最後のチャンス

文字数 438文字

 でも、ダメだった。

 シャドウは観客の呼吸までも支配していて、どのタイミングで何をすれば舞台に集中させられるか、よく分かっているようだった。

 だから、僕が何かしようとすると涼美先輩の命令を忠実に実行して、劇を破綻させることがないように一部の隙も無くフォローしてしまうのだった。

(まだだ……次のシーンがある!)

 舞歌の気持ちを考えたら、下手に動くことはできない。この舞台を壊すぐらいなら、一生、シャドウについて歩くほうがマシだった。

 だけど。

(ストロボが……もうすぐ消える!)

 やがて他の役者が出ていって、舞台は夜の公園のシーンになる。幕が降りるまで、あと何分もない。

どうして……助けてくださったんですか?
あなた、いい方ね。
答えになってません……どうして、私を?
 そんなやりとりの間、学者は舞台の端に立つことがあるけど、いずれは真ん中に戻らなければならない。
(今だ……!)

 それを稽古で知っていた僕は、シャドウが舞台の中央から離れるたびに、それまでいた場所へ猛ダッシュをかけた。

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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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