再びの空へ 後編(執筆者:金城 暁大)
文字数 2,702文字
教会はすぐに見つかった。村人の言っていた通り、あのまま道を真っ直ぐに進めば目の前に現れた。
ルネサンス様式の中々大層な教会だ。
教会の尖塔の先には、洋紅色の魔鉱石を掲げる銅像が建っている。
あれは誰だろうか。
「中に入りましょう。」
シェロの言葉に、一同は教会の中に入った。
教会の中はとても物静かだった。礼拝堂には数人いるが、皆熱心に祈りを捧げており、声高に話をするものは誰一人としていない。せいぜい信者から呟かれている祈りの言葉が聞こえるだけだ。
天井はドームになっており、ステンドグラスの採光窓からは荘厳な光が礼拝堂の中を照らしていた。
ドームの内側に描かれているのは絵だ。あれは何の絵だろう?多くの人が、何か光るものを掴もうと互いに押しのけ合いながら必死の形相で争っている。その足元には、刺又を掲げた黒い人が、彼らを追い立てている。
あの絵にはきっと、物語があるに違いない。
一行は礼拝堂の奥にある祭壇の前まで歩いて行った。
「凄い……。」
シオンはそれを前にして思わず呟いた。
祭壇は抱える程の、尖塔にあった物と同じ色の魔鉱石が燭台に囲まれておかれている。だがシオンの目を奪ったのはそれではない。
その背後の上部、
そこには巨大な金の山のイコンがあった。全体がくまなく金で作られた山は、初見のシオンにもそれが何の山かわかった。
「これが、レッド・マウンテンズなんだね。」
シェロが返答しようとしたその時だった。
「はい。その通りです。」
一同の背後から、穏やかな声がした。
「この金の山こそ、この世界の人々が何よりも崇めている聖なる山です。この山が火を噴く時、世界には災厄がもたらされ、人という人は死を迎えるとされております。それこそ、神が人の罪を裁くための贖罪だと伝えられています。」
突然饒舌に説明する女性に、シオンは困惑した。見た所ここのシスターだろうか。黒い礼服で頭から足先まで身を包んでいる。
「貴方がここの管理者ですか?」
「いいえ、私はここのシスターに過ぎません。司教様は別にいます。ここに来るのは初めてですか?」
そのシスターの問いに戸惑うシオンの代わりに、シェロが答えた。
「ええ、そうです。私たちは冒険者なのですが、旅の安全を祈る為にここに来たのです。ここは非常にご加護があると伺って。」
「それはよろしい事です。ここでの祈りは聖山へ必ず届きます。それが、人々の救いになるのです。」
するとシスターは、祭壇の横の台の上に置かれた器を指し示した。
「ここにお布施をすれば、皆様の願いはより一層強く叶えられます。僅かでもよいのですが、お布施は多ければ多いほど、聖山からの加護があります。」
そのシスターの後ろめたさのない振る舞いに、シュートとトウラは目を細めた。
「お布施とやらはいくらかなら良いんだ?」
「200アイロです。」
その金額に、シュートは舌打ちをした。
「ここに集まる信者は月にどのくらいだ?」
「そうですね……大体3000人程でしょうか?」
「それはこの村だけじゃないな。外部からも信者を集めているだろう。」
「そうですね。ここのような規模の教会は、この周辺の村には無いものですから。中には教会が無い村も多くありますね。」
それを聞くと、シュートは鼻で笑った。
「200アイロか。それだけ聞くとそうでもない額だが、ここに来る人数を考えると大層な額になるな。」
すると、シスターは悪びれもせずに手を合わせて微笑んだ。
「ええ、そうなんです。皆様とても熱心で、ここの運営資金は大変潤っております。」
すると今度はトウラが尋ねた。
「その協会の運営資金、本当に全部が教会の運営に下りているんですか?」
「勿論です。教会の維持にはお金がかかりますからね。全部、余すところなく使わせていただいてますよ。」
その時だった。
「シスターセリア、何をしているのです?」
セリアと呼ばれたシスターの後ろから、彼女と同様に黒い礼服に身を包んだ老人が現れた。
「これは司教様、今丁度、冒険者の方々に教えを説いていた所です。」
