ノア・ルクス    前編(執筆者:金城 暁大)

文字数 1,577文字

 ドアの開いた向こう。

 そこには雪のように美しい白髪を(くび)で切り揃えた、清廉さを感じさせる青年が立っていた。

 彼は部屋にいる一同を一瞥した。

 その水銀色の瞳は、真冬のような冷ややかさを感じさせた。

 彼は客人を鼻で笑うと、ずかずかと部屋に入ってきた。そして、司教の後ろの事務机の上に手と足を組んで座った。

「ノア、何度言ったらわかるのです?そのような態度はよろしくないと。」

「うるさい、構わないだろ。俺はこの方が良いんだ。」

 どうやら彼がノア・ルクスらしと、シオン達は悟った。

「貴方がノア・ルクスですか?」

 シオンの問いに、ノアは再び鼻で笑った。

「フン。だったらどうする?」

 やはりこの人物だったか。しかし、聞いていたよりもかなりやさぐれた人物だ。

 協力してくれるのだろうか?どこか不安である。

 ノアに交渉を持ち掛けたのはシェロだった。

「聞いていたのなら話は早いわ。ノアさん、どうか私達に協力して――」

「断る。」

 ノアはぴしゃりと言い放った。

「何故、俺が見ず知らずのお前らに、自分の身を犠牲にして救ってやらねばならんのだ?」

 やはりだった。

 予想はしていたが、いざその現実を突きつけられると辛いものがある。

 今度はシェロに革ってシオンが願い出た。

「お願いです。貴方も転生者なんでしょう?仲間だと思って助けてくれませんか?」

「だから断ると言っただろう。何度も言わせるなガキ。」

「ガキ……。」

 シオンは純粋に傷ついた。これでも兄として、大人の領分はわきまえてるつもりだったのだが。

 今度は再びシェロが交渉に出た。

「でも、あなたも転生者なら、元の世界に帰りたいとは思わないの?私たちの仲間になれば、それも叶うかもしれないのよ?」

「そうだな、確かにそうかもしれない。」

 その言葉にシオン達は、僅かに希望を見た気がした。

「じゃあ!」

「だが、それでも断る。」

「どうして?」

「俺は俺の力で神を殺し、元の世界に帰って見せる。鍵も聖櫃も俺が先に見つける。全て俺一人で充分だ。残念だったな、お前らの出る幕はない。」

 その発言に、シオン達は呆れて返事が出来なかった。ここまでの傍若無人だと手の施しようがない。

 あまりの非道さに、トウラは思わず泣き声でノアに懇願した。

「お願いだ!ノアさん!後生だ!一生に一度だと思って俺を助けてくれ!」

「フン、お前も馬鹿だな。得体の知れない物を口にするなど、乳幼児かお前は。馬鹿にやる薬は無い。自業自得だ。」

「そんなぁ……。」

 トウラは絶望のあまり、その場で泣き崩れてしまった。ノアを囲む誰もが、その言葉に落胆した。

「旅の者、力になれず申し訳ない。」
「いいのよ司教様。みんな行きましょう。」

 シオン達は後ろ髪を引かれながらも部屋を出ようとした。だが、その時だった。

「ヨハネス司教様!」
 突然、村人らしい男が部屋に飛び込んできた。

「何事です?ここは聖職者の部屋ですよ、信者と言えど、私の許可なしに入ることは許されません。」

「申し訳ありません!ですが……」

「何事です?」

「転生者が……転生者が現れたのです!」

 その言葉に、部屋にいた全員が仰天した。

「転生者!?」

「はい!私の娘を人質に取り、村の者を脅しています!どうか、どうかお助けください!」

「狙いは何です?」

「どうやら、この村に別の転生者がいるようで……それを探しているようです。」

「わかりました。すぐに行きます。」

 司教は壁に掛かってある杖を持つと、部屋を出た。

「私達も行くわよ。」

「うん!」

「ああ!」

「わかった。」

 シオン達も、司教の後を追って外に出た。 
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