもいるから」
「そいつはアザミだ」
アザミはアザミと呼ばれるらしい。シオンだけガキと呼ばれるのは不公平な気もするが、今の議題はそこではない。
「ガキ、時間がないから早く話せ」
「わかりました。僕が聞いた話だと、遺跡は突然現れたり消えたりするもので、その遺跡はある一族が管理をしていたそうです。その一族はすでに途絶えていて、一族は拷問されたりして殺されたようです」
「誰だよそんなことをするのは」
「文明が発展した人間です」
「……っ、文明が発展するとだんだん欲が出てくるからな」
「性欲か?」
「お前は黙ってろ!」
「って、オイ!」
トウラとシュートは漫才のような掛け合いを始めたが、空気が微妙になった。今は笑いはいらないのだ。ノアはシオンに話を続けさせようとする。
「続けろ」
「はい。そういえば、話を聞いたおじいさんから最後に言われたのですが、一族の血縁らしき人がいれば匿ってくれと」
「アザミはその一族の血縁なのか?」
「……わかりません」
「じゃあ、次だ。司教、これについて知っていることを話せ。わからないとは言わせないからな?」
鋭い水灰色の目で睨まれた司教は、状況を理解して、少し頷いた後、話し始めた。
「先程、シオン君の話した事に付け加えたいのですが、遺跡を管理していた一族は殺されたんですが、無理のない話です」
司教は、低いトーンで、かつ強い口調でそう話す。
「遺跡を守る、という名目だけではなく、実はそれ以前は強国を持っていまして、そこの出の一族です」
「強国があったのか?」
「ええ、場所はわかりませんが。聖職者の間で俗にいう『ムルアハ伝説』です」
「「「 ムルアハ伝説? 」」」
シオン、シュート、トウラは驚き、声を合わせてその単語を聞く。
「変な名前だな」
「強国は別の民族に征服されたんですが、遺跡の方も「ムルアハ国は贅沢だ」と、人間たちの係争の地になっていったのです。その過程ののち、遺跡が消えたと言います」
「なぜ消えた?」
「それが不明なんです。聖職者の間でも研究している人は誰一人いませんし」
「昔、遺跡の周辺で争いがあったなら、その怨念で消えたのか?」
「それはありません。怨念ではなく、誰かが意図的に消したんだと思われます」
「誰だ?」
「それは分かりませんし、分かるのならその少年が話しているはずです」
「アザミは「教えない」と言っているからな秘密な以上、自分たちで見つけるしかないな」
「また謎が増えたのか……」
落胆する一同。このところ、謎が増えるばかりだ。頭が混乱する。すっきりさせたい。
「オイ、落ち込んでる暇はないぞ。それで、早い話になるがこれからどこへ行くべきかだ」
「でも、それは今話す必要があるのか」
「オイ、謎はほかにもいろいろあるんだぞ?ダビデの鍵や神聖櫃も探さなけりゃいけないだろう」
「それにしても、道具が多いよな」
「って2つだけだろうが……」
と、文句みたいな事を言うトウラにシュートは突っ込みを入れる。
「とにかくだ、周辺のことを教える。どこに行くかはお前らで判断しろ」
と言って、ノアは地図を広げる。決めろと言われても困る。そんな不穏な空気がその場に流れる。だが、まずは周辺の情報を手に入れなければ何も分からない。
「まずは北、大きな川を超えたら開拓地と呼ばれる場所に到達する」
地図では、真ん中より右上の部分に、割と線が込み入った部分がある。ノアはそこを指している。これが開拓地の都市群になる。
「この南がブルーマウンテンズだ。ピーク王国はブルーマウンテンズの山麓に位置している」
「それにしてもすごい場所にあるな」
ピーク王国はブルーマウンテンズの上にある。トウラはそんな場所には到底行けないだろうと思った。
「ああ、こんな山を登った奴はほとんどいないと言われている。登るなら相当の覚悟が必要だろう」
やはり、ピーク王国にすぐに行けないという空気が場に流れる。
「南は未開拓地と言われている。何もない場所が多いという。でも大国『ムルアハ国』はこのエリアにあったといわれているぞ」
「じゃあ、なんで今未開拓地なんだよ?」
「人間が土地を見捨てて発展している方へ流れた。ただそれだけだ」
ただ、というには無情な理由だが、現に南側は何もないという。
「あとはあまりお勧めしないが、西と東だ。理由は説明しない」
西は奈落の底、東は大森林なのだが、理由を割愛されたら考えるのが難しい。
「妹はメルフェールにいます。西の奈落の底の先には行けるのでしょうか?」
「分かってる。お前は直接西に行こうとしそうだからな。ダビデの鍵が必要なのは分かっているだろう。それを探さなければならないだろ」
