謎の老人 前編(執筆者:金城 暁大)
文字数 1,805文字
店主は、シェロのその行動に仰天し、やがて困惑した。
「カロリアーナ様……今、なんと?」
「ですから、あの老人も、私と同じ宿泊者一行に加える、と言っているのよ」
「ですがそれは――」
「あら、これでは足りなくて?」
シェロは袋の中身を取り出し、店主に見せた。
「……いえいえいえ! とんでもございません! 十分過ぎる程でございます!」
そう言いながら、店主は大げさに仰け反り、シェロから袋を取り上げた。そして店主は玄関への道を開け、さあどうぞ! とお辞儀をする。
その様子を見たシェロが店主に短くお礼を言うと、老人に歩み寄り、そして手を差し伸べた。
「さぁ、これで今夜の寝床と食事は大丈夫よ。行きましょう、お爺ちゃん」
すると、老人は涙を流し、シェロの手を取った。
「おおお! お優しい方! なんと有難い!」
老人はシェロに肩を借りながら、店の中に入っていった。
一方、シオン達は、シェロの振る舞いをただ呆然と見ているだけであった。
「……あの嬢ちゃん。本物の美人だな」
やがてシュートの口から出た言葉に、シオンとトウラも頷いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いゃあ、助かりました! まさか、こんなあぶれ者の町で貴女のようなお優しい方に助けてもらえるとは!」
老人はシェロに何度も何度も頭を下げた。
宿の食堂では、シェロの連れてきた老人に怪訝な目を向ける者もいたが、老人は気にも留めず、シェロに助けて貰ったことに歓喜していた。
「なんとお礼をしたら良いか。この御恩は、いつか、いつか必ず返しますぞ」
「良いのよ。あんなお金、はした金だし。そんな事より、食べたらどうかしら? お腹が減っているんでしょ?」
シェロは老人の謝礼を軽く受け流しながら、老人の前に置かれたハンバーグとスープを指し示した。
「おお、そうでした。本当にありがとうございます。では、頂くと致しましょう」
老人は、ホクホクと湯気の出るスープとハンバーグに手を付けた。
それを食べる様子は、さも生死の境を彷徨った者が、この世に生還した様だった。
「おい、爺さん。あんた何日食べていないんだ?」
「はて、さぁ。もうかれこれ1週間近く水しか飲んでいないものでな」
「なんと……」
老人に質問したシュートだけでなく、一同が絶句した。
こんな老人が水だけで1週間も――よく生きられたものだと、誰もが思った。
「お爺さん。お金はどうしたんですか?」
「ええ。お恥ずかしながら、旅の資金は持っていたんですが、1週間前に、この町の賊に盗まれてしまいまして。それからは、こうして宿に泣き寝入りを重ねているという訳ですじゃ」
その話に、シオン達はもちろん、同じ食堂で聞き耳を立てていた宿泊者達も哀れみの目を向けた。
「ですが、こうして、貴方方に救われた! これも旅の何かの縁。きっと精霊様のご加護に違いありませんですじゃ」
そう言いながら、老人はあっという間に料理を平らげたのだった。
「ふぅ、満足満足。大変美味しかったですぞ」
「それは何よりよ。ここの食事は宿の中でも腕前が確かだと有名なのよ」
「ほう。それはまたなんと幸運な。これだから旅は楽しくて止められないのじゃよ。ホッホッホ」
「お爺さん。冒険家なの?」
シオンが尋ねると、老人は白く長い顎鬚を撫でながら、左様、と頷いた。
「儂はしがない冒険家じゃよ。しかし、もう旅を始めてかれこれ60年は経つのう」
「そんなに長い事――」
「そうじゃ。儂はあるものを探していての。それを見つける為に旅を始めたのじゃが、中々見つけられないのじゃ。その間に、気付いたらほれ。こんな老いぼれになってしまったという訳ですじゃ。ホッホッホ」
そんな老人の話に、シオンは目を輝かせる。そこに「ねぇお爺さん!」とシェロが食い付いてきた。
シェロだけではない。シュートもトウラも、シオンのように目を輝かせ、自然と前のめりになっていた。
「もしよろしければ、その話、詳しく聞かせて貰えない?」
尋ねたシェロを見、やがて4人に視線を移した老人。そして、何かを考える様に、手を顎に当てた。
「ふむ。お主達には話しても良いかのう。今夜の御礼もしなければならないし。
