胸騒ぎ《執筆者:美島 郷志》
文字数 2,958文字
「ねぇクイーンさん、「アイデンティティーナンバー」ってなに?」
「えっ……女王から説明されてないのですか?」
私が尋ねると、クイーンさんは驚いた様子で聞き返した。
「じゃあ、女王が「A」のナンバーを持っている事も?」
「う、うん。全然知らない。」
「そうですか……何故そんな大事なことを……。」
「??」
クイーンさんの困惑した様子を見ていると、アイデンティティナンバーの事を知らないのはまずそうだ。
でも、そのアイデンティティナンバーって何なんだろう?
「それじゃあーいっくよぉー!!」
フィフスが首飾りを力任せに引っ張り、パキンと弾ける音がした。
直後、首飾りの石板が輝き出し、フィフスの手の中でその姿を変える。それは長く、太く伸び始め、一つの武器のような形に変わっていく。
斧?……槍?……鎌?……違う。
「全部だ……。」
フィフスの獲物は、今まで見た武器の中で一番凶悪そうだ。まっすぐ伸びた槍の両隣に、分厚い刃の斧のような部分と、鋭く曲がった鎌のような刃が付いている。何よりもずっしりとした見た目がおぞましい。
フィフスはそれを軽々持ち上げると、頭上でぶんぶんと振り回す。
風圧が頭を掠める度、思わず頭が下がってしまう。
「可愛らしい顔をしてなんて危ないの……。」
「かっこいーでしょ!」
「た、確かにお兄ちゃんとか好きそうだけど……。」
正直、女の子の私はドン引きです。
そうして演武を終えたフィフスは無邪気な笑顔をみせる。すると、クイーンさんが問いかける。
「フィフス……あなたはここに居るつもりですか?」
「……ううん、行くよ。それがお父さんとの約束だから。」
「約束……。」
フィフスはここで、どんな気持ちで待っていたんだろう。お父さんとお母さんが死んでしまって、どんな風に生きてきたんだろう。
今まで姿を見せなかったのは、きっとクイーンさんやトゥエルブさんの事を考えた、お父さんの言伝だったのかもしれない。そう言えば、クイーンさんが受け取ったお父さんの手紙には、なんて書いてあったんだろう?
それも気になるけど、どうしてこのタイミングで、フィフスは私たちの前に現れたのだろう?
「危険なにおいがする。」
「危険?……まさかそれを伝えに?」
「うん。獣を殺すときみたいな、冷たいにおい。」
私の心を読み取ったかのように、フィフスが眉をひそめて一点を見つめる。でも、その方向は雑木林に隠れてしまっていてわからない。
「……フィフスの勘がどの程度かは知りませんが、いつまでもここに居る訳にはいきません。一度外に出ましょう。」
「うん。私も行くよ。」
誘拐騒動の後、ダイヤシティはフィフスと言う心強い味方を得られた。
でもクイーンさんとトゥエルブさん、また顔を合わせたら喧嘩し始めるのかな……。それはなんだか憂鬱だ。二人とも、本当は凄くいい人なはずなのに、どうしてこんなことにならなくちゃいけないのかな……。
一抹の不安を抱えながら、私たちは雑木林を出た。すると人影が真っ直ぐこちらへと近づいてくる。
「あれは……ハート!?」
「ヒマリ!!よかった、無事みたいね!」
心配して追いかけてきてくれたのか、ハートは私達の前でぜぇはぁ言いながら立ち止まり、よろめきながら私に抱き着いてきた。
「もう!……お願いだから……黙ってどっかいかないでよ……。」
「ハート……。」
ハートの抱きしめる力が強い。段々と胸の奥が締め付けられるような痛みが染み渡る。
「うん……心配かけてごめんね。」
私はハートを抱きしめて、震える小さな肩を優しく叩く。
「ハート!クイーンたちは見つかったのか!?」
「トゥエルブ!!どうしてここに!?」
ハートの後を追ってきたのか、鎧を脱ぎ捨て黒インナーと剣だけの姿になったトゥエルブさんに、クイーンさんは驚きの声を上げる。
クイーンさんが驚くのもわかるけど……どうしてトゥエルブさんは鎧を脱いでるの?それに、体中凄い傷だらけだ。新しくはないけれど、見ていてとても痛々しい。
「お前が急に飛び出して行くからだろう?まったく、少しは考えて動いたらどうだ?」
「それは……ですがあなただってそうです!商会の面々を置いてくるだなんて、もし何かあったらどうするんですか!?」
「はぁ!?心配して来てやったのに、少しも可愛げがないなお前は!」
「なっ!?トゥエルブに心配されるほど弱くなんてないです!心外です!」
「なんだとこの頭デッカチ!!」
「このおせっかい焼き!!」
「えぇ!?ちょっとちょっとちょっと!?」
顔を合わせるなり盛大な姉妹喧嘩を始める二人。なんか凄いいい雰囲気の再会だったのに、どうしてこうなったの!?
