迫りくる影の恐怖

文字数 408文字

(……見ちゃいけない、見ちゃいけない)

 カーテンの向こうから現れた舞歌の、色気からはまだちょっと遠い生まれたままの姿を見たって、バレやしない。

 だが、それはどうしてもできなかった。

シャドウ!
 そのとき、涼美先輩が僕の横に倒れた。僕は舞歌から目をそらすので精一杯なのに、その身体の線の似た影は、陽炎のように揺れながら先輩に襲い掛かっている。
いやあああああっ!
 悲鳴が上がる。水の中の光のなかで、青い身体が先輩の豊かな胸に覆いかぶさった。剥き出しの肩に浮かんだ蜘蛛のような痣が、まるで生きているようにうごめく。
る……ん……ん……。
 それとは別に、壁に移る影で、舞歌が濡れた身体を拭いているのが分かる。
(……ごめん、舞歌!)
 見てはいけない姿を見てしまったからではない。
(先輩、僕、シャドウみたいにはできないけど……)

 僕は、固く目を閉じて立ち上がった。ただ、両足を踏ん張って立つしかなかった。

(さあ……来い、こっちだ!)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色