男の決断

文字数 423文字

 舞歌によく似た影が、僕の身体の中に突っ込もうとして手を伸ばしてくる。

 触れられた瞬間、ぞくっと身体が震えた。この間の、あの感触だ。青白い影に、身体を乗っ取られかかった時の冷たさだ。

 

(気……が……)
 気が遠くなっていくけど、それでいい。
(……涼美先輩から、離れろ)
 そう思った時、身体の中で何かが砕け散るような気がした。
あ……!
 柔らかい感触が、僕の身体を包むのが分かった。
……やっぱりね、朔くん。
 目を開けると、もう舞歌はいなかった。代わりに、涼美先輩が僕を抱きしめていた。
知ってたんですか?

 身体が粉々になりそうな痛みをこらえて、僕は聞いた。先輩は答えなかった。

 代わりに……。

動かないで。
 唇に、甘い感触があった。全身から、痛みが引いていく。
あ……ん……むぐ。
 呼吸が戻ってきたとき、眼の前では涼美先輩が微笑んでいた。
バカ。
 その目からは涙が一筋流れたけど、どうしてだかわからない。
(きれいだ……)
 ただ、そんなことしか考えられなかった。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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