別れの朝    前編(執筆者:金城 暁大)

文字数 2,368文字

 翌朝。

「本当に貴重なお話、ありがとうございました」

「いやいや。あれしきの事しか出来なんだ。それに、食事と宿を与えて下さった御礼じゃよ」

「そうは言っても、私達にあんなに重要な事を教えてもらって……」

「そうですよ。あの話でどれだけ僕達が救われたと思うんですか」

「本当にな。まさに大賢人の名に相応しい力も、見せて貰ったしな」

「ああ。俺の命も救って貰ったし――本当、ありがとうな!」


 シオン達四人の言葉を聞き、オウルニムスは満面の笑みを浮かべた。
 そんな彼を見たシェロが、腰のポーチから何かを取り出した。


「これは御礼よ。あなたに受け取ってほしいの」

「……なんと! とんでもない! こんなものは受け取れんのう」


 シェロが取り出したのは、数枚の金貨だ。


「これがあれば、もう数か月の寝泊りと食事代は何とかなるはずよ。そんな事を言わないで、ねぇ――」

「有り難いのじゃがのう。このお金はお主が持っていなさい。近いうちにこのお金が必要になる時が来る」

「そうは言っても……」

 シェロの言葉に、他の3人も同意する。


「なぁに、儂は大丈夫じゃ。大賢人の名前は伊達ではない。こう見えて、いくつもの苦難を乗り越えてきた身じゃ。多少の無理は効く」

「よく言うぜ。昨日あんなに宿主に泣き付いていたくせに」

「あれも叡智がなせる技じゃ。あれくらいの演技をせぬと、泊めてくれぬでの」

「叡智ね。ハハハ、違いねぇ!」

 一行が高らかに笑い合った頃には、東の空に見えるレッド・マウンテンズの峰から、朝日が昇り始めていた。暖かな光が、5人を照らす。



「では、ここでお別れじゃのう」

「ありがとうございます。オウルニムスさん」

「早く妹に会えると良いの。シオン君」

「ええ」

 シオンとオウルニムスは握手を交わした。


「メルシ―。本当にありがとう」

「お主は本当に綺麗なお方じゃ。見た目だけでなく、心も美しい。きっと良い伴侶になるでの」

「……褒めても何も出ないわよ?」

「いやいやお世辞などではないぞ」

 シェロが頬をほのかに赤くした所を見て、微笑むオウルニムスは、シュートとトウラに向いた。


「また会えたら、今度はそっちが奢って貰うからな」

「そうじゃのう。――そう言えば、宿主に渡したあの宝石は、お主が賊から調達した物じゃったかのう。確かに、はした金ではないのう」

「おぉ、それもお見通しだったか」

「ホッホッホ。知らぬが花、という言葉もあるでの」

「でも、俺は知って花ですね。命が助かる方法を教えてもらったんですから。ありがとうございます、オウルニムスさん」

「うむ。ノア・ルクスが快く気を許すことを願うぞ」

「上手く口説いてみせますよ! こう見えても俺、こいつよりモテるんです」

「ホッホッホ。確かにのう」

「何さりげなく馬鹿にしてるんだよ」

「本当の事だろう? オウルニムスさんだってさっき――」

「ホッホッホ。大丈夫じゃよ。2人とも男前じゃて」

「本当か? フフフ」
「そうですか? エヘヘ」

 2人はオウルニムスの言葉の余韻に、顔を緩ませた。
 そんな2人に、シオンとシェロは飽きれ果てるのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 オウルニムスに別れを告げ、彼が町の外に行く道の向こうに姿を消すのを見届けると、一行は険しい表情になった。

「ここから大変だね」

「そうねシオン。楽な道では無いわ。でも安心して。私が全力でサポートするわ」

「俺もだシオン。俺がお前を守ってやる」

「ああ。俺達はもう仲間だ」

「……ありがとうございます」


 するとシオンは3人に向き直り、頭を下げた。


「改めて、よろしくおねがいします」

「こちらこそよ、シオン」
「ああ。よろしくな」
「俺を兄貴と思って良いからな! シオン」


 3人は、律儀なシオンに微笑を浮かべた。

 既に朝日は昇り、頭上には快晴の空が広がっていた。
 その空を見て、シェロは両手を空に向けて背伸びをする。


「新たな旅立ちにはもってこいの空じゃ無い? 良い気分で飛べそうだわ」

 伸びをし終わると、シェロが思い出したかのように「あ」と漏らす。

「そう言えば、シャールまで遠いのかしら。もし、飛行機で行く様なら、全員は乗せられ無いわね」

「それについては問題ないさ。俺が竜化して、シュートを乗せて飛べば良い」

「……お前忘れたのか? 竜化の力を使えば、死が早まるって爺さんが言っていただろ」

「そうですよ。トウラさんの体は今凄く危険なんですから、力を使っちゃ駄目です」


 3人が怪訝な顔をする一方、トウラは手の平をヒラヒラ、顔の前で泳がせながら笑う。


「平気平気! 全てノア様が俺の魔素を取り込めば済む話さ。一時の辛抱だよ」

「まぁ、確かにそうですが……」

 シオンはもちろん、シェロもシュートも不安で仕方がなかった。
 しかし、そんな3人を他所に、トウラは元気な笑みを湛えながら、空を指差す。


「目標ー、シャール村! 総員、出撃せよ!」

 トウラの威勢の良さに、シュートが笑みをこぼした。

「あれほど泣き喚いていたくせに……ま、そこがアイツの良い所だがな」

「同感ね」
「本当ですね」

「おいおい! どうしたんだよ3人共。早く行こうぜ! シャール村!」

「……そうね。じゃあ、まずは私の飛行機を取りに戻らないと。もう給油も済んでいる筈だし、直ぐに飛べる筈よ」

「おお! シェロの飛行機が見られるのか! 楽しみだな!」

 浮かれた様子で目を輝かせるトウラ。
 心配をする必要はなさそうだ――そう思う3人なのであった。
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