スペニア・キャンプの攻防①《執筆者:鈴鹿 歌音》
文字数 2,901文字
辺りが凍っていく。崖や木々や家など関係なく凍っていく。まるで永久凍土に近づくかのように……。
「シフォン、止めなさい!!」
「あたしたち、一緒にここまで旅してきた仲間だよ!! あたし、シフォンの事が大好きなのにどうして!!」
シフォンの表情は、能面のように凍りついたものだった。こんなの本当のシフォンではない。ヒマリとハートは知っている。シフォンの笑顔や悪ふざけをした時に見せる困った顔も。それは、とても愛いとしくてあの時の事を忘れる事は出来ない。
「そうだ……もっとやれ、シフォン。ハートとヒマリを苦しめて殺せ」
「はい、グレイシアお兄様。仰 せのままに」
冷たいグレイシアの声とシフォンの声にヒマリとハートは、反論できない。このまま吹雪に耐え続けるのも辛くなってきた。
ハートは、ヒマリに向かって小さな声を出し、告げる。
「ここは、待避しましょ。このままだと凍え死ぬわ」
「あたしは、ここはハートに従うよ」
「じゃあ、『1《いち》、2《に》の3《さん》!!』であの茂みに逃げるわよ」
「分かった!!」
ハートの声にグレイシアが反応した。シフォンは、ヒマリとハートに贈り物 を使っているのでそこまで気がついていないが、グレイシアが動き始めた。それにヒマリとハートは気がついていない。
「行くわよ、ヒマリ!! 1《いち》、2《に》の3《さん》!!」
ヒマリとハートは、命からがらシフォンの贈り物 から抜け出す。それに気がついたシフォンが「あっ」と声を漏らした。
その時だった。
「『殺意の氷剣 !!』」
グレイシアの手には、赤に染まった氷の剣が、黒い氷の波動出し、ハートとヒマリに襲いかかる。これは、逃げることが出来ない。
「ハート!! 危ない!!」
「えっ?」
一瞬の事だった。ヒマリにとってもハートにとっても。ハートはヒマリに後ろから押され、地面に倒れた。ヒマリもハートに被さるように倒れてきた。
「ヒマリ!! 大丈夫?!」
ハートの必死な声にヒマリは声をあげようとした。しかし、腕に走る痛みのせいで声が出せずに乾いた声しか出せなかった。
「ハート……ごめん……。あたし……結局……誰も守れない……のかな……」
ヒマリの口から弱気な発言が出てきた事にハートは驚きを隠せない。
「ヒマリは、みんなを守ってきたんだから今回も出来るわ!!」
「でも……」
グレイシアは、苦虫を噛んだような表情を浮かべている。
「ちっ、はずしたか……。もう一度、『殺意の氷剣 !!』」
「あ……危ない!!」
ハートは、腕に怪我を負ったヒマリを庇 うように前に飛び出る。だが、ハートは何も出来ない。本当は怖くて仕方がない。
ハートは怖くて目を閉じた。
しかし、何時 になってもハートに衝撃が来ることがなかった。
目の前で起きている事実を知りたくないというのも1つの理由だろう。ヒマリの声が聞こえる。とても悲しく嘆いている声。ヒマリがこのような悲痛な声をあげているのは初めてだ。その事実から目を背そむけないと誓い、ハートは閉じていた目を開いた。そこには、背中に大きな傷を負い、血を流して倒れているシフォンの姿が目に入った。
「シ……シフォン、どうして私を守ったの? あなたは、今敵同士なんじゃ……」
「は……はは……、ごめん……なさい。今まで……色々……忘れていた……事がありました……」
シフォンは、苦しげな表情で起き上がろうとしたが、上手く力が入らず、その場に崩れ落ちた。
「シフォン、どうして……」
「ヒ……マリさん、怪我して……しまった……んですね。早く……治療……しないと……けほけほ……」
「もうシフォン、喋っちゃダメ!! 傷が開いちゃう!! あたしは、痛いけどこれぐらい平気……。でも、シフォンの傷は……」
