夏の逢魔が時

文字数 490文字

 1週間前のことだった。
 夏の夕暮れの帰り道を歩く僕は、たった3日、放課後3時間ずつの練習が続いただけで、体力の限界に来ていた。
もう、ダメ……。
 とにかく暑い体育館のステージで、筋トレやったり、床に寝そべって力抜いたりヨーガみたいなポーズとったり、床が汗でべっとり濡れたところで発声練習だ。
舞歌を始めとして皆さま、特別トレーニングありがとうございます……。
 体育会の掛け声もあって、とにかく僕の声は聞こえない。たった10日で会場に響くようにしなくちゃいけないのだから、そりゃあもう、顧問の先生から部長から、特に舞歌がつきっきりのご指導で鍛えてくださったのだった。
僕にねぎらいの言葉はないのか、舞歌……。
 部活が終わると、舞歌はダウンした都築の顔を見にすっとんで帰った。
 それも原因のひとつかもしれなかったけど、学校前からのバスを降りた帰り道にはもう、家までまっすぐに歩けないくらいだった。
えーと僕んちどこだっけ……。
 だんだんと、意識が遠のいていく。すれ違う人の姿が歪んでいく。帰宅途中のサラリーマン、塾へ急ぐ子供たち、ふらふら歩くバス停、夜空に影を映して行進していく電信柱……。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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