剥がされた魔方陣《執筆者:星野    リゲル》

文字数 1,009文字

みんなが暫くの間、満点の星空に心を奪われていると、シオンはアザミの手の力が強くなった事に気が付いた。
「どうしたの?」
 シオンが聞く。
「怖いんだ。なんでだか分からないけど」
「星空が?」
「違う。呪いのこと」
「当然だよ。自分がどうなるのか分からないって事は誰だって怖いよ」

 シオンは、アザミの素性なんか全然分からなかったけれども、自分が守らなくてはならないという心境を抱えていた。それと同時に、もうすぐこの子は崩れてしまうようなそんな嫌な感覚にも襲われていた。

「さて、では本番といくかのう」
 和尚は立ち上がった。
 そうして、すたすたとアザミの方に近づいて

「怖がっておるな? ホッホッホ。心配する事はない。ワシが若い頃にオウルニムスから教わった呪術解きの魔法を使用するだけじゃ」

 と言ってからアザミの額に指をあてた。
 そうして、和尚は聞きなれない呪文を唱えるのである。

「醜悪より始まりし固きロープと酒の輪は、君の心の隙の間の、空前の因果の空に始まり、若き天使の宿命は、ああ解離する解離する」

 その瞬間、アザミは悲鳴をあげた。
 その悶絶する声に、一同がアザミの方向へ目を向けた。

 顔には魔方陣が浮き上がっている。赤黒い光沢を発しているそれが、アザミを苦しめているのである。

「アザミに何をしたぁ!」
 ノアが叫ぶ。

「苦しみは一瞬のみ! あと三秒、二、一」

 和尚がアザミの額に当てていた指を離して、空中へと振り払うと、アザミに浮き上がっていた魔方陣がギュッと凝縮され、体の外に飛び出した。

 そのグラフィック技術のような光景に、皆は口を開けて眺めている。
 ペタッ。と魔方陣が地面に落ちた。

「ほうほう。これがこの子を苦しめていた呪か。体の外へと剥がされたのに、まだ消えないところを見ると相当強い呪だったのじゃろう。アザミ君、今までよくこのような禍々しい呪と戦った来たものじゃな」

 アザミは地面に倒れ込んで、呼吸を乱している。
「大丈夫?」
 シオンが背中をさすった。アザミはコクリと頷く。

「さて、もう大丈夫じゃろう。アザミ君。君自身の事について語るといい」
 和尚の声を聞いたアザミは倒れたまま、何か口を動かしている。
 一同が、アザミに近づいた。

「…………鍵」
「えっ?」
 シェロは困惑の声を発した。

「……ボクなんだ……ダビデの鍵って」
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