舞歌、悪鬼羅刹変化する

文字数 607文字

なあああにやってんんだああああ!
ひいいいいっ! 許して舞歌!

 問題は、そこから始まった。

 次の日から、舞歌は人が変わったように、僕につらく当たるようになったのだ。

舞歌じゃないっ!
だって昨日まではこれで……。

昨日は昨日! 今日は今日! 言い訳しない! 朔が下手なの朔が!

その立ち位置じゃ、中奥(なかおく)に駆け込んでくる舞歌が客から見えない! もっと下前(しもまえ)へ。舞歌のセリフに押されるように、全力で引いて!
あ……は、はい。
 それまでは何をやっても全部OKだったのが、舞歌は一言一言、足の一歩一歩から指の上げ下ろしに至るまで、演出とタッグを組んで僕をこき下ろすようになった。
速い! 速い速い速い足のテンポ速い! 焦ってんの分かるんだけど、朔が歩いてんじゃないの、これ。学者が舞台袖にいる初対面のあたし……令嬢に、恐る恐るにじり寄ってんの! 
令嬢には真実を告げたい、でも、いきなり近づいて怯えられたら、ただの犯罪者にされてしまう。辺りを伺いながら、一歩、また一歩と、慎重に!
 さすがに耐え切れなくなって、僕は稽古中にへたりこんだ。
ちょっと、ごめん!
 こういうときは演出が手を叩いて劇の進行を止めるものらしいのだが、そこで舞台袖から駆けこんできたのは、出番を待っていた舞歌だった。
勝手に止めるな!
 僕を見下ろすその顔は、まるで鬼か悪魔のようだった。完全に嫌われたのを覚悟した僕は、全てを諦めてその場に寝転がった。 
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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