シフォンは、咳き込む。背中の傷が大きく開き、真っ赤な液体で黒のワンピースを濡らしている。これが血糊 なら良かったが、目の前で起きてしまったことは覆 す事は出来ない。
「無様だな、シフォン」
「グ……グレイシア……お兄様……」
「この2人を殺せない奴なんていらない。オレは、有能な妹が欲しいんだ。シフォンみたいな無能はいらない。早く消え失せろ、って言ってもそんな傷じゃ無理か。じゃあ、3人纏 めてあの世に送ってやるよ!! 『殺意の氷剣 !!』」
シフォンは、その場に踞 ったままその場から動けない。ヒマリとハートも自らの死を覚悟した。
それでも、ヒマリは願い続けた。
「あたしたちは、助かる。昨日の敵は今日の味方になることもあるんだから……。だから、あたしは諦めない!!」
その時だった。
「『幻想世界の愛 !!』」
この声に聞き覚えがある。幻想世界への入り口の扉が開かれる。
ヒマリとハート、倒れているシフォンの前にあの人が現れた。グレイシアは、その人を不敵な笑みを浮かべ、見つめ返す。
「現れたか。デカフォニック渓谷 で最強とされる男、ロミオ。 出てこいよ、幻想世界への入り口を開いたんだ。精々堂々と下剋上 というやつをしようではないか……」
ロミオが氷づけにされた建造物の影から姿を見せる。昨夜と同じく不機嫌そうな表情でグレイシアを睨み返す。
「あんたか……。『スペアニア』のリーダー、グレイシアは……」
ロミオは、ヒマリとハート、倒れているシフォンの姿を見ると大きなため息をつく。
「またあんたらか。今回は、僕とグレイシアの戦いだ。あんたらは、ここから逃げろ。今回は、見逃してやる」
「どうしてあなたがここにいるのよ!!」
「良いから。その倒れている女を連れてあんたらは離れてろ。これからは、最高の戦争 が始まるんだ」
ヒマリは倒れているシフォンの近くに近寄る。しかし、シフォンの意識はなく、ぐったりしており、動く気配はなかった。
「あたしたちも戦う」
「何を言う。この男は狂ってるんだぞ?」
「面白い……4人でかかってこいよ。オレがこの氷の剣で全員刻んでやるよ」
ロミオは、大きなため息をつき、ヒマリたちを見る。
「僕の邪魔だけはするなよ。とりあえず引っ込んでろ……」
ヒマリとハートは、シフォンを安全な建物の影に連れていき、ロミオとグレイシアの戦いを見守る事にした。しかし、それがヒマリたちを窮地きゅうちに陥れるものだとその時気づいていない。
シフォンの苦しげな表情を、ヒマリとハートは見つめることしか出来なかった。
「シフォン、止めなさい!!」
「あたしたち、一緒にここまで旅してきた仲間だよ!! あたし、シフォンの事が大好きなのにどうして!!」
シフォンの表情は、能面のように凍りついたものだった。こんなの本当のシフォンではない。ヒマリとハートは知っている。シフォンの笑顔や悪ふざけをした時に見せる困った顔も。それは、とても愛いとしくてあの時の事を忘れる事は出来ない。
「そうだ……もっとやれ、シフォン。ハートとヒマリを苦しめて殺せ」
「はい、グレイシアお兄様。
冷たいグレイシアの声とシフォンの声にヒマリとハートは、反論できない。このまま吹雪に耐え続けるのも辛くなってきた。
ハートは、ヒマリに向かって小さな声を出し、告げる。
「ここは、待避しましょ。このままだと凍え死ぬわ」
「あたしは、ここはハートに従うよ」
「じゃあ、『1《いち》、2《に》の3《さん》!!』であの茂みに逃げるわよ」
「分かった!!」
ハートの声にグレイシアが反応した。シフォンは、ヒマリとハートに贈り
「行くわよ、ヒマリ!! 1《いち》、2《に》の3《さん》!!」
ヒマリとハートは、命からがらシフォンの贈り
その時だった。
「『殺意の
グレイシアの手には、赤に染まった氷の剣が、黒い氷の波動出し、ハートとヒマリに襲いかかる。これは、逃げることが出来ない。
「ハート!! 危ない!!」
「えっ?」
