寒さの夏と生命の歌

文字数 410文字

(えーと、あれは……?)
 カミシモつけて足袋を履いた福助とすれ違ったとき、僕の前に青白い影法師が長いコートを羽織って立ちはだかった。
……。
(……露出狂?)
 男相手にそれはないだろうと思う間もなく、ぬるりと長い手が伸びた。伸びるというより、宙を這う感じだった。
 はっと目が覚めた時、その指先が僕の喉元に触れた。
……。
……冷たい。

 正直言うと、部活で火照った身体には気持ちよかった。怖いような、続けて欲しいような、不思議な気分だった。すうっと眠くなって、身体も軽く宙に浮いた感じだった。
 あの声が聞こえるまでは。


震う心 震う魂
盲いるなかれ、眼を開け
汝が心に火を灯さん
汝が身体に炎(ほむら)立たせん
 
 全身を引き裂くような痛みで目が覚めた。
 いや、実際に何かが、僕の身体の中から這い出している。
……。
うわああああ!
 いたたまれずに叫んだところで現れたのは、背の高い学生服の影だった。
涼美、どうする? こいつ身体乗っ取られんぞ!
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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