思い出は異次元の彼方に
文字数 495文字
その時、後ろから、聞いたことのある声がした。
振り向いてみたけど、やっぱり誰もいなかった。
もしかすると、冬の闇の中に溶けてしまったのかもしれない。
部員たちの大はしゃぎは、もう別次元の彼方だ。それでいい。僕には僕の生活がある。
舞歌と都筑にはいろんな意味でそう言ってやりたかった。
実際、口にまで出かかったんだけど、その時だった。
ふと、会場のぼんやり明るい車寄せの下でバス待ちをしている人の中に、涼美先輩に似た大人の女性を見かけた気がしたのだ。
声をかけようとしたところで、また背中を叩かれた。
振り向くと、舞歌だった。
どういう意味で言ったか、よく分からない。すぐに背を向けて駆け去っていくブレザーの背中から、声だけが聞こえた。
腹の中で毒づきながら車寄せを見ると、バスが走り去っていくところだった。
恨み事のひとつも言いたかったけど、やっぱり舞歌は憎めなかった。