「…………ぷっ、くくっ、あっははははははっ!!」
「ふふっ、くふふふふふふっ。」
「えっ……ええー?」
と思ったら、二人とも堪えきれずに笑い出した。もう本当になんなのこの二人……。
「はぁーあ。……もう、やめようか。クイーン。」
「えぇ。なんだか馬鹿らしくなってきました。」
向かい合って笑う二人は、なんだか本当に姉妹のような気がした。いや、この二人は本当に姉妹なんだ。血の繋がった、大事な家族。
いいなぁ……。なんだか余計に、お兄ちゃんに会いたくなっちゃったよ。
「トゥエルブ、この手紙を。」
「ん?……なんだこれ?」
「お父様の遺書です。彼女が……フィフスがずっと預かっていました。」
「そうか……お父様は亡くなったんだな。まったく、最期まで迷惑なお人だ。」
トゥエルブさんは受け取った手紙をざっと読みだす。最後まで読み切って、少しの間目を閉じて考えると、それを空中に打ち上げてバラバラに切り裂いた。
「トゥエルブ!?」
「……けっ、言うのが10年遅いんだよ。それに……」
トゥエルブさんは剣先を向けながら、クイーンさんにウィンクして見せる。
「もう私達には必要ない。そうだろ?」
トゥエルブさんの言葉に意表を突かれたような様子のクイーンさんだったが、その意味に気づくと、トゥエルブさんの剣に自分の細剣を重ねた。
「……そうですね。ダイヤシティは、私達ダイヤの騎士が護っていく。今までも、そしてこれからも。」
クイーンさんの言葉に、トゥエルブさんは力強く頷いた。
「……良くも悪くも、ダイヤの騎士が統治してくしかないのよ。この国は。」
「あれ?ハート、何となく嬉しそう?」
「へっ!?いや、そういう訳じゃないけど……。」
「……ふふっ。」
ハートは本当に素直じゃないなぁ。二人が仲直りして、自分が一番うれしい癖に。
「……はぁっ!……はあっ!……いた!こんな所に!!」
一同が感傷に浸っていると、突然誰かが走り寄ってきた。
……なんだろう、なんだか凄く嫌な予感がする。
「……アインス?どうした?」
「トゥエルブさん!……戦争です!西から……西からあいつらが!!」
「なっ!?……。」
その言葉に、その場にいた全員が凍り付いた。
「えっ……女王から説明されてないのですか?」
私が尋ねると、クイーンさんは驚いた様子で聞き返した。
「じゃあ、女王が「A」のナンバーを持っている事も?」
「う、うん。全然知らない。」
「そうですか……何故そんな大事なことを……。」
「??」
クイーンさんの困惑した様子を見ていると、アイデンティティナンバーの事を知らないのはまずそうだ。
でも、そのアイデンティティナンバーって何なんだろう?
「それじゃあーいっくよぉー!!」
フィフスが首飾りを力任せに引っ張り、パキンと弾ける音がした。
直後、首飾りの石板が輝き出し、フィフスの手の中でその姿を変える。それは長く、太く伸び始め、一つの武器のような形に変わっていく。
斧?……槍?……鎌?……違う。
「全部だ……。」
フィフスの獲物は、今まで見た武器の中で一番凶悪そうだ。まっすぐ伸びた槍の両隣に、分厚い刃の斧のような部分と、鋭く曲がった鎌のような刃が付いている。何よりもずっしりとした見た目がおぞましい。
フィフスはそれを軽々持ち上げると、頭上でぶんぶんと振り回す。
風圧が頭を掠める度、思わず頭が下がってしまう。
「可愛らしい顔をしてなんて危ないの……。」
「かっこいーでしょ!」
「た、確かにお兄ちゃんとか好きそうだけど……。」
正直、女の子の私はドン引きです。
そうして演武を終えたフィフスは無邪気な笑顔をみせる。すると、クイーンさんが問いかける。
「フィフス……あなたはここに居るつもりですか?」
「……ううん、行くよ。それがお父さんとの約束だから。」
「約束……。」
フィフスはここで、どんな気持ちで待っていたんだろう。お父さんとお母さんが死んでしまって、どんな風に生きてきたんだろう。
今まで姿を見せなかったのは、きっとクイーンさんやトゥエルブさんの事を考えた、お父さんの言伝だったのかもしれない。そう言えば、クイーンさんが受け取ったお父さんの手紙には、なんて書いてあったんだろう?
それも気になるけど、どうしてこのタイミングで、フィフスは私たちの前に現れたのだろう?