「下がりなさい。貴方は奥で昼食の準備を。」
「はい。」
司教の言葉に、シスターセリアは礼拝堂の裏手の部屋に姿を消した。
「これは彼女が飛んだご無礼を。どうかお許しください旅の方、彼女はまだ修道中のみでして。」
「貴方がここの司教さんですね?」
シオンの言葉に、老人は頷いた。
「はい。私がこの教会の司教を務める、ヨハネス・アリディアーナです。」
司教が頭を下げると、つられて4人も頭を下げた。
ヨハネス司教は頭を上げると、険しい表情を見せて言った。
「あなた方はここに祈りに来たのではないですね?目的は何です?」
するとシュートが前に出て問いかけた。
「ここに、ノア・ルクスという人物がいるはずだ。」
だが、司教は首を傾げた。
「はて?その様な人物はここにはおりませんが。」
するとシュ-トは、ヨハネスの耳元で囁くように言った。
「ノアとやらが転生者なのは知っている。俺達は大賢人オウルニムスに教えられここに来た。俺達もノアと同じ転生者だ。ノアに助けて欲しい事がある。」
するとヨハネスは一瞬驚いた表情を見せたが、何かを思いついたかのように落ち着きを取り戻した。
「わかりました。ですがここは礼拝堂です。他に何も知らない信者の方々もおります。どうぞ奥へ。」
そう言って、ヨハネス司教はシスターセリアの入って行った扉を案内した。
♦ ♦ ♦
「さて、ノアに何用です?」
司教室に招かれた一同は、各々椅子に座ったり、壁に寄りかかったりしていた。
自然と一行の代表者になっているシェロが司教と向かい合った。
「実は早急にノア・ルクスに頼みたいことがありまして――」
* * *
シェロが一通り事情を話すと、司教は手を組んで考え込んだ。
「成る程、聖獣の魔素を……それは確かに常人では扱いきれぬものですね。」
「ですから、ぜひノア・ルクスのお力をと思いまして。聞けば彼は人ではないそうですね。」
「ええ、私も彼から彼の素性については聞いています。確かに大賢人の理屈では、ノアは竜 の魔素を取り込め、使えるでしょう。ですが彼は……。」
するとその時、部屋のドアが開いた。
「話は聞かせてもらった。」
ルネサンス様式の中々大層な教会だ。
教会の尖塔の先には、洋紅色の魔鉱石を掲げる銅像が建っている。
あれは誰だろうか。
「中に入りましょう。」
シェロの言葉に、一同は教会の中に入った。
教会の中はとても物静かだった。礼拝堂には数人いるが、皆熱心に祈りを捧げており、声高に話をするものは誰一人としていない。せいぜい信者から呟かれている祈りの言葉が聞こえるだけだ。
天井はドームになっており、ステンドグラスの採光窓からは荘厳な光が礼拝堂の中を照らしていた。
ドームの内側に描かれているのは絵だ。あれは何の絵だろう?多くの人が、何か光るものを掴もうと互いに押しのけ合いながら必死の形相で争っている。その足元には、刺又を掲げた黒い人が、彼らを追い立てている。
あの絵にはきっと、物語があるに違いない。
一行は礼拝堂の奥にある祭壇の前まで歩いて行った。
「凄い……。」
シオンはそれを前にして思わず呟いた。
祭壇は抱える程の、尖塔にあった物と同じ色の魔鉱石が燭台に囲まれておかれている。だがシオンの目を奪ったのはそれではない。
その背後の上部、
そこには巨大な金の山のイコンがあった。全体がくまなく金で作られた山は、初見のシオンにもそれが何の山かわかった。
「これが、レッド・マウンテンズなんだね。」
シェロが返答しようとしたその時だった。
「はい。その通りです。」
一同の背後から、穏やかな声がした。
「この金の山こそ、この世界の人々が何よりも崇めている聖なる山です。この山が火を噴く時、世界には災厄がもたらされ、人という人は死を迎えるとされております。それこそ、神が人の罪を裁くための贖罪だと伝えられています。」
突然饒舌に説明する女性に、シオンは困惑した。見た所ここのシスターだろうか。黒い礼服で頭から足先まで身を包んでいる。
「貴方がここの管理者ですか?」
