涼美先輩の孤独な闘い
文字数 607文字
だから、ここに呼び出されたのだ。誰にも見られないようにして、誰も来ない場所に。それでも、僕は簡単に退くことはできなかった。
僕の目の前に、幼馴染の笑顔が浮かぶ。
寝顔まで想像してしまったけど、それも、涼美先輩の声が震えているのに気付いたときにはきれいに吹き飛んでしまっていた。
言葉が続かない。あまりに切羽詰まった様子に、聞かないではいられなかった。
剥き出しの肩がひくっと震えた。でも。
言いたくないことに無理をさせたくはなかった。僕は質問を変えた。
涼美先輩は顔を上げて、無理やり笑った。
その一言は、僕の胸に突き刺さった。
想像してもみなかったことだけに、先輩の答えはショックだった。
今日もそうだったことになるが、後ろめたさに、敢えて確かめないではいられなかった。
月明かりの流れる黒髪をかき上げて立った先輩は、豊かな胸を押し上げるようにして腕組みすると、僕を見下ろした。
そうは言っても、涼美先輩はこれほどの美人なのに、その場にいてもいるのかいないのか分からない人なのだった。