舞台の上で舞歌が輝く

文字数 649文字

 学者と影法師の前に、令嬢が厄介事を持ち込んだシーンだった。東北の山奥の秘湯にある温泉場のホテルで、重要な秘密の会議前に、機密の入ったUSBのパスワードが失われたのを相談に来たのだ。
ホテルの方に相談したら……高名な……学者の方だと。
ええ、お困りだとは伺っております。
お前じゃ無理だ。
……こちらの方は?
もしかして……どこかで……。
 学者がふらふらと立ち上がって近づくと、令嬢はさっと身を引く。
……何ですか、いきなり!
そこで影法師が割って入る。
失礼じゃないか、君!
影法師がそのまま令嬢の肩を抱いて椅子に座らせると、学者はすごすご引き下がる。
私が……その……。
お気になさらずに。部屋を間違えられたようで。
どうぞ、お引き取り下さい。気にはしておりませんわ。
……リアクション早っ! もしかしてアウトオブ眼中?
 令嬢は部外者など無視して本題に入る。
それで……このUSBなんです。パスワードが複雑で……なんとか解いていただけませんでしょうか。
お安い御用です。では君、私のパソコンを。
私が?
いや、彼が。
自分でやれ。
あの……大事な秘密ですので、お人払いを。
いや、私は……。
助手です。
はい?
でも、部屋を間違えられた方だと……。
部屋を間違えた通りすがりの助手です。

 やがて、令嬢が席を外すと、シャドウ演じる学者はすらすらと謎を解く。やがて戻ってきた令嬢は、その成果を横取りして自慢げに語る影法師の話をはしゃぎまわって聞く。

驚きましたわ、こんなことができるなんて。
 そのシーンを演じている舞歌は、生き生きと輝いて見えた。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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