賊との戦いと彼女との出会い《執筆者:鈴鹿 歌音》
文字数 3,144文字
賊に襲われている女性は完全に怯えていた。辺りには、氷の塊がいくつか転がっている。
「この低俗な賊が……本当に卑怯ね。何の罪もない女の人を襲うなんて……」
ハートは、賊に対して激しい怒りを覚える。ヒマリは、どのようにして女性を助けるかを考える。
「ハートにお願いがあるの」
「ヒマリ、いきなりどうしたの?」
「あたしが『奴ら』をひきつけるわ。そのうちに女の人を助けよ。あたしたちになら出来るよ。だって、あたしにはハートが付いているんだから!!」
ヒマリの決意にハートは、自らも決心を固めた。「あの女性を何としてでも助ける」、「見捨てる訳にはいかない」という決心。全ては、ヒマリの行動にかかっている。
ヒマリは、賊と女性の間に飛び込んだ。こんな時、ヒマリの体型が小柄であることが何よりの救いでもある。
「か弱い女の子を襲うなんて最悪だよ、おじさんたち」
ヒマリから見ると『奴ら』は、おじさんなんだろう。それを聞いた『奴ら』は表情を歪める。
「何だよ、このガキ」
ヒマリは、わざと『奴ら』の逆鱗に触れたのだ。これも作戦のうちにすぎない。
「あの……あなたは?」
「あなたは逃げて!! ここは、あたしがひきつけるから!!」
ヒマリは、女性を背後に隠し、『奴ら』と睨みあう。女性の怯えがヒマリにまで伝わる。
「(本当は、あたしも怖い。でも、この人は一般の人だから守らないと……。でも、どうしたら……)」
『奴ら』は、賊だ。怯 えの表情を見せてはいけない。怯 んではいけない。
その時だった。
「お止めなさい!!」
一つの声にヒマリと女性は助けられることになる。
「何だ、貴様!!」
「私の事、『貴様』呼ばわりとは……。私の顔を見忘れたのかしら」
賊たちは、ハートの顔を睨み付ける。次の瞬間、戦意を喪失したかのように賊たちは顔を見合せ、逃走を図る。
「お……覚えていろよ。今回は、この女に免じて見逃してやる。次回は、簡単に生きて帰さないからな。これも『あの人』に伝えないと……。死んだと思った人が生きていたって……」
最後には、有名な負け台詞を残し、賊たち全員が撤退していった。
ヒマリたちは、最初の難関を無事に突破したのだ、と実感した。
「あ……あの……」
か細い声で女性がヒマリたちに話しかけてきた。出会った頃よりも怯えの表情が無くなり、眉もさっきよりは凛々しくなっていた。
「あっ……あなた大丈夫だったかしら?」
「は……はい、おかげさまで助かりました」
ハートは、女性の黒のワンピースについていた土ぼこりを叩はたいている。それを見たヒマリは、ハートが優しい事に妖あやしげな笑みを隠すことが出来ない。
「土ぼこりがついていたからとってあげたわ」
「ありがとうございます。あなたたちはどうしてここにいるんですか? ここは、通行量が殆ほとんど無くて、3つのキャンプぐらいしか無いんですよ。それに賊による襲撃多発地帯です。あなたたちは、早く元の麓に戻った方が……」
女性の言葉を遮ったのは、ヒマリだった。
「あの……あたしたち、スペードキングダムを目指して旅しているの」
「そうそう、私たちはしがない旅人なのよ。だから、スペードキングダムに向かう必要があるの。あそこには、私たちが求めている何かが眠っているかもしれない、って告げているのよ」
ハートの言葉に心から折れたのか、女性は大きなため息をついた。
「良いですよ」
「「えっ?」」
「私 が、スペードキングダムまでついていきますわ」
女性は銀色のポニーテールをデカフォニック渓谷 の乾いた風と隠者の森 から登ってくる冷たい風に揺られている。
「ほんと!?」
ヒマリは、子供のように目を輝かせ、女性の腕にしがみつく。
「本当ですよ。私 これでもスペードキングダムで宝石商をしている長女ですから」
「で、宝石を運んでいる最中に賊に襲われたって事ね」
「はい、そのようで……。ここはいつも賊たちが籠城 している地帯として有名なデカフォニック渓谷 。隠者の森 は、刺客とかが要人の命を狙う時に使う場所とか……。ここは、それだけ危険に溢れた地帯なんですよ」
ここで一つの矛盾が起きてしまう。ヒマリはそれに気がついていた。
「じゃあ、どうして他のルートを通らなかったの?」
「私 には、お兄様との約束があって……」
「ヒマリ、それ以上の詮索は不要よ。この子を私たちの仲間にするわ」