「で、どこへ行けばいいんですか」
「だからそれはお前らで決めろといっただろうが」
一行は困った。ヒマリはメルフェールにいる。そのためにはダビデの鍵が必要だ。その他には何をするべきか。情報収集か?シオンの思想は塞ぎ込んでいく。
「情報収集は開拓地一帯で行うのがいいな。ただ、行く場所はシェロが戻ってきてから考えよう。地勢については理解した」
少し強引だが、この話は終わった。間髪入れず、ノアが次の話題を出す。
「で、修行の方はどうする? シオン、トウラ。手ごたえはあるのか?」
「俺のことはもう解決しただろう」
「僕は行き詰ってます――詠唱文が思い出せなくて」
こんなことを言うとやる気がないのか、などと思われてしまう。トウラはともかく、シオンは今修行で一番困っていることを正直に告白し、指示を仰いだ。
「転生者は記憶を持たなくなることがある。まさか、シオンもそれなのか?」
「そうだな」
「やはりクズ神の仕業か?」
「どういうことだ?」
「シオンの詠唱を使わせたらすぐ倒されるだろう、だからだ。クズ神がその異能を封印したんだろう」
「ああ、そうか!」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「つまり奴が都合の悪い記憶だけを抜け落としている。それに関係する物があれば……」
「詠唱分が思い出せる。それは神聖櫃なんですか」
「それは分からない。そのためにもシオンには修行をやってもらう」
「俺はもういいな」
「お前もやるんだよ!」
ノアは、やる気のないような発言をするトウラを見逃さず、こうして、この話し合いは修行へと持ち越された。
今日も教会の朝は騒がしい。ノアはトウラを起こしにかかっている。
「んや~、もう少し寝かせてくれ~」
「ダメだ! 早く起きろ!」
「やめろ~」
ノアはトウラの布団をめくって無理やり起こそうとする。トウラは布団を持ってそれに抵抗している。しかし、結局トウラは簡単に布団から引きはがされたのだった。
そして、朝食のあと、今後の方針を話し合うことになった。朝食時にノアに呼ばれたのは、シオン、シュート、トウラ、アザミ、司教だ。司教には司教の仕事があるのだが、彼もまた、周辺の情報を持っているので、参加することになった。そして、少女、フリージアはまだ目を覚まさない。
「本題に入ろうか」
ノアが前に出て口火を切る。
「まずは昨日の遺跡のことからだ」
「遺跡ですか?」
「まず、ガキ、お前がこの前村で収集した情報を話してくれ」
と、ノアが言ったが返事がない。するとノアがシオンの至近距離まで来て大声で指をさした。
「何ボーッとしてるんだ!! お前だお前!!」
「え!? すみません、ガキは隣にもいるから」
「そいつはアザミだ」
アザミはアザミと呼ばれるらしい。シオンだけガキと呼ばれるのは不公平な気もするが、今の議題はそこではない。
「ガキ、時間がないから早く話せ」
「わかりました。僕が聞いた話だと、遺跡は突然現れたり消えたりするもので、その遺跡はある一族が管理をしていたそうです。その一族はすでに途絶えていて、一族は拷問されたりして殺されたようです」
「誰だよそんなことをするのは」
「文明が発展した人間です」
「……っ、文明が発展するとだんだん欲が出てくるからな」
「性欲か?」
「お前は黙ってろ!」
「って、オイ!」
トウラとシュートは漫才のような掛け合いを始めたが、空気が微妙になった。今は笑いはいらないのだ。ノアはシオンに話を続けさせようとする。
「続けろ」
「はい。そういえば、話を聞いたおじいさんから最後に言われたのですが、一族の血縁らしき人がいれば匿ってくれと」
「アザミはその一族の血縁なのか?」
「……わかりません」
「じゃあ、次だ。司教、これについて知っていることを話せ。わからないとは言わせないからな?」
鋭い水灰色の目で睨まれた司教は、状況を理解して、少し頷いた後、話し始めた。
「先程、シオン君の話した事に付け加えたいのですが、遺跡を管理していた一族は殺されたんですが、無理のない話です」
司教は、低いトーンで、かつ強い口調でそう話す。
「遺跡を守る、という名目だけではなく、実はそれ以前は強国を持っていまして、そこの出の一族です」
「強国があったのか?」
「ええ、場所はわかりませんが。聖職者の間で俗にいう『ムルアハ伝説』です」
「「「 ムルアハ伝説? 」」」
シオン、シュート、トウラは驚き、声を合わせてその単語を聞く。
