思い出は異次元の彼方に

文字数 495文字

やっぱり……。
 その時、後ろから、聞いたことのある声がした。
やってくれたな。
シャドウ……?
 振り向いてみたけど、やっぱり誰もいなかった。
でも、確かに……。
 もしかすると、冬の闇の中に溶けてしまったのかもしれない。
(……帰ろうかな)
 部員たちの大はしゃぎは、もう別次元の彼方だ。それでいい。僕には僕の生活がある。 
(……まあ、がんばれよ)

 舞歌と都筑にはいろんな意味でそう言ってやりたかった。

 実際、口にまで出かかったんだけど、その時だった。

あ……。
 ふと、会場のぼんやり明るい車寄せの下でバス待ちをしている人の中に、涼美先輩に似た大人の女性を見かけた気がしたのだ。
……。
あの……。
 声をかけようとしたところで、また背中を叩かれた。
……?
 振り向くと、舞歌だった。
まあ、がんばれよ。
 どういう意味で言ったか、よく分からない。すぐに背を向けて駆け去っていくブレザーの背中から、声だけが聞こえた。
……って、幸威が言ってた。
(大きなお世話だ)
 腹の中で毒づきながら車寄せを見ると、バスが走り去っていくところだった。
(余計なことを……)
 恨み事のひとつも言いたかったけど、やっぱり舞歌は憎めなかった。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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