最後の賭け

文字数 465文字

(入れ替わるチャンスがあるとすれば……)

 こんなときでも、僕はまだ諦めてはいなかった。シャドウを文字通り、僕の「影」の位置に戻せるシーンがたった一つある。

 それが、セリフ1つごとに少しずつ近づいていた。

そういうわけでして、もし、あなたが僕の婚約者と最初から顔なじみでもない限り、オフィスへの侵入は企業秘密を盗み出すためだと言わざるを得ないんじゃないでしょうか?
それは……。
では、最後に、私の婚約者に証言していただきましょう。

 ここが、舞歌の最大の見せ場だった。待ちに待った場面の到来に、僕は思わず身を屈めた。

(頼むぞ、舞歌……!)
 舞歌が演ずる令嬢が、検察側の証人に立つ。しなやかな指が、すっと上がる。向けられた先は……。
どういうことだ? 何の悪ふざけだ!
悪ふざけや冗談で、こんなこと、できはしませんわ。私、婚約を破棄します。だって私、彼を陥れたあなたを告発するんですから!
 不謹慎にもそんなことを、つい妄想してしまった。劇が最高潮を迎え、僕にも正念場が来ているというときに。
(……同じこと、都築に言ってくれないかな。僕のために)
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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