最後のトリック

文字数 419文字

(終わりだ……僕の仕事も)
 これで、シャドウと入れ替わったまま、昼の世界には戻れなくなった。僕に心変わりした涼美先輩と共に、あの薄気味悪い夜の世界で生きることになるのだ。
(さよなら……舞歌)

 だが、そこで奇跡が起こった。

 クライマックスのBGMが流れる中、舞台の奥にいた舞歌のUSBが紐から外れて落ちたのだ。

……!

 舞台全体に緊張が走る。

 シャドウがそっちを向いた瞬間、僕はまだ、客席を向いたままでいた。

あら、こんなことってあるもんですね。
 舞歌の堂々としたアドリブに応えるために、シャドウは振り向いたままでいなくてはならなかった。
(……今だ!)
 僕は、とっさに舞台の中央に飛び込んだ。
 でも、このままではセリフがつながらない。僕は、舞歌のために叫んだ。
 僕は、君が見ていてくれなくても、幸せだった! 一緒にいるだけで……。
 それは、舞歌への正直な気持ちだったけど、台本からは大きく外れている。効果担当もうろたえたのか、BGMが止まった。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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