2つの世界(執筆者:金城 暁大)

文字数 3,867文字

「これが、この世界、”ヒューマニー”だ。
 だが、俺たちもまだこの世界については分からない事の方が多い」
「そうなんですか」
「だが、それ以上に分からない世界がある。
 それが、”メルフェール”だ。
 メルフェール。つまり童話(メルフェン)の世界という意味だ。」
「どうして、”童話”なんですか?」

シオンの問いに、トウラは頷く。

「それはメルフェールの世界構成に由来する。
 彼らの世界は、このヒューマニーの世界の中で生み出された、
 お伽話が原型となっているんだ。」
「えっ?それってどういうことですか?お伽話が世界を形造る?」
「俺たち二人も、その理由についてはよく知らない。それについては、
 シェロのほうが詳しいんじゃないか?」

そう言ってトウラはシェロの方を見た。

「えっ、私?」

自分を指さして困惑するシェロに、3人はそろって頷く。
その様子を見たシェロは、曖昧な表情で俯く。

「はぁ・・・そうね。でも残念だけど、私もメルフェールについてはよく知らないの。
 ・・・・・・唯(ただ)、知っていることもあるのよ。」
「それで良いよ。話してよシェロ!」
「うん・・・私が聞いているのはこんな話よ――」


 ◇ ◇ ◇


昔、この国にはある一つの国が存在した。
その国の王は、暴君として名を知らしめていた。
そして、その句の貴族たちは、民から高い税を搾り取り、
その金で豪遊をして暮らしていた。

貴族たちの贅沢は、民を虐げ、腐敗した世界を生み出した。

ある時、一人の子供が、その辛い生活から目を背けるために、
1つのお伽話を作った。

その話は、民にとても受け、たちまち国中に広がった。

その噂を聞きつけた王都貴族たちは、その子供を王城に呼び出した。
そして、自分の為にお伽話を作れと命じ、それが面白ければ、褒美と
ご馳走を与えると約束した。

子供はその小さな頭で必死にお伽話を考え、
一週間後、王や貴族たちの前でその話を言って聞かせた。

その話は彼らに受け入れられ、その子供は見事、褒美とご馳走に
あり付くことが出来た。

その話もまた、瞬く間に国に広がった。

「お伽話を作れば、ご馳走が食べられる―――」

そこで国の民たちは、こぞってお伽話を作っては、王城に足を運んだ。

そうして、いつしか、国には無数のお伽話が生まれた。

そして不思議な事に、そのお伽話は形を結ぶようになった。

そのお伽話を生み出す人々の思いは、この世界とは異なる世界、
『異世界』、メルフェールを生み出した。

そうして、この世界には2つの世界が、まるで兄弟のように
存在することになったという。


 ◇ ◇ ◇


「――私が知っているのはこんな所。これは、このヒューマニーに伝わる、
 有名な『お伽話』の1つよ。」
「お伽話、なんだ。でも、そのメルフェールは確実に存在するんでしょ?
 お伽話じゃ無いんじゃないの?」
「そこなんだ」

トウラが突然言った。

「そこがこの話の肝なんだ。
 上が戦争を起こす理由。それは、メルフェールの存在が神の意志に
 反した存在に他ならないからだ。」
「じゃあメルフェールのは本当に存在するんですね?
 お伽話ではなく」
「ええ。それは間違いないわ。
 確かに私が今した話は、ヒューマニーのお伽話として伝えられて
 いるものだけれど、メルフェールは確かに存在するのよ。
 その証拠に、数千年前に、このヒューマニーとメルフェールが互いの
 覇権を賭けて争ったという文献が残っているのよ」
「そんな物が?」
「へぇ、そいつは初耳だな」

シュートが半笑いで言った。

「俺の聞いている話では、メルフェールを裏付ける証拠は、この世界の
 お伽話しかないって話だぜ」
「俺もそう聞いてるな」

シュートの言葉にトウラも同調する。

「ところがあるのよ。嘘偽りない、『本物の』証拠がね」
「シェロ、お前それ何処で見つけた。」

シュートが尋ねる。

「4年前に遺跡調査をしているときに偶然ね。
 あれはへブラニア調査の時だったかしら・・・・・・」
「へブラニア・・・・・・聞いたことはある。神の降りたとされる地だな」
「あらシュート。あなた意外とこの世界について詳しいのね。
 転生者なのに」
「フフ、そうかい?これでも情報収集は欠かさないんでな。
 良かったら君の事も――調査させてくれよ」

そのやや緩んだ表情のシュートにトウラはため息を吐いた。

「おいシュート。またお前って奴はこんな時に・・・」
「ああ、悪い悪い。大丈夫だ。このお嬢さんには手を出してないさ」
「手を・・・・・・」
「気を付けろよシェロ。この男は相手が美人だと踏んだらすぐに
 手をだす癖があるからな。」
「美人?私が?」

