影法師との邂逅

文字数 523文字

 僕があの影法師と出会ったのは、日が暮れかかってもなお暑い、学校帰りのある夏の夕暮れのことだった。


な……何だあ? これ……?
 不思議な歌声が、死の淵へと沈みかかっていた僕の魂を奮い立たせる。
  震う心 震う魂
  盲いるなかれ、眼を開け
  汝が心に火を灯さん
  汝が身体に炎(ほむら)立たせん
う、うわあああ!
涼美、どうする? こいつ身体乗っ取られんぞ!

 尋ねながら、「影法師」はゆらり、ゆらりと左右に緩やかなステップを踏む。

 向かう相手は、真っ青な世界から現れた、もうひとつの「影法師」……。

……。
 歌声の主が鋭く命じる。
攻めよ!
おお!
 すさまじい速さの足さばきで身体を回転させながら、「影法師」は振り上げた両手両足を叩きつける。
……!
 声は容赦しない。
討て!
承知!
 真っ青な火柱が上がって、炎を背にした黒い影法師だけが残った。
わ、わわわわ……。

 怯える僕を、「影法師」が見下ろす。

で、こいつは?
大丈夫よ、シャドウ。
 僕の隣にしゃがみ込んだのは、どこかで見た女子生徒だった。
え、ええと、あの、ありがとうございます……。

 思わず見とれるほど、きれいな人だった。

 お礼への返事のつもりなのか、笑顔で尋ねる。

私を覚えてる? 三坂朔(みさか はじめ)くん。
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登場人物紹介

三坂朔(みさか さく)

 ヤル気なしの高校1年生。

 帰宅部だったのに、演劇部員の地区大会代役として舞台に引っ張り出されて、汗みどろのシゴキに耐える日々を送っている。

 サボリ癖が強い上にムッツリスケベといいところなしだが、苦境にある者を見ると、放ってはおけない。

 幼馴染への恋には最近気づいたが、間に合わなかった。

徳永舞歌(とくなが まいか)

 劇作に夢中の高1女子。 

 役者修行に加えて戯曲執筆もこなす、やる気満々の才女。

 そのせいで朔の気持ちには気付かず(というか、もともと眼中にない)、勉強に恋にと高校生活を満喫している。

 普段は無邪気な天然少女だが、稽古の間は悪鬼羅刹と化す。

 

 

風間涼美(かざま すずみ)

 才色兼備の高3女子。

 蠱惑的な肢体を持ちながら、部活でも学校でも目立たないのは、(文字通り)次元の違う世界で生きているからである。

 即興の4行詩を吟ずることで、人間の肉体を乗っ取ろうとする異界の魔物を祓うことができる。

 実はお茶目で、年下の男性をからかうのが大好きだったりする。

シャドウ

 文字通りの「影」だが、熱い心と深い洞察力を秘めている。

 ふだんは学生服を着て、風間涼美と行動を共にしている。

 異界の魔物と接触すると、涼美の詠唱する詩の持つパワーを実体化して闘う。

都筑幸威(つづき ゆきたけ)

頭良し、ルックスよし、人望アリの完璧高2男子。

演劇部でも役者として、大会上演作品の中心となっている。

現在、徳永舞歌との交際も順調。


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