ハートの言葉に一同度肝を抜かれることになってしまった。結局、女性はハートの言葉に賛同したので女性と一緒に旅を続けることになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「へぇぇ、あなた『シフォン』というの」
「はい!私 は、スペードキングダムで宝石商を営んでいるシフォンと申します。以後お見知りおきを……」
「シフォンはどうして川沿いにいたの? 」
シフォンは、思い出すかのように自分の記憶をポツリポツリと話し始めた。
「私 には、グレイシアお兄様がいるんだけど、時々仕事が嫌になって行方を眩 す時があるんですよ。今回に至っては、デカフォニック渓谷 の第一中継地点であるイザベラ・キャンプに向かっていた最中に賊が現れたと同時に姿を眩 せたのですよ」
ヒマリとハートは、シフォンの兄に怒りを覚える。女の子を守らずに逃げたへっぽこ、ならず者、……。言い出したら言い出したで大量の悪口が出てくるので戯れ言はここまでにし、ヒマリとハートは、向き合った。
「そのイザベラ・キャンプにはいったい何があるの?」
「御神木とマリア・イザベラの宮殿です」
ヒマリは、空を見上げる。鬱蒼と生える草花のお陰で時間の感覚さえ可笑しくなってしまう。ここに来て何時間の時が流れたかも分からないし。
「とりあえず、ヒマリ、シフォン」
「どうしたの、ハート。何か良い案思いついたの?」
ハートは、いきなり微笑み、イザベラ・キャンプの方角に指を指した。
「今日は朝早かったからここまでよ。女の子同士で温泉にも入ってみたかったのよね」
いきなりテンションが上がるハートにヒマリは見覚えがあった。シフォンには言えないが、こうなってしまったハートを抑えられる人間は、ここにはいないのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
辺りが暗くなり始めた。ヒマリたちは、最初のキャンプ地であるイザベラ・キャンプに到着した。人々が焚き火を囲み、食事の配給をしているのが目についた。楽しげな曲が流れており、ここまで戦争の火種は広がっていないんだ、と実感する。
「ここが、イザベラ・キャンプです。山岳地帯なので夜はとても冷えるのです。そんな彼らの主食としているのが、ジャガイモを温めたミルクで和えたスープですね」
「あたし、ミルク大好きだから嬉しい」
ヒマリは、早速ホクホクのジャガイモを口の中に頬張る。熱い……ミルクが効いていて美味しい。
「ちょっとヒマリの舌が心配になってきたわ……」
「そんなことよりマリア・イザベラ様はどこにいるのでしょうか?」
賑やかな雰囲気に落ち着きが戻ってくる。次の瞬間、歓声があがった。
ハート、ヒマリ、シフォンの目の前に現れたのは、巫女装束に身を包んだヒマリより幾つか若い感じの女の子。使用人に守られ、キャンプのある町に降りてきた。
「この低俗な賊が……本当に卑怯ね。何の罪もない女の人を襲うなんて……」
ハートは、賊に対して激しい怒りを覚える。ヒマリは、どのようにして女性を助けるかを考える。
「ハートにお願いがあるの」
「ヒマリ、いきなりどうしたの?」
「あたしが『奴ら』をひきつけるわ。そのうちに女の人を助けよ。あたしたちになら出来るよ。だって、あたしにはハートが付いているんだから!!」
ヒマリの決意にハートは、自らも決心を固めた。「あの女性を何としてでも助ける」、「見捨てる訳にはいかない」という決心。全ては、ヒマリの行動にかかっている。
ヒマリは、賊と女性の間に飛び込んだ。こんな時、ヒマリの体型が小柄であることが何よりの救いでもある。
「か弱い女の子を襲うなんて最悪だよ、おじさんたち」
ヒマリから見ると『奴ら』は、おじさんなんだろう。それを聞いた『奴ら』は表情を歪める。
「何だよ、このガキ」
ヒマリは、わざと『奴ら』の逆鱗に触れたのだ。これも作戦のうちにすぎない。
「あの……あなたは?」
「あなたは逃げて!! ここは、あたしがひきつけるから!!」
ヒマリは、女性を背後に隠し、『奴ら』と睨みあう。女性の怯えがヒマリにまで伝わる。
「(本当は、あたしも怖い。でも、この人は一般の人だから守らないと……。でも、どうしたら……)」
『奴ら』は、賊だ。
その時だった。
「お止めなさい!!」
一つの声にヒマリと女性は助けられることになる。
「何だ、貴様!!」
「私の事、『貴様』呼ばわりとは……。私の顔を見忘れたのかしら」
賊たちは、ハートの顔を睨み付ける。次の瞬間、戦意を喪失したかのように賊たちは顔を見合せ、逃走を図る。