シェロはトウラの言葉にやや頬を赤く染めた。

「メルシー。でもごめんなさい。私の恋人は空と冒険って決まってるの」
「そうか。そいつは残念だ。」

シェロの言葉にシュートもやや苦笑しながら答える。

「はいはい。お二人さんそこまでにしてくれ。今はシオン君に大事な話の
 途中なんだからな」

トウラの言葉に、二人は少し悪びれた様子ではにかんだ。

「話を続けてくれ、シェロ」
「そうね。その文献には、非常に興味深いことが書いてあったわ。
 なんでも、そのメルフェールは4つの国の総称の事を言うらしいのよ。
 その4つの国には、それぞれ異なる王様が居て、それぞれの国を
 統治していたそうよ。そして、その4人の王をまとめていた、
 さらに上の王がいたそうなのよ。名前は、”ジョーカー”と言うらしいわ」
「ジョーカー・・・・・・」

4人は思わず揃ってその名を呟いた。

「そのジョーカーは、この世界の代表者である王都非常に良好な関係を
 築いたそうよ―――一時的にはね・・・」
「一時的には?」

問い返すシオンにシェロは頷き、話を続けた。

「その両王は、有効のあかしとして、2つの世界を繋ぐ橋を作ったそうよ。
 この橋は、文献では”バベルの橋”と書いてあったわ」
「バベル・・・」

シオンはその名前によく聞き覚えがあった。
自分がもといた地球での神話に出てくるバベルの塔に酷似している。

「それの挿絵の写しがあるわ」

そういうと、シェロは腰のポーチから1つの蒔かれた羊皮紙を取り出した。
彼女が広げた、その紙に描かれた絵を見て、シオンは驚いた。

「これは・・・・・・!」

そこには、地球の神話にでてくるものと全く同じような、巨大な塔が描いてあった。
塔に作られた螺旋状の階段を、小さな人が昇っていく様子が見える。
そして、その塔の上空に、惑星のような丸い『世界』が描かれているのだ。

「この塔がバベルの橋。そして、その上に描かれているのがメルフェールよ」

3人は身を乗り出して、その絵を眺めた。

「こりゃ驚いた。ブリューゲルの『バベルの塔』そっくりじゃないか」

シュートの言葉にシオンとトウラも頷く。

「ええ、僕も展覧会で見たことがあります。そっくりです」

その時シオンの頭の中に1つの考えが浮かんだ。

「もしかして、このヒューマニーは、地球のあった世界と何かが
 繋がっているのかも知れませんね」
「その可能性は大いにあるな」

トウラが頷いた。

「俺たちも不思議だったんだが、この世界の人間は、俺たちが転生した当時、
 殆どの価値観が共通していた。価値観だけじゃない。さっきも言ったが、
 殆どの要素が俺たちの元居た世界と酷似している。
 不思議なのは魔法とかもあるが、こうして普通に人と意思の疎通が
 測れるっていう事だよな」

シュートも「全くだ」と零す。

「そればかりは、いくら情報を集めても分からなかったな」
「ああ。こりゃもう少しこの世界の事を深く探る必要がありそうだな」
「そうすれば、俺たちの元の世界に通じる道が見つかるかもしれない」

2人の言葉に、シオンも同意する。

シェロは羊皮紙を腰のポーチにしまいながら口を開いた。

「話の続き、良いかしら?」

いつのまにか熱くなっていた3人は、再び席に座りなおした。

「ところが、ある日、ジョーカーがヒューマニーの人間に暗殺されてしまったのよ。
 それに起こったメルフェールの住人たちは、このヒューマニーに戦争を仕掛けたの。
 その過程で、ヒューマニーを纏めていた王も死んでしまうのよ。
 これに互いの世界の住人は、両者を憎むようになったの。
 そして、バベルの橋は壊されてしまったのよ。
 二度と、2つの世界に互いの人間が渡れないようにね」
「そんな・・・・・・。そんなの悲しすぎる・・・・・・」

シオンの呟きに、シュートとトウラも頷いた。

「私が知っているのはここまでよ。
 これ以上メルフェールに関して知っていることは何もないわ」
「ありがとうシェロ。大分この世界の事が分かってきたよ」
「どういたしまして、シオン」

シオンはトウラに向き直った。

「で、トウラさん。さっきも言っていた、戦争の理由、メルフェールが神の意志に
 そぐわないって話ですが・・・・・・」
「そう。それが本題だ」

トウラの真剣な眼差しが、シオンの目を見つめる。

「さっきも言ったが、神はメルフェールを認めていない。
 メルフェールだけじゃない。ヒューマニーの存在も、認めてないんだ。」
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