スペニア・キャンプの攻防②《執筆者:鈴鹿    歌音》

文字数 1,999文字

 ロミオとグレイシアの争いは、過激さと狂気が増していく中、ヒマリとハートは、必死でシフォンの傷の手当てをした。しかし、傷口が深く、どうしようも出来ない。

 ヒマリの腕の止血は、ハートが持っていたハンカチを巻きつけ、何とかなっていたが、お気に入りのブラウスを真っ赤に染めていた。





「シフォン、しっかりして!! 起きて!! また、あたしのこと呼んでよ……『ヒマリさん』って」



 それもお構いなしにヒマリは悲痛な声をあげ、シフォンの名前を呼び続けていた。



「ヒマリ、今は安静にさせないと……。今は、何とか足止めをしてくれているけど、私たちもどうなるか分からないわ。私たちは、シフォンをグレイシアに奪われないように守り抜きましょ」

「うん……」



 辺りが夜の帳に包まれ、どれぐらいの時間が流れたのだろうか。スペニア・キャンプの灯りは灯っておらず、漆黒の闇に包まれていた。







「『殺意の氷剣(デス・アイスソード)!!』」



「『幻想世界の(イリュージョン・ラブビジョン)!!』」





 ロミオとグレイシアの贈り(ギフト)がぶつかり合い、キラキラと光を残し、相殺(そうさい)した。



「ちっ、なかなかやるな……。デカフォニック渓谷(バレー)最強の男。次は、殺す」

「あんたに僕は殺せない。次こそ絶望でひれ伏せるがいい」



 辺りにはロミオの贈り(ギフト)にあてられたグレイシアの部下たちが地面に倒れていた。ヒマリは、建物の影からその戦いを見守る事しか出来ない。長時間の戦いにロミオとグレイシアの息も乱れている。それに比べ、何も出来ないヒマリとハートは、罪悪感を覚えた。





「(どうして……同じ人間なのに争うの。あたしは、何も出来ないの?)」



 ハートは、シフォンの手を握り、再び意識が戻るのを待ち続けているが、段々と気温が落ち、シフォンの温もりも無くなってきている。このままだと待っているのは……。ヒマリは、その時の事を考えると震えが止まらなくなる。



「シフォン、大丈夫よ。私たちが、あなたのお兄さんを止めるから。安心して」



 優しくハートがシフォンに声をかけたが、シフォンの反応はなかった。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







 ロミオとグレイシアの乱れる息遣(いきづか)い、滴したたる大量の汗が地面に(にじ)む。ロミオとグレイシアの戦いも終わる気配がない。


「どうして……オレの攻撃を受けても死なない……。流石だな。でも、『スペアニア』に刃向かう奴らはみんな殺してきたからな。シフォンも同罪だぜ? オレが『殺せ』と言ったら容赦なくシフォンも()ってくれたからな」

「それは、嘘だよ」

「何だと?」

「だって、あんたの妹は誰も殺していない。みんなを逃がした上でキャンプを襲撃していたのを見ているから」



 その話を聞いたグレイシアの顔が般若(はんにゃ)のような顔立ちになり、真っ赤に顔が染まっていく。怒りが爆発する瞬間だ。グレイシアは、真っ赤に染まった氷の剣を天に掲かかげ、大きな声をあげた。



「許さない……許さないぞ、シフォン!! このオレに嘘をつくとは……。殺してやる、殺してやる!! 『殺意の氷剣(デス・アイスソード)!!』」



 今までにない大きな衝撃にヒマリとハートは、吹き飛ばされそうになる。空には真っ白な厚い雲が覆い、気温の低下が著しく激しくなる。大きな雷鳴の衝撃にヒマリは、「きゃっ!!」と声をあげる。



 大きな雷鳴が何回か続き、雪が降り始めた。

 雪は勢いを増し、ヒマリたちのいるデカフォニック渓谷(バレー)や隠者の(エルミット・フォレスト)は、雪で覆い尽くされていく。



「やってくれるじゃないか……。僕は、あんたを倒して、ジュリエットに会いに行く。だから、こんな贈り(ギフト)ごときで死ねるわけがない!! 『幻想世界の(イリュージョン・ラブビジョン)!!』」



 再び異世界への扉が開かれようとする。

 しかし、今回は上手く開かなかった。

 吹雪により、その扉が凍り、パリンと音を立てて虚むなしく崩壊した。





「ふはははははははは、もうこの吹雪だとオレの勝利は確実だ!! 死ね、ロミオ!! ここがお前の墓場だ!! 『殺意の氷剣(デス・アイスソード)!!』」



 吹雪で視界が悪くなってしまってはロミオにとっても不利だ。グレイシアの不敵な笑みを見てしまったヒマリは、震え上がる。

 ロミオは、避さけようとせず、そのままグレイシアの贈り(ギフト)を腹部にくらい、後ろに吹き飛んだ。



「ぐっ……うぅっ……」



 徐々にロミオに近づくグレイシアの姿をヒマリは、目に入れた時、再びまたあの声が聞こえてきた。
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