謎の老人    後編(執筆者:金城 暁大)

文字数 1,253文字

(ドラゴン)の力を使い続ければ、やがて器であるお主の肉体が力に耐え切れず、崩壊を起こす。
 そもそも(ドラゴン)の魔素は人間の肉体などには収まらんのじゃ。何もしなくても肉体は滅びてしまうじゃろう。まるで熟れた果実の様にな」
「そんな――!」
「今のお主の身体は、今にも溢れそうに並々と水が注がれたコップの様なものじゃ。そのままでいれば、やがて器から水が溢れ、器も壊れてしまう」

 その話に、トウラは悪寒を覚えた。

「お、俺、どうなるんですか?」
「じゃから、死ぬであろうと言ったじゃろう」

 あっけらかんと告げたオウルニムス。4人からは何も言葉が出ない。

 やがて、死を告げられたトウラの目から、涙が滝の様に溢れ出てきたのだ。

「俺、嫌だ! こんな若さで! こんな訳の分からない世界で! 俺は死にたくなんか無い!」

 俺を助けて下さい! と、トウラはオウルニムスの服の裾を掴み、すがった。
 シュートが落ち着かせようと声をかけるも、トウラは――半ばパニック状態だ――泣き喚き、言う事を聞かない。

 一方で、オウルニムスは呆れた様に溜め息をついていた。

「何をそんなに喚く必要がある」
「そりゃあそうだろ!? トウラはいつか死んじまうんだろ!?」
「いや。助かる方法はある」
「は?」

 オウルニムスの言葉に、トウラはぴたりと泣き止んだ。

「お、オウルニムスさん……今、なんて?」
「じゃから、助かる方法はあると言ったんじゃよ」
「本当ですか!? どんな、どんな方法なんですか!?」

 オウルニムスは安心せよと言うように穏やかに言った。

「ある人物を頼るのじゃ」
「ある人物?」
「そやつは、お主らと同じ転生者じゃ。
 じゃが、お主達の元いた世界とはまた異なる世界の住人での。加えて、そやつは人では無い」
「人ではない、転生者、ですか?」
「そうじゃ。そいつに(ドラゴン)の力を移し替えると良い。そうすれば、お主の身体は元に戻り、死の危険からも逃れられる」
「何処にいるんですかその人!」
「そやつはここから離れた、シャールという村の教会におる。レッド・マウンテンズを崇拝する教団の教会じゃ。そやつの名は、“ノア・ルクス”と言う。
 じゃが、注意しておけ。少し気難しい奴での。儂がこの世界の事を教えたばかりに警戒心が強くなってしまってな。協力してくれるかは、約束出来ないのじゃ」
「それでも構わないです! 頼るしか他に無い!」

 オウルニムスの話に、4人の肩からわずかに重みが外れた。

「良かったですね、トウラさん!」
「じゃあ、早速明日、シャールの村に行きましょう!」
「決まりだな、トウラ」
「ああ! 力づくでも協力させるぜ」

 4人の瞳に希望が宿ったのを確認すると、老人は柔らかな笑みを浮かべた。
 オウルニムスはまた懐から水筒を取り出し、中身を口に含むと、備え付けのサイドチェストに水筒を置き、再び口を開いた。


「さて、話が逸れたが、ここからが本題の話じゃ」
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