影法師のアシストで僕は

文字数 657文字

(だいたいこんな話だけど……舞歌らしいよな)
 もとはアンデルセンの書いた童話で、人の好さだけが取り柄で行動力のない学者が、自分のできないことを任せきりにしていた影法師に取って代わられる話だったらしい。
(僕はあまり頭のいい方じゃないけど……)

 こんな甘い話に仕立てないと気が済まないってところは、ツッコんでもいい気がする。

 で、実際に僕の前に現れた影法師はどうだったかというと……。

恥は知っているつもりだ。君の手に入れようとしているものが欲しいわけじゃない。もともと私のものであったものを返してほしいだけだ。それほど不当な要求とも思わないがね……君のやっている、僕と真逆のことを思えば!
え……?
 僕がツッコまれたのかと思ったら、稽古中のシャドウのセリフだった。影法師役は、悪役のオーラ全開で切り返してくる。
忘れたのかい? 私は、もともと君だってことを。
そう、かつてはそうだった。それについては、返す言葉もない。彼女を……。
あ……えーと、よく見てきてくれと、頼んだのは、確かに、私なのだから。だが、やがて、彼女は私、たちの前から、突如として消えた。それまでの、間に、君は、充分に役割を果たして……くれたと思う。感謝こそ……すれ、君を責める気、など、微塵もなかった。それなのに、君まで姿を消して、こんな、真似を!

 僕のセリフがたどたどしいのは、頭悪いってことの他に、理由がある。

 夕方までかかった部活の間に、シャドウは後ろで自分から動いて台詞を囁くようになった。僕はそれに従って喋ったり、動いたりすればよかったのだった。

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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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