光    前編(執筆者:金城 暁大)

文字数 2,594文字

 シュートとトウラは戦闘態勢に入った。

 シェロとシオンはその後ろで彼らの背中を見ていた。

 だが、そんな彼らを見守る者がもう一人。

 ノアである。

 焦げ茶色のローブを羽織り、フートで頭をすっぽり隠している。そんなに彼に気づかず、シュートとトウラはバジリスクの群れに飛びかかった。

 まずはトウラが先に動いた。念力による瞬間移動で、少女に巻き付くバジリスクの頭のすぐ側に転移する。

 その一瞬の出来事に、バジリスクは身構える事も出来なかった。トウラが拳を振りかぶるや否や、トウラの振りかざした右手の拳が赤く光った。

「衝烈拳!!」

 トウラはその拳をバジリスクの顔面目掛けて殴りつける。刹那、爆炎と衝撃波がバジリスクの顔の側面を叩きつけられ、大蛇は数十メートルほど吹き飛んだ。同時に、中空に放り投げられた少女に、トウラは素早く念を飛ばし自分の胸元に抱き寄せる。

 トウラは即座に少女を抱えたまま、教会に転がり込んだ父親の下に転移した。

「アンナ!」

 娘の姿を見るなり、両親はトウラに駆け寄った。

「もう大丈夫だよ。」

「うぇえええええん! 怖かったよう!」

「ああ良かった! アンナ、無事で何よりだ!」

「ありがとうございますわ、トウラ様!」

「へへへ、良いですよ別に。」

 両親の謝辞をトウラは軽く受け流す。

 そのトウラの後ろで、黒い閃光が天に向かって走っていった。

 見れば、シュートが魔法を使った様だった。既に詠唱は終わり、魔法は発動している。シュートの頭上には漆黒の剣が、無数に浮いている。

「貫け……ダークエッジレイン!!」

 シュートがそう叫ぶと、漆黒の剣は無差別に無数の大蛇に降り注いだ。

「グギャアアアアア!」

 バジリスク達は緑の血を吹き出しながら串刺しになった。

「さぁ、次はお前だジュリエット!」

 シュートは左手をジュリエットにかざし、脅した。

「流石ね、あれだけの首の金額が日夜増えていくのもわかるわぁ。」

「ふざけるな、お前の命も今日までだ。覚悟しろ!」

「それはどうかしらねぇ?」

「何だと? 負け惜しみを……」

「それはこれを見てから判断することね!」

 ジュリエットは懐から、一つの鈍色の石を取り出した。あれは魔鉱石だろうか。

「それは”抑魔石”!」

 その石の出現に、シュートとトウラの表情が一変する。

「あら、やはり知っているのですね。そうです、これは抑魔石ですわ。今からこれで貴方達の魔素を吸収し、あなた達の魔法を無力化致します。」

「マズイ! 離れろトウラ!」

「させませんわ!」

 ジュリエットが腕を振ると、シュートとトウラの足元に紫色の茨が巻き付いた。

「くっ!」

「しまっ……!」

 すると、ジュリエットは抑魔石を頭上に掲げ、詠唱した。

「It can be greedy and it can be taken away , and make them yield!《貪れ、奪え、屈服させろ!》
 Absorption!《吸収!》」

 瞬間、シュートとトウラの二人から、まるで水のように七色の光が石に吸い取られていった。

「ぐあああああ!」

「うぉああああああ!」

 その苦しみにもがく二人。しかし、茨が体を強く締め付け、身動きが取れない。

「オホホホホホホ! 良い様ですわね!」

 すると、ジュリエットは再び足元に手をかざし、先程と同じ詠唱をした。

「今、もっと面白いものを見せてあげますわ!」

 すると、光る魔方陣からそれは現れた。先程の大蛇より、二回りも大きな巨体。その体にはいくつもの大蛇の首が何股にも繋がっている。

 見た目はバジリスクだが、その姿は先程の物とは異なっていた。召喚された大蛇は、無数の頭から赤い舌をチロチロと見せ、牙をむき出し咆哮した。

「どうですか? 遠い東の異国に伝わる蛇の聖獣を真似て作ったキメラです! 名前はオロチと言いますのよ!」

 その異形の姿に、ジュリエットは満面の笑みを浮かべた。

「くっ、悪趣味な女め!」

「何度でもお言い。今からあなた達はこの子の餌になるのですからね。その口も今に聞けなくなります。」

 その時だった。

「もうやめて下され!」

 声を上げて、シオン達の前に両手を広げて立ちはだかる者がいた。

 それはヨハネス司教だった。

「なぜ転生者同士で殺し合わなければならないのです! あなた方の言っているのは救済などではない! 破滅だ! もしそれを悔いる気が少しでもあるのならば、どうか、この方々に慈悲をお与えください!」

 ヨハネス司教は膝をついて両手を組み、懇願した。

「司教……!」

 ノアはその司教の行動に驚いた。

「うるさいわよ。ゴミは消えなさい。」

 受理干支尾が腕を振るった。その瞬間、大蛇はいとも容易く司教を飲み込んだ。

 そして、驚くことが起きた。

 大蛇の胸の辺り。そこになんと司教の顔が浮き出した。その表情は苦痛と恐怖が浮き出ている。

「アハハハハ! 愉快ね! これだから聖職者はゴミなのよ!」

「テメェ、ジュリエット! テメェこそ本当のゴミだ!」

「あら、ゴミにゴミと言われても何も感じませんことよ?」

 ジュリエットは再び腕を振るった。すると、群衆の村人たちの足元から茨の蔦が現れ、彼らを拘束した。

 シオンとシェロも、また同じだった。

「この村の人間は気に入らないわね。誰も彼もが気狂いのように山を崇めている。災厄を恐れる故に、自分たちがおかしくなっていることに気づきもしないのね。それを私が救ってあげるわ――」

 ジュリエットの口角が割けるかのように広がった。

「死によってね。」

 ジュリエットは大蛇の体を撫でた。

「さぁオロチ、彼らを食べなさい。」

 オロチは気味の悪い咆哮を上げると、シオン達に迫った。

 駄目だ。

 食べられる。

 シオンが死を覚悟したその時だった。



 カッ!




 刹那、光が大蛇の目の前に発生した。その光に弾かれるように、大蛇は勢いよく背後に吹き飛んだ。

「な、何!?」

 驚くジュリエットの視線の先。

 シュート達と大蛇の間に、彼は立っていた。
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