でも、僕は部員じゃない

文字数 609文字

でも、忙しすぎない? 今日なんか昼一杯は、会場準備して照明合わせと音合わせやって、全部潰れたろ?
大会、明日だもん。
そんで、ようやく日が暮れかかったと思ったら、学校に戻ってダメ押しの「通し稽古」。
本番、明日だもん。

ああ言えばこう言う。昔っからそうだ。この性格はどうにもならない。

それならいっそ、女の子だからって遠慮せず、言いたいことは言ってしまった方がいい。

中学校までのつきあいで、僕はその辺をよく心得ていた。

合宿ってことになってるし。
練習、夜遅いし。
教室にブルーシート敷いて、レンタルの布団にくるまってザコ寝!
さっさとそうしよ、明日早いし。
当然って顔で言うなよ、部員じゃないんだから、僕は!
じゃあ、おやすみ。

 言いたいことだけさらりと言って、舞歌はさっさと、涼美先輩が消えたのと同じ廊下の闇の中へと歩いていく。

 だが、その姿が消えることはなかった。ふと立ち止まって、意味深に振り向く。

……何だよ。
風呂とか寝姿とか覗いたら、明日の太陽は拝めないからね。
僕がそんな男だと……。
ちゃんと拝んでね。朔は主役なんだから……代役でもね。

 僕が何か言う前に、舞歌はさっさと、布団を置いた教室のある隣の校舎へと行ってしまった。

 一言余計だが、これでも気を遣ってくれている。

 それに、よく考えてみれば実のところ、明日の太陽が拝めなくても誰も困らないのだった。

 この数日の稽古で舞台に立っていたのは、涼美先輩の「シャドウ」だったのだから。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色