竜《ドラゴン》の魔素    後編(執筆者:かーや・ぱっせ)

文字数 1,825文字

たどり着いた場所は、周りを褐色に覆われた一角。なのだが、所々で、磨かれたエメラルドのような発光体が顔を出していた。

「この光る岩肌、俺が飲み込んだ魔素とそっくりだ――ここでケイキが魔素を手に入れたんだ! 間違いねぇ!」
「なるほど。聖獣はここに眠っていたというわけか……」

 おもむろに奥へ進んだノア。

「始めるぞ。用意は良いな」

 トウラに振り返り、こう告げたノアだったが、聞く耳を持っていないらしいトウラは、瞳を輝かせながらこの一角を見回していた。

 そんなトウラを横目に、ノアは発光体に触れる。

「うっ!」

 ノアが触れた場所を中心に光がなびいた瞬間、トウラが膝から崩れ落ちた!

「ぐうっ! っぁ! うああああああ――!」
「あるべき場所に還るまでの間だ。神を飲み込んだ愚か者の罰だと思え」

 冷たく告げたノアは、トウラの叫びを背中で一身に受ける。

 その間、地面でのたうち回るトウラの頭上に、発光体と似た色の粒子達が登り、形を作ってゆく。


「聖獣の宿主に導かれ、たどり着いた場所で魔素に触れた時、俺の下に聖獣が現れる――何もかも、ジジイの言う通りだな」

 叫び声が止むと同時に響いた乾いた音に、ノアは振り返った。
 ‎うつ伏せで力なく息をするトウラの横で、掌に納まる程の、エメラルド色の塊が転がっていた。

「現れたな、(ドラゴン)

 透けて見えるその塊に近付くノア。手に取ってみると、僅かに霧をまとっていることが分かった。


「これほど濃密な魔素は、初めて見たな。……だからこそだ。確信できる」

 ノアが、魔素の塊を口に近付ける。

「これで俺は、強くなる……!」

 ノアは(ドラゴン)の魔素を飲み込んだ!
 その光景を、トウラはしかと目に焼き付けたのだった。


「……俺の命は、助かったんだ!」

 感極まり飛び起きたトウラが、勢いそのまま、ノアに抱き付いた! トウラはノアのさらりとした白髪をぐしゃぐしゃに撫で回す。
 ‎ところが、ノアはされるがままだった。

「おっと、やり過ぎたか?」

 彼に違和感を覚えたトウラは手を離し、ノアから距離を置いてみる。
 ノアは、見えない空を仰ぎ見るように立ち尽くしていた。

「ノアさーん? 一体どうしたんですか――」

 トウラが改めて近付こうとした瞬間、ノアがこちらを睨み付けてきた。そうして足早に近付いてくる彼が、トウラの目には怒りを撒き散らしているように見えた。

「やっぱり怒ってますよね!? いやホンっト申し訳ない! 俺つい癖で――」

 これまでの行き過ぎた言動を弁明しようと早口になるトウラ。しかし、ノアはそんな彼の横を通り過ぎ、出口へと向かっていった。

「あれ、ノアさん?! どこ行くんですか?!」



 つかつかと来た道を戻るノアを、トウラが慌てて追いかける。

「なあ、悪かったって! あんなに髪を揺さぶられたらそりゃあ、救世主様だって怒るのも当然――」

「黙って歩け! 俺は一刻も早くシャールへ帰りたいんだ」

 ノアの怒声に一瞬尻込みしたトウラだったが、彼の言葉にはっとし、もう一度後を追う。

「帰るんだったら、わざわざ長い時間歩く必要ないですよ!」

 この言葉に、ぴたりと止まったノア。

「どういうことだ?」

「とにかく、俺に任せて下さい!」

 そうしてトウラがノアに手をかざす。すると、ノアの視界が急に夜空の下へと変わったのだ。

「……何が起きたんだ?」

「俺の異能で転移させました! 飛行機を停めた場所まで!」

 後ろから、満面の笑みでトウラに言われたノア。辺りを見回してみると、確かに、ここへ来る為に使った単葉機が二人の側にあった。


「さ、シャールへ帰りましょう! ――って、ノアさん! そういえばこの飛行機、どうやって飛ばしたんですか? 確かこの飛行機エンジンがなかったはずじゃ……」

「お前の魔素を借りた」

「俺の魔素?」

「ああ。お前は今まで無上に魔素を持っていたからな。それを媒体に風を起こし、この飛行機をその風に乗せた訳だ」

「俺の体内魔素を使って……ってことは……」

 不意に、トウラの頭が重くなる。

「そうだ。お前らが探しているダビデの鍵と同じ原理だ。あれも人の魔素を借りて発動させるだろう――」

 トウラの視界は霞み、ノアの声が次第に遠くなってゆく……。
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