「危険なにおいがする。」
「危険?……まさかそれを伝えに?」
「うん。獣を殺すときみたいな、冷たいにおい。」
私の心を読み取ったかのように、フィフスが眉をひそめて一点を見つめる。でも、その方向は雑木林に隠れてしまっていてわからない。
「……フィフスの勘がどの程度かは知りませんが、いつまでもここに居る訳にはいきません。一度外に出ましょう。」
「うん。私も行くよ。」
誘拐騒動の後、ダイヤシティはフィフスと言う心強い味方を得られた。
でもクイーンさんとトゥエルブさん、また顔を合わせたら喧嘩し始めるのかな……。それはなんだか憂鬱だ。二人とも、本当は凄くいい人なはずなのに、どうしてこんなことにならなくちゃいけないのかな……。
一抹の不安を抱えながら、私たちは雑木林を出た。すると人影が真っ直ぐこちらへと近づいてくる。
「あれは……ハート!?」
「ヒマリ!!よかった、無事みたいね!」
心配して追いかけてきてくれたのか、ハートは私達の前でぜぇはぁ言いながら立ち止まり、よろめきながら私に抱き着いてきた。
「もう!……お願いだから……黙ってどっかいかないでよ……。」
「ハート……。」
ハートの抱きしめる力が強い。段々と胸の奥が締め付けられるような痛みが染み渡る。
「うん……心配かけてごめんね。」
私はハートを抱きしめて、震える小さな肩を優しく叩く。
「ハート!クイーンたちは見つかったのか!?」
「トゥエルブ!!どうしてここに!?」
ハートの後を追ってきたのか、鎧を脱ぎ捨て黒インナーと剣だけの姿になったトゥエルブさんに、クイーンさんは驚きの声を上げる。
クイーンさんが驚くのもわかるけど……どうしてトゥエルブさんは鎧を脱いでるの?それに、体中凄い傷だらけだ。新しくはないけれど、見ていてとても痛々しい。
「お前が急に飛び出して行くからだろう?まったく、少しは考えて動いたらどうだ?」
「それは……ですがあなただってそうです!商会の面々を置いてくるだなんて、もし何かあったらどうするんですか!?」
「はぁ!?心配して来てやったのに、少しも可愛げがないなお前は!」
「なっ!?トゥエルブに心配されるほど弱くなんてないです!心外です!」
「なんだとこの頭デッカチ!!」
「このおせっかい焼き!!」
「えぇ!?ちょっとちょっとちょっと!?」
顔を合わせるなり盛大な姉妹喧嘩を始める二人。なんか凄いいい雰囲気の再会だったのに、どうしてこうなったの!?
「…………ぷっ、くくっ、あっははははははっ!!」
「ふふっ、くふふふふふふっ。」
「えっ……ええー?」
と思ったら、二人とも堪えきれずに笑い出した。もう本当になんなのこの二人……。
「はぁーあ。……もう、やめようか。クイーン。」
「えぇ。なんだか馬鹿らしくなってきました。」
向かい合って笑う二人は、なんだか本当に姉妹のような気がした。いや、この二人は本当に姉妹なんだ。血の繋がった、大事な家族。
いいなぁ……。なんだか余計に、お兄ちゃんに会いたくなっちゃったよ。
「トゥエルブ、この手紙を。」
「ん?……なんだこれ?」
「お父様の遺書です。彼女が……フィフスがずっと預かっていました。」
「そうか……お父様は亡くなったんだな。まったく、最期まで迷惑なお人だ。」
トゥエルブさんは受け取った手紙をざっと読みだす。最後まで読み切って、少しの間目を閉じて考えると、それを空中に打ち上げてバラバラに切り裂いた。
「トゥエルブ!?」
「……けっ、言うのが10年遅いんだよ。それに……」
トゥエルブさんは剣先を向けながら、クイーンさんにウィンクして見せる。
「もう私達には必要ない。そうだろ?」
トゥエルブさんの言葉に意表を突かれたような様子のクイーンさんだったが、その意味に気づくと、トゥエルブさんの剣に自分の細剣を重ねた。
「……そうですね。ダイヤシティは、私達ダイヤの騎士が護っていく。今までも、そしてこれからも。」
クイーンさんの言葉に、トゥエルブさんは力強く頷いた。
「……良くも悪くも、ダイヤの騎士が統治してくしかないのよ。この国は。」
「あれ?ハート、何となく嬉しそう?」
「へっ!?いや、そういう訳じゃないけど……。」
「……ふふっ。」
ハートは本当に素直じゃないなぁ。二人が仲直りして、自分が一番うれしい癖に。
「……はぁっ!……はあっ!……いた!こんな所に!!」
一同が感傷に浸っていると、突然誰かが走り寄ってきた。
……なんだろう、なんだか凄く嫌な予感がする。
「……アインス?どうした?」
「トゥエルブさん!……戦争です!西から……西からあいつらが!!」
「なっ!?……。」
その言葉に、その場にいた全員が凍り付いた。