光    後編(執筆者:金城 暁大)

文字数 1,656文字

彼の掲げる右手からは、強烈な白光が発せられている。その手から、何か衝撃波のような物が発せられたと理解するのに、シオンには僅かに時間がかかった。

「ノアさん!」

 シオンは思わず彼の名を叫んだ。

「おふざけも大概にしろ。貴様の冗談は少しも笑えないぞ。」

「あら、まだ客人がいたのね。貴方も転生者なのかしら?」

「さぁ? それは自分の目で確かめたらどうだ?」

 ノアは頭上に右手を掲げた。

「イオ!!」

 ノアがそう叫んだ瞬間だった。

 彼の頭上に強烈な光源が出現した。そして、その光源から照らされる光は、シオン達を拘束していた茨を、まるで雪解けのように溶かした。

「くっ……! なんだ、その力……お前は今までの転生者とは違うな! お前、何者だ!」

 その問いに、ノアは表情一つ変えずに答えた。

「”救世主”だ。」

 その言葉に、ジュリエットだけではない、シオン達も驚いた。

「救世主だと!? 馬鹿な! その存在はこの世界の神が忌み嫌う存在のはず! なぜおまえの様な者がこの世界にいる!?」

「知りたいか?」

 そう言うと、ノアは右手を目の前にかざした。

「特別に教えてやる。但し……あの世でな!」

 瞬間、ノアの右手と体が発光した。

「アル・ソベル・ティアラ・デア・アルマ……祖の名はルクス、導くは浄化、主よ、父よ、聖霊よ、我に力を授けたまえ。」

「その詠唱文、魔法じゃないのか!?」

「あいにくだが、俺はそんなものは使わない。俺は、これを使う!」

 ノアがそう言った瞬間、ノアの手が光りに包まれた。

 その瞬間、ノアの瞳の色が紅に光った。そして、白い両刃の剣が召喚され、同時に光がノアの体を包む。そこには白い剣を握り、白い鎧に身を包んだ騎士がいた。

 白騎士。

 その姿を見れば誰もがその言葉を口にするだろう。

「裁かれろ!」

 ノアは剣を構え、飛翔した。それは電光石火と呼ぶにふさわしかった。

 正に一瞬で、ノアは大蛇の首を全て切り落とした。

 ノアが着地した瞬間、その背中で大蛇は緑の鮮血を撒き散らしながら息絶えた。

「くっ、お前!」

 狼狽するジュリエット。

 しかしそれも一瞬だった。ノアは風のごとき速さで、ジュリエットの懐に入った。

「裁きを受けろ。」

 ノアは剣を下から上へ振り抜いた。

 その剣尖はジュリエットの正面を鋭く切り裂いた。

「ギャアアアアア!」

ジュリエットは顔面から鮮血を噴き出させながら後ずさった。

「痛いいい! イタイイイイイ!」

 ジュリエットは断末魔のような声を出した。そのジュリエットの喉元に、ノアは剣尖を向けた。

「終わりだ!」

 だが、その剣尖がジュリエットの喉を貫く寸前で、ジュリエットは姿を消した。

 そして、気づけばノアの頭上にジュリエットは浮いていた。その形相には、それまでの清楚さは一欠片も無い。

「おのれ貴様! よくもこの美しい私の顔に傷を付けたな! この怨み! いつか晴らしてやるぞ! 覚えていろ、白騎士の救世主!」

 そう言うと、ジュリエットは煙のように姿を消した。

 やがて、その広場には安堵の念を憶えた人々と、巨大な大蛇の骸が残された。

「ノア……。」

「救世主……。」

 群衆の村人が、一人、また一人とノアの名を呟いた。

 そして、それはやがて徐々に拍手と歓喜の渦を作った。

「ノア! 凄いぞノア!」

「俺達を助けてくれてありがとう!」

「救世主様!」

 その場の誰もが、彼を讃えた。

 すると、ノアはシオン達の下へと歩み寄った。同時に、彼の剣と鎧が煙のように消え去った。

「シオンとか言ったな。」

 ノアはシオンの目を見つめ言った。

 ノアの紅に光っていた目は、元の水銀色に戻っている。

「ノアさん?」

「気が変わった。」

「え?」

「俺もお前たちの仲間に入る。あの不愉快ならない者どもを、俺が裁いてやる。」
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