眼前に迫る異界

文字数 462文字

あ……え……あれ?
シャドウ?
いや……見ろよ、あれ。
 つい地声が出そうになったのを、危機一髪、めいっぱいの低音でごまかす。
確かに……尋常の色じゃないわね、あの光。

 蛍光灯の色が、水の中のような青色に変わる。
 もともと舞歌のシャワーは音がしない。ただ、カーテンがかかっていて、そこにいるのが影で分かるだけだ。

 その中から人影が現れたとき、僕は2つの意味でドキッとした。

(……来た!)
(……もしかして、舞歌?)
 そう思わせるほど、その背格好は似ていた。しなやかでいて、どこかまだ、そう、涼美先輩とは違う何かが残っている。
(いや、まだそこには達してないっていうのがいいのか……じゃなくて!)
 その涼美先輩は、片膝突いて屈むなり、呪文を唱え始めた。
  覚めよ 覚めよ
  おのれがうちから
  まだ見ぬ光の
  あふれくるままに
あ……うう……。
 身体の奥には、力がみなぎっている。でも、僕は動けなかった。
 シャドウとして立ち上がろうとしたところで、カーテンが動くのが見えたのだ。
 横になっているしかない。舞歌がカーテンをはねのけて出てくる。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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