一瞬の事だった。ヒマリにとってもハートにとっても。ハートはヒマリに後ろから押され、地面に倒れた。ヒマリもハートに被さるように倒れてきた。
「ヒマリ!! 大丈夫?!」
ハートの必死な声にヒマリは声をあげようとした。しかし、腕に走る痛みのせいで声が出せずに乾いた声しか出せなかった。
「ハート……ごめん……。あたし……結局……誰も守れない……のかな……」
ヒマリの口から弱気な発言が出てきた事にハートは驚きを隠せない。
「ヒマリは、みんなを守ってきたんだから今回も出来るわ!!」
「でも……」
グレイシアは、苦虫を噛んだような表情を浮かべている。
「ちっ、はずしたか……。もう一度、『殺意の
「あ……危ない!!」
ハートは、腕に怪我を負ったヒマリを
ハートは怖くて目を閉じた。
しかし、
目の前で起きている事実を知りたくないというのも1つの理由だろう。ヒマリの声が聞こえる。とても悲しく嘆いている声。ヒマリがこのような悲痛な声をあげているのは初めてだ。その事実から目を背そむけないと誓い、ハートは閉じていた目を開いた。そこには、背中に大きな傷を負い、血を流して倒れているシフォンの姿が目に入った。
「シ……シフォン、どうして私を守ったの? あなたは、今敵同士なんじゃ……」
「は……はは……、ごめん……なさい。今まで……色々……忘れていた……事がありました……」
シフォンは、苦しげな表情で起き上がろうとしたが、上手く力が入らず、その場に崩れ落ちた。
「シフォン、どうして……」
「ヒ……マリさん、怪我して……しまった……んですね。早く……治療……しないと……けほけほ……」
「もうシフォン、喋っちゃダメ!! 傷が開いちゃう!! あたしは、痛いけどこれぐらい平気……。でも、シフォンの傷は……」
シフォンは、咳き込む。背中の傷が大きく開き、真っ赤な液体で黒のワンピースを濡らしている。これが
「無様だな、シフォン」
「グ……グレイシア……お兄様……」
「この2人を殺せない奴なんていらない。オレは、有能な妹が欲しいんだ。シフォンみたいな無能はいらない。早く消え失せろ、って言ってもそんな傷じゃ無理か。じゃあ、3
シフォンは、その場に
それでも、ヒマリは願い続けた。
「あたしたちは、助かる。昨日の敵は今日の味方になることもあるんだから……。だから、あたしは諦めない!!」
その時だった。
「『幻想世界の
この声に聞き覚えがある。幻想世界への入り口の扉が開かれる。
ヒマリとハート、倒れているシフォンの前にあの人が現れた。グレイシアは、その人を不敵な笑みを浮かべ、見つめ返す。
「現れたか。デカフォニック
ロミオが氷づけにされた建造物の影から姿を見せる。昨夜と同じく不機嫌そうな表情でグレイシアを睨み返す。
「あんたか……。『スペアニア』のリーダー、グレイシアは……」
ロミオは、ヒマリとハート、倒れているシフォンの姿を見ると大きなため息をつく。
「またあんたらか。今回は、僕とグレイシアの戦いだ。あんたらは、ここから逃げろ。今回は、見逃してやる」
「どうしてあなたがここにいるのよ!!」
「良いから。その倒れている女を連れてあんたらは離れてろ。これからは、最高の
ヒマリは倒れているシフォンの近くに近寄る。しかし、シフォンの意識はなく、ぐったりしており、動く気配はなかった。
「あたしたちも戦う」
「何を言う。この男は狂ってるんだぞ?」
「面白い……4人でかかってこいよ。オレがこの氷の剣で全員刻んでやるよ」
ロミオは、大きなため息をつき、ヒマリたちを見る。
「僕の邪魔だけはするなよ。とりあえず引っ込んでろ……」
ヒマリとハートは、シフォンを安全な建物の影に連れていき、ロミオとグレイシアの戦いを見守る事にした。しかし、それがヒマリたちを窮地きゅうちに陥れるものだとその時気づいていない。
シフォンの苦しげな表情を、ヒマリとハートは見つめることしか出来なかった。