先輩と僕と舞歌の事情

文字数 512文字

 そんなわけで、僕は暑い暑い10日間を耐え抜いて、ここにいる。
(事情は……分かるんだ、僕にも)

 部活の最中に過労で倒れた都築は手足を打ったり捻ったりしてしまい、医者から全治1か月の宣告を受けている。その頃に行われる県大会までは舞台に立てず、その前に出場のチャンスを失うことは、舞歌も他の部員も到底できない話なのだった。それは、涼美先輩だって同じだろう。

 だから、僕よりも使える「シャドウ」を役者にしたままのほうがいいのだ。

ああ、そういうこと。

 僕が言いたいことは、先輩も察してくれたようだった。

 だけど、もっともらしく頷くのに何か皮肉っぽいものを感じて、僕は問い返した。

何ですか?
 月の光を浴びながら、真剣な表情で先輩は告げた。
でも、私には関係ないの。
そうかもしれませんが。
 あの痣を見せられたら、そう答えざるを得ない。でも、涼美先輩の抱えた事情は、僕の理解を上回っていた。
……命かかってる。
 自分の呼吸が止まるのを感じて、次の言葉がなかなか出なかった。
どういうこと、ですか?
 やっとの思いで尋ねると、先輩は怖い顔をしてみせた。
覚えてるでしょ、あれ。

 その顔は、過去の悪事を引き合いにして子供を叱るときの母親そっくりだった。


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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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