「変な名前だな」
「強国は別の民族に征服されたんですが、遺跡の方も「ムルアハ国は贅沢だ」と、人間たちの係争の地になっていったのです。その過程ののち、遺跡が消えたと言います」
「なぜ消えた?」
「それが不明なんです。聖職者の間でも研究している人は誰一人いませんし」
「昔、遺跡の周辺で争いがあったなら、その怨念で消えたのか?」
「それはありません。怨念ではなく、誰かが意図的に消したんだと思われます」
「誰だ?」
「それは分かりませんし、分かるのならその少年が話しているはずです」
「アザミは「教えない」と言っているからな秘密な以上、自分たちで見つけるしかないな」
「また謎が増えたのか……」
落胆する一同。このところ、謎が増えるばかりだ。頭が混乱する。すっきりさせたい。
「オイ、落ち込んでる暇はないぞ。それで、早い話になるがこれからどこへ行くべきかだ」
「でも、それは今話す必要があるのか」
「オイ、謎はほかにもいろいろあるんだぞ?ダビデの鍵や神聖櫃も探さなけりゃいけないだろう」
「それにしても、道具が多いよな」
「って2つだけだろうが……」
と、文句みたいな事を言うトウラにシュートは突っ込みを入れる。
「とにかくだ、周辺のことを教える。どこに行くかはお前らで判断しろ」
と言って、ノアは地図を広げる。決めろと言われても困る。そんな不穏な空気がその場に流れる。だが、まずは周辺の情報を手に入れなければ何も分からない。
「まずは北、大きな川を超えたら開拓地と呼ばれる場所に到達する」
地図では、真ん中より右上の部分に、割と線が込み入った部分がある。ノアはそこを指している。これが開拓地の都市群になる。
「この南がブルーマウンテンズだ。ピーク王国はブルーマウンテンズの山麓に位置している」
「それにしてもすごい場所にあるな」
ピーク王国はブルーマウンテンズの上にある。トウラはそんな場所には到底行けないだろうと思った。
「ああ、こんな山を登った奴はほとんどいないと言われている。登るなら相当の覚悟が必要だろう」
やはり、ピーク王国にすぐに行けないという空気が場に流れる。
「南は未開拓地と言われている。何もない場所が多いという。でも大国『ムルアハ国』はこのエリアにあったといわれているぞ」
「じゃあ、なんで今未開拓地なんだよ?」
「人間が土地を見捨てて発展している方へ流れた。ただそれだけだ」
ただ、というには無情な理由だが、現に南側は何もないという。
「あとはあまりお勧めしないが、西と東だ。理由は説明しない」
西は奈落の底、東は大森林なのだが、理由を割愛されたら考えるのが難しい。
「妹はメルフェールにいます。西の奈落の底の先には行けるのでしょうか?」
「分かってる。お前は直接西に行こうとしそうだからな。ダビデの鍵が必要なのは分かっているだろう。それを探さなければならないだろ」
「で、どこへ行けばいいんですか」
「だからそれはお前らで決めろといっただろうが」
一行は困った。ヒマリはメルフェールにいる。そのためにはダビデの鍵が必要だ。その他には何をするべきか。情報収集か?シオンの思想は塞ぎ込んでいく。
「情報収集は開拓地一帯で行うのがいいな。ただ、行く場所はシェロが戻ってきてから考えよう。地勢については理解した」
少し強引だが、この話は終わった。間髪入れず、ノアが次の話題を出す。
「で、修行の方はどうする? シオン、トウラ。手ごたえはあるのか?」
「俺のことはもう解決しただろう」
「僕は行き詰ってます――詠唱文が思い出せなくて」
こんなことを言うとやる気がないのか、などと思われてしまう。トウラはともかく、シオンは今修行で一番困っていることを正直に告白し、指示を仰いだ。
「転生者は記憶を持たなくなることがある。まさか、シオンもそれなのか?」
「そうだな」
「やはりクズ神の仕業か?」
「どういうことだ?」
「シオンの詠唱を使わせたらすぐ倒されるだろう、だからだ。クズ神がその異能を封印したんだろう」
「ああ、そうか!」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「つまり奴が都合の悪い記憶だけを抜け落としている。それに関係する物があれば……」
「詠唱分が思い出せる。それは神聖櫃なんですか」
「それは分からない。そのためにもシオンには修行をやってもらう」
「俺はもういいな」
「お前もやるんだよ!」
ノアは、やる気のないような発言をするトウラを見逃さず、こうして、この話し合いは修行へと持ち越された。