トウラの力 前編(執筆者:金城 暁大)
文字数 1,573文字
「どうしよう……。よりによって、ルイドがこんな町だったなんて! こんな町で野宿でもしたら……」
こんな町。
シオンは夜の帳の降りた街並みを見渡した。見ると、町は大きく二つの区画に分けられている。
華やかな商業地区らしい区画と、寂れた住宅街らしい地区だ。
住宅街の建物はとってつけたような小屋が殆どで、殺伐としている。おそらく、この町の税収の殆どが、商業地区に落ち、一般市民には還元されていないのだろう。
そして、その商業地区も、見れば殆どが飲食店と売春宿だった。――シュートの行きつけのあのお店は、本当に稀な店だったらしい。
確かに、こんな所で野宿でもしようものなら、魔法の使えるシュートやトウラは兎に角、シェロは身の危険に晒される。
「シュートさん。この辺に、女性でも問題なく泊まれる宿は無いんですか?」
「うーん、そうなんだよなぁ。この町は観光客が滅多に来ない上、ごろつき者の溜まり場みたいな町だからな。
シェロがストレスを感じずに泊まれる宿は知らねぇな」
「繁華街の宿も、殆どが売春宿と兼業しているしね」
シュートとトウラの話に、シェロががっくりと肩を落とす。
「一応、行きつけの知っている宿はあるんだけど、そこ、予約を取らないと泊まらせてくれないのよ。でも、一応行くだけ行ってみましょうか」
「どこにあるの?」
「まずはルイドを出る必要があるわ。それから――」
「それ、ロップルの宿か?」
不意にトウラが口を挟んだ。瞬間、シェロの血色がたちまち良くなっていく。
「知っているのね……!」
「まあな。この辺には長く居座ってるから何でも知ってるぜ。知ってさえいれば、俺は何処へでも行けるし、何でも移動させる事が出来るんだ」
「そういえばシュートが言っていたわね。確か、あなたは念力で物を遠くへ移動させられるって」
「なんだ、シュートから聞いていたのか。なら話は早い! 俺がその念力で宿まで運んでやろう」
「ただ、トウラの念力は、トウラが知っている物、場所じゃないと使えねぇ……ん? あぁそうか、すっかり忘れてた」
突然、会話の腰を折ったシュートが、ばつが悪そうにトウラを見つめては、口ごもる。
「どうしたんだよ、シュート?」
「いやぁ、すまないトウラ。このお嬢さんの飛行機をカフェまで運ぶことが出来るって言っちまったんだ。トウラはどんな飛行機か知らないっつーのに」
「おいおい。お前俺とどれだけいると思ってるんだよ。それを忘れるなんて。
それに、俺を便利な道具みたいに使うなよ」
「すまない」
平謝りをするシュートを見て、トウラは溜息を吐く。
「……まぁいい。気を取り直して――さぁお三方、俺の周りに集まってくれ」
トウラに言われた通り、三人はトウラの周りに集まった。
すると、トウラは手を地面に向け、何かをぶつぶつと呟き始めた。
――きっと詠唱文だ。呟く彼を中心に、翠色の魔法陣が足元に現れる。
「Spirit SHIRUFU of a wind.《風の精霊シルフよ。》Respond to my desire.《我が願望に応え給え。》
My wish is in a wind.《我が願いは風に。》The wind is raw.《風は生に。》Draft beer is in winsdom.《生は知恵に。》
That's place and that's person,my the memory they can know.《かの場所、かの者は我が知り得る記憶なり。》」
すると、地面の魔法陣が光り出すと同時に、トウラを中心に周りに小さな竜巻が巻き起こった。
「Movement !」
その詠唱が終わるや否や、シオン達の姿は忽然とその場から消えた。
こんな町。
シオンは夜の帳の降りた街並みを見渡した。見ると、町は大きく二つの区画に分けられている。
華やかな商業地区らしい区画と、寂れた住宅街らしい地区だ。
住宅街の建物はとってつけたような小屋が殆どで、殺伐としている。おそらく、この町の税収の殆どが、商業地区に落ち、一般市民には還元されていないのだろう。
そして、その商業地区も、見れば殆どが飲食店と売春宿だった。――シュートの行きつけのあのお店は、本当に稀な店だったらしい。
確かに、こんな所で野宿でもしようものなら、魔法の使えるシュートやトウラは兎に角、シェロは身の危険に晒される。
「シュートさん。この辺に、女性でも問題なく泊まれる宿は無いんですか?」
「うーん、そうなんだよなぁ。この町は観光客が滅多に来ない上、ごろつき者の溜まり場みたいな町だからな。
シェロがストレスを感じずに泊まれる宿は知らねぇな」
「繁華街の宿も、殆どが売春宿と兼業しているしね」
シュートとトウラの話に、シェロががっくりと肩を落とす。
「一応、行きつけの知っている宿はあるんだけど、そこ、予約を取らないと泊まらせてくれないのよ。でも、一応行くだけ行ってみましょうか」
「どこにあるの?」
「まずはルイドを出る必要があるわ。それから――」
「それ、ロップルの宿か?」
不意にトウラが口を挟んだ。瞬間、シェロの血色がたちまち良くなっていく。
「知っているのね……!」
「まあな。この辺には長く居座ってるから何でも知ってるぜ。知ってさえいれば、俺は何処へでも行けるし、何でも移動させる事が出来るんだ」
「そういえばシュートが言っていたわね。確か、あなたは念力で物を遠くへ移動させられるって」
「なんだ、シュートから聞いていたのか。なら話は早い! 俺がその念力で宿まで運んでやろう」
「ただ、トウラの念力は、トウラが知っている物、場所じゃないと使えねぇ……ん? あぁそうか、すっかり忘れてた」
突然、会話の腰を折ったシュートが、ばつが悪そうにトウラを見つめては、口ごもる。
「どうしたんだよ、シュート?」
「いやぁ、すまないトウラ。このお嬢さんの飛行機をカフェまで運ぶことが出来るって言っちまったんだ。トウラはどんな飛行機か知らないっつーのに」
「おいおい。お前俺とどれだけいると思ってるんだよ。それを忘れるなんて。
それに、俺を便利な道具みたいに使うなよ」
「すまない」
平謝りをするシュートを見て、トウラは溜息を吐く。
「……まぁいい。気を取り直して――さぁお三方、俺の周りに集まってくれ」
トウラに言われた通り、三人はトウラの周りに集まった。
すると、トウラは手を地面に向け、何かをぶつぶつと呟き始めた。
――きっと詠唱文だ。呟く彼を中心に、翠色の魔法陣が足元に現れる。
「Spirit SHIRUFU of a wind.《風の精霊シルフよ。》Respond to my desire.《我が願望に応え給え。》
My wish is in a wind.《我が願いは風に。》The wind is raw.《風は生に。》Draft beer is in winsdom.《生は知恵に。》
That's place and that's person,my the memory they can know.《かの場所、かの者は我が知り得る記憶なり。》」
すると、地面の魔法陣が光り出すと同時に、トウラを中心に周りに小さな竜巻が巻き起こった。
「
その詠唱が終わるや否や、シオン達の姿は忽然とその場から消えた。