「お……覚えていろよ。今回は、この女に免じて見逃してやる。次回は、簡単に生きて帰さないからな。これも『あの人』に伝えないと……。死んだと思った人が生きていたって……」
最後には、有名な負け台詞を残し、賊たち全員が撤退していった。
ヒマリたちは、最初の難関を無事に突破したのだ、と実感した。
「あ……あの……」
か細い声で女性がヒマリたちに話しかけてきた。出会った頃よりも怯えの表情が無くなり、眉もさっきよりは凛々しくなっていた。
「あっ……あなた大丈夫だったかしら?」
「は……はい、おかげさまで助かりました」
ハートは、女性の黒のワンピースについていた土ぼこりを叩はたいている。それを見たヒマリは、ハートが優しい事に妖あやしげな笑みを隠すことが出来ない。
「土ぼこりがついていたからとってあげたわ」
「ありがとうございます。あなたたちはどうしてここにいるんですか? ここは、通行量が殆ほとんど無くて、3つのキャンプぐらいしか無いんですよ。それに賊による襲撃多発地帯です。あなたたちは、早く元の麓に戻った方が……」
女性の言葉を遮ったのは、ヒマリだった。
「あの……あたしたち、スペードキングダムを目指して旅しているの」
「そうそう、私たちはしがない旅人なのよ。だから、スペードキングダムに向かう必要があるの。あそこには、私たちが求めている何かが眠っているかもしれない、って告げているのよ」
ハートの言葉に心から折れたのか、女性は大きなため息をついた。
「良いですよ」
「「えっ?」」
「
女性は銀色のポニーテールをデカフォニック
「ほんと!?」
ヒマリは、子供のように目を輝かせ、女性の腕にしがみつく。
「本当ですよ。
「で、宝石を運んでいる最中に賊に襲われたって事ね」
「はい、そのようで……。ここはいつも賊たちが
ここで一つの矛盾が起きてしまう。ヒマリはそれに気がついていた。
「じゃあ、どうして他のルートを通らなかったの?」
「
「ヒマリ、それ以上の詮索は不要よ。この子を私たちの仲間にするわ」
ハートの言葉に一同度肝を抜かれることになってしまった。結局、女性はハートの言葉に賛同したので女性と一緒に旅を続けることになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「へぇぇ、あなた『シフォン』というの」
「はい!
「シフォンはどうして川沿いにいたの? 」
シフォンは、思い出すかのように自分の記憶をポツリポツリと話し始めた。
「
ヒマリとハートは、シフォンの兄に怒りを覚える。女の子を守らずに逃げたへっぽこ、ならず者、……。言い出したら言い出したで大量の悪口が出てくるので戯れ言はここまでにし、ヒマリとハートは、向き合った。
「そのイザベラ・キャンプにはいったい何があるの?」
「御神木とマリア・イザベラの宮殿です」
ヒマリは、空を見上げる。鬱蒼と生える草花のお陰で時間の感覚さえ可笑しくなってしまう。ここに来て何時間の時が流れたかも分からないし。
「とりあえず、ヒマリ、シフォン」
「どうしたの、ハート。何か良い案思いついたの?」
ハートは、いきなり微笑み、イザベラ・キャンプの方角に指を指した。
「今日は朝早かったからここまでよ。女の子同士で温泉にも入ってみたかったのよね」
いきなりテンションが上がるハートにヒマリは見覚えがあった。シフォンには言えないが、こうなってしまったハートを抑えられる人間は、ここにはいないのだから。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
辺りが暗くなり始めた。ヒマリたちは、最初のキャンプ地であるイザベラ・キャンプに到着した。人々が焚き火を囲み、食事の配給をしているのが目についた。楽しげな曲が流れており、ここまで戦争の火種は広がっていないんだ、と実感する。
「ここが、イザベラ・キャンプです。山岳地帯なので夜はとても冷えるのです。そんな彼らの主食としているのが、ジャガイモを温めたミルクで和えたスープですね」
「あたし、ミルク大好きだから嬉しい」
ヒマリは、早速ホクホクのジャガイモを口の中に頬張る。熱い……ミルクが効いていて美味しい。
「ちょっとヒマリの舌が心配になってきたわ……」
「そんなことよりマリア・イザベラ様はどこにいるのでしょうか?」
賑やかな雰囲気に落ち着きが戻ってくる。次の瞬間、歓声があがった。
ハート、ヒマリ、シフォンの目の前に現れたのは、巫女装束に身を包んだヒマリより幾つか若い感じの女の子。使用人に守られ、キャンプのある町に降りてきた。