閑話休題
文字数 1,930文字
「……まったくもう」
嘆息混じりに口をついたのは真白い童女であった。
眼下には、倒したモンスター達から皮や牙を剥ぎ取っているハンター達の姿が見える。
確かに、彼女の思惑通りには行かなかった。
三ヶ月前、火竜リオレウス相手にみせたディーンの変貌を、更に深い状態で再現したかったのだが、今回用意した手駒では、それには至らなかったのだ。
しかし、傍に立つ赤衣の男が言ったように、彼らはシア達の望むものに“ふさわしい”のだろう。
正直、彼女の本心としては、たかが“ニンゲン”風情を認めること自体が、なんとも屈辱的なのだが、あの様な働きをまざまざと見せつけられてしまっては、やはり認めざるを得ない。
その様子を見ていた赤衣の男ルカは、フードに隠れた顔で含み笑いをこぼすのである。
「なによ?」
それに反応するシアが、再びルカを睨みつける。
「わかってるわよ。ちゃんと認めるわ。ディーンお兄様だけじゃない。彼らは確かに“ふさわしい”。貴方の言うとおりよ」
ルカに何か喋らせる前にそう言って、シアはプイッとそっぽを向く様なそぶりを見せると、眼下へと視線を戻す。
どうやら剥ぎ取りを終えたハンター達が、移動を始めた様である。
帰路に着く前に、命を落としたハンターの簡易埋葬でもするのだろうか、彼が亡くなった岩山のエリアへと向かう様である。
道すがら、ディーンがイルゼに対し何度も低頭している。
恐らくは彼女の大剣を壊してしまった謝罪をしているのだろう。
イルゼの方も先程から何度かディーンに対し文句を言っていた様だ。
それを周りの仲間達がフォローしているようである。
「君たち」
不意に、シアの耳朶にバリトンが響く。
下界の激闘にしばし存在を忘れてしまっていたが、もう一つの目的である彼に“例のこと”を伝えなければならないのだった。
「ええ。なぁに? “村正”のおじ様?」
振り返り応えるシア。
ムラマサは対峙する異形達へ、今更ながらの疑問をぶつけるのだった。
「君達は、一体何者なんだ? ディーン君達のことを、私以上によく知っている様だし、それに……」
問いつつも一瞬、言い淀むムラマサ。
恐らく続けたい言葉は、この狩場に現れたモンスター達の事であろう。
アクラ・ヴァシムは別として、二頭の角竜、しかも番いの片割れはあの片角の魔王である。
そして怒り食らうイビルジョー。
見 える事すら困難であるモンスター達を、狙ってこの場に配置していたかの様な言動を、シア達はしていたのだ。当然の疑問である。
「ごめんなさい“村正”のおじ様。今はまだ、答える事は出来ないの」
応えてシアは、なんと素直に頭を下げてみせたのだ。
今までの尊大な態度や言動からは想像ができない反応に、ムラマサが少し面食らうと、傍に立つルカが言葉を続ける。
「我々の方も、未だ探りを入れている部分が多いものでして。それに、少々荒唐無稽 過ぎる話になりますので」
そう言って、シアにならって首を垂れて見せる赤衣の男。
「でもね、おじ様。今回ディーンお兄様達に“あの子”達をけしかけたのも、あえて貴方にだけそれを見せたのも、理由があるの。今はまだ何も言えないのだけれど、一つだけ私達のお願いを、聞いてくれないかしら?」
下げた顔を上げたシアは、あどけなさの中に驚くほど大人びた表情をしていた。
「少々、都合が良過ぎるね、お嬢さん」
軽口で返して見せるムラマサだが、恐らく眼前の二人がその気になれば、自分など瞬く間に“消されて”しまうに違いない。
「ええ。そうね」と、不敵に応えて見せたムラマサに気を悪くするでもなく、シアは「そこは本当に悪いと思ってるのよ?」と苦笑を浮かべて見せるのであった。
「我々の素性や、今回の件の真意については、貴方を含め、ディーン様達にもいずれ必ずお伝えさせていただく事になるでしょう。ですが、本当に申し訳ないのですが、今はまだ」
その時ではない。と、赤衣の男は真白い童女の言葉を引き継ぐ。
「……そうか」
確かに、得体の知れぬ連中だが、自分に対する彼女達の姿勢は真摯なものであった様にも思う。
「正直、是非に及ばず。と言った心境だが仕方ない。聞こうじゃないか。その“お願い”とやらをね」
どのみち、ムラマサには拒否権は無さそうである。
それならばと腹を括ったムラマサの返答に、シアは漸く外見通りの愛らしい表情を浮かべ、赤衣のルカは再び、今度は先ほどよりも深々と頭を下げるのだった。
…To be Continued.
嘆息混じりに口をついたのは真白い童女であった。
眼下には、倒したモンスター達から皮や牙を剥ぎ取っているハンター達の姿が見える。
確かに、彼女の思惑通りには行かなかった。
三ヶ月前、火竜リオレウス相手にみせたディーンの変貌を、更に深い状態で再現したかったのだが、今回用意した手駒では、それには至らなかったのだ。
しかし、傍