消灯前の囁き

文字数 495文字

 ほんの3時間ほど前のことだった。

 

今夜、隣の校舎の端っこで……ね?
 高校演劇の地区大会を明日に控えた合宿の消灯前、最後のミーティングに使った研修棟の会議室を出たところで、涼美先輩は甘く囁いた。
は……はい!
……声が大きい!
はい……。

 とはいえ、 顧問は男女2人泊まり込みだけど、それも含めて、誰も聞きとがめる者はない。

 僕は廊下の闇に消える涼美先輩の後ろ姿を見送った。湯上りの髪が、身体の線をぴったりと浮かばせたジャージの背中で揺れている。

(……いかんいかん、先輩をいやらしい目で見ては)
 振り払おうとした煩悩を見透かしたかのように、高校生にしては幼い声が背中をどやしつけた。
朔?
え……あ、ああ舞歌(まいか)何だどうしたいきなり!

 幼馴染の徳永舞歌(とくなが まいか)だった。

 今もこうやって合宿している。小さいときから今までずっと一緒にいて、お互い隠し事なんかない仲だ。

 高校に入って出来た彼氏まで、真っ先に紹介されたんだから。

 

……誰かいたの?
あ、ああ……風間先輩。
風間……ああ、涼美先輩? あ、そう……いたっけ?

 あんなにキレイで色っぽいのに、影の薄い人なのだった。

 風間涼美先輩は。

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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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