涼美先輩の孤独な闘い

文字数 607文字

だから……。
 だから、ここに呼び出されたのだ。誰にも見られないようにして、誰も来ない場所に。それでも、僕は簡単に退くことはできなかった。
それは分かります。けど……。
 僕の目の前に、幼馴染の笑顔が浮かぶ。
(朔……)
(もう静かに寝息を立てているだろうな……あっちの校舎のどっかで、舞歌は)
 寝顔まで想像してしまったけど、それも、涼美先輩の声が震えているのに気付いたときにはきれいに吹き飛んでしまっていた。
あいつらに負けたら、私……。
 言葉が続かない。あまりに切羽詰まった様子に、聞かないではいられなかった。
……どうなるんですか?
剥き出しの肩がひくっと震えた。でも。
……言えない。
 言いたくないことに無理をさせたくはなかった。僕は質問を変えた。
今すぐ、ですか?
 涼美先輩は顔を上げて、無理やり笑った。
そろそろ限界なんだ、あたしだけで戦うのも。
 その一言は、僕の胸に突き刺さった。
ひょっとして、毎晩……ですか?
朝も昼も夜も。

 想像してもみなかったことだけに、先輩の答えはショックだった。

 今日もそうだったことになるが、後ろめたさに、敢えて確かめないではいられなかった。

……ずっと?
 月明かりの流れる黒髪をかき上げて立った先輩は、豊かな胸を押し上げるようにして腕組みすると、僕を見下ろした。
いつもいなかったでしょ、私。
 そうは言っても、涼美先輩はこれほどの美人なのに、その場にいてもいるのかいないのか分からない人なのだった。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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