……じゃが、ここはちと人が多過ぎる。お主達の部屋で話すとしよう」
「カロリアーナ様……今、なんと?」
「ですから、あの老人も、私と同じ宿泊者一行に加える、と言っているのよ」
「ですがそれは――」
「あら、これでは足りなくて?」
シェロは袋の中身を取り出し、店主に見せた。
「……いえいえいえ! とんでもございません! 十分過ぎる程でございます!」
そう言いながら、店主は大げさに仰け反り、シェロから袋を取り上げた。そして店主は玄関への道を開け、さあどうぞ! とお辞儀をする。
その様子を見たシェロが店主に短くお礼を言うと、老人に歩み寄り、そして手を差し伸べた。
「さぁ、これで今夜の寝床と食事は大丈夫よ。行きましょう、お爺ちゃん」
すると、老人は涙を流し、シェロの手を取った。
「おおお! お優しい方! なんと有難い!」
老人はシェロに肩を借りながら、店の中に入っていった。
一方、シオン達は、シェロの振る舞いをただ呆然と見ているだけであった。
「……あの嬢ちゃん。本物の美人だな」
やがてシュートの口から出た言葉に、シオンとトウラも頷いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「いゃあ、助かりました! まさか、こんなあぶれ者の町で貴女のようなお優しい方に助けてもらえるとは!」
老人はシェロに何度も何度も頭を下げた。
宿の食堂では、シェロの連れてきた老人に怪訝な目を向ける者もいたが、老人は気にも留めず、シェロに助けて貰ったことに歓喜していた。
「なんとお礼をしたら良いか。この御恩は、いつか、いつか必ず返しますぞ」
「良いのよ。あんなお金、はした金だし。そんな事より、食べたらどうかしら? お腹が減っているんでしょ?」
シェロは老人の謝礼を軽く受け流しながら、老人の前に置かれたハンバーグとスープを指し示した。
「おお、そうでした。本当にありがとうございます。では、頂くと致しましょう」
老人は、ホクホクと湯気の出るスープとハンバーグに手を付けた。
それを食べる様子は、さも生死の境を彷徨った者が、この世に生還した様だった。
「おい、爺さん。あんた何日食べていないんだ?」
「はて、さぁ。もうかれこれ1週間近く水しか飲んでいないものでな」
「なんと……」
老人に質問したシュートだけでなく、一同が絶句した。
こんな老人が水だけで1週間も――よく生きられたものだと、誰もが思った。
「お爺さん。お金はどうしたんですか?」
「ええ。お恥ずかしながら、旅の資金は持っていたんですが、1週間前に、この町の賊に盗まれてしまいまして。それからは、こうして宿に泣き寝入りを重ねているという訳ですじゃ」
その話に、シオン達はもちろん、同じ食堂で聞き耳を立てていた宿泊者達も哀れみの目を向けた。
「ですが、こうして、貴方方に救われた! これも旅の何かの縁。きっと精霊様のご加護に違いありませんですじゃ」
そう言いながら、老人はあっという間に料理を平らげたのだった。
「ふぅ、満足満足。大変美味しかったですぞ」
「それは何よりよ。ここの食事は宿の中でも腕前が確かだと有名なのよ」
「ほう。それはまたなんと幸運な。これだから旅は楽しくて止められないのじゃよ。ホッホッホ」
「お爺さん。冒険家なの?」
シオンが尋ねると、老人は白く長い顎鬚を撫でながら、左様、と頷いた。
「儂はしがない冒険家じゃよ。しかし、もう旅を始めてかれこれ60年は経つのう」
「そんなに長い事――」
「そうじゃ。儂はあるものを探していての。それを見つける為に旅を始めたのじゃが、中々見つけられないのじゃ。その間に、気付いたらほれ。こんな老いぼれになってしまったという訳ですじゃ。ホッホッホ」
そんな老人の話に、シオンは目を輝かせる。そこに「ねぇお爺さん!」とシェロが食い付いてきた。
シェロだけではない。シュートもトウラも、シオンのように目を輝かせ、自然と前のめりになっていた。
「もしよろしければ、その話、詳しく聞かせて貰えない?」
尋ねたシェロを見、やがて4人に視線を移した老人。そして、何かを考える様に、手を顎に当てた。
「ふむ。お主達には話しても良いかのう。今夜の御礼もしなければならないし。
……じゃが、ここはちと人が多過ぎる。お主達の部屋で話すとしよう」