「いいえ、私はここのシスターに過ぎません。司教様は別にいます。ここに来るのは初めてですか?」
そのシスターの問いに戸惑うシオンの代わりに、シェロが答えた。
「ええ、そうです。私たちは冒険者なのですが、旅の安全を祈る為にここに来たのです。ここは非常にご加護があると伺って。」
「それはよろしい事です。ここでの祈りは聖山へ必ず届きます。それが、人々の救いになるのです。」
するとシスターは、祭壇の横の台の上に置かれた器を指し示した。
「ここにお布施をすれば、皆様の願いはより一層強く叶えられます。僅かでもよいのですが、お布施は多ければ多いほど、聖山からの加護があります。」
そのシスターの後ろめたさのない振る舞いに、シュートとトウラは目を細めた。
「お布施とやらはいくらかなら良いんだ?」
「200アイロです。」
その金額に、シュートは舌打ちをした。
「ここに集まる信者は月にどのくらいだ?」
「そうですね……大体3000人程でしょうか?」
「それはこの村だけじゃないな。外部からも信者を集めているだろう。」
「そうですね。ここのような規模の教会は、この周辺の村には無いものですから。中には教会が無い村も多くありますね。」
それを聞くと、シュートは鼻で笑った。
「200アイロか。それだけ聞くとそうでもない額だが、ここに来る人数を考えると大層な額になるな。」
すると、シスターは悪びれもせずに手を合わせて微笑んだ。
「ええ、そうなんです。皆様とても熱心で、ここの運営資金は大変潤っております。」
すると今度はトウラが尋ねた。
「その協会の運営資金、本当に全部が教会の運営に下りているんですか?」
「勿論です。教会の維持にはお金がかかりますからね。全部、余すところなく使わせていただいてますよ。」
その時だった。
「シスターセリア、何をしているのです?」
セリアと呼ばれたシスターの後ろから、彼女と同様に黒い礼服に身を包んだ老人が現れた。
「これは司教様、今丁度、冒険者の方々に教えを説いていた所です。」
「下がりなさい。貴方は奥で昼食の準備を。」
「はい。」
司教の言葉に、シスターセリアは礼拝堂の裏手の部屋に姿を消した。
「これは彼女が飛んだご無礼を。どうかお許しください旅の方、彼女はまだ修道中のみでして。」
「貴方がここの司教さんですね?」
シオンの言葉に、老人は頷いた。
「はい。私がこの教会の司教を務める、ヨハネス・アリディアーナです。」
司教が頭を下げると、つられて4人も頭を下げた。
ヨハネス司教は頭を上げると、険しい表情を見せて言った。
「あなた方はここに祈りに来たのではないですね?目的は何です?」
するとシュートが前に出て問いかけた。
「ここに、ノア・ルクスという人物がいるはずだ。」
だが、司教は首を傾げた。
「はて?その様な人物はここにはおりませんが。」
するとシュ-トは、ヨハネスの耳元で囁くように言った。
「ノアとやらが転生者なのは知っている。俺達は大賢人オウルニムスに教えられここに来た。俺達もノアと同じ転生者だ。ノアに助けて欲しい事がある。」
するとヨハネスは一瞬驚いた表情を見せたが、何かを思いついたかのように落ち着きを取り戻した。
「わかりました。ですがここは礼拝堂です。他に何も知らない信者の方々もおります。どうぞ奥へ。」
そう言って、ヨハネス司教はシスターセリアの入って行った扉を案内した。
♦ ♦ ♦
「さて、ノアに何用です?」
司教室に招かれた一同は、各々椅子に座ったり、壁に寄りかかったりしていた。
自然と一行の代表者になっているシェロが司教と向かい合った。
「実は早急にノア・ルクスに頼みたいことがありまして――」
* * *
シェロが一通り事情を話すと、司教は手を組んで考え込んだ。
「成る程、聖獣の魔素を……それは確かに常人では扱いきれぬものですね。」
「ですから、ぜひノア・ルクスのお力をと思いまして。聞けば彼は人ではないそうですね。」
「ええ、私も彼から彼の素性については聞いています。確かに大賢人の理屈では、ノアは
するとその時、部屋のドアが開いた。
「話は聞かせてもらった。」