帰宅部員が役者修行を始めた事情

文字数 440文字

思えば、10日前。期末考査が終わった日のことだった。
さ~、テストも済んだし半日遊んで暮らしましょ~!
 終礼が終わってすぐに帰ろうとした僕を、舞歌が呼び止めたのだ。
ちょっと待って、朔!
あれ、どしたの舞歌?
 廊下では、玄関へ向かう帰宅部と、体育館や部室棟へ向かう部活動生徒が正反対の方向へすれ違う。その人の波をかき分けながら、たったかたと駆け寄ってきた幼馴染は、部活の公演ロゴがプリントされたTシャツ姿で、いきなり頭を下げたものだ。
お願い、朔! 一生のお願い!
 昔っから、これを何十回繰り返されてきたか分からない。随分な無茶振りもあったけど、僕はそれを一つだって断ったことがない。というか、舞歌が頼んだ時点で聞かなくちゃいけないというのがデフォルトになっていた。
何だよ、改まって。

 この時点で、僕はもう言いなりモードに入っていた。OKしたときの笑顔が、僕はたまらなく好きなのだ。

 でも、下心なんかない。
 中学校まで舞歌はそういう相手じゃなかったし、僕もそういうことには興味がなかった。

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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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