夜の教室で二人きり

文字数 554文字

  月の明かりが差し込む教室で、僕は3年生の風間涼美(かざま すずみ)先輩と2人っきりで向き合って座っていた。

 あれから、どれくらい経ったろう? ものすごい昔のことみたいな気もするし、つい昨日のことみたいな気もする。

 どっちにしても。

 斜め上から窓格子の影が落ちているのに、そこに隠れた先輩の顔はドキっとするほどきれいだった。

ねえ、三坂(みさか)くん。
 教室の椅子にもたれて、タンクトップにパーカーを羽織ったジャージ姿の先輩はまっすぐに僕を見つめた。
は、はい。

 そんな目をされると、背もたれに沿って身体をまっすぐに伸ばさないわけにはいかない。いかに1年生とはいえ、一応は三坂朔(はじめ)も男なので、真面目にやってないとちょっと理性に自信がない。
 僕の緊張を察したのか、先輩は名前の通り涼しく美しく微笑んだ。

約束だったでしょ、本番までって。
はい……。
 よけいに堅くなって、うつむくしかなかった。
 そう、本番が僕のゴールなのだった。だから、今夜がタイムリミットなのだ。
だから、もう返して。

でも……。

 先輩に口ごもるしかなかったのには、事情がある。涼美先輩にしてみれば、知ったことじゃないけど。

私の……シャドウを。
 それは、ここにはいない。男子の合宿所になってる別の棟で、僕の代わりに明日に備えて睡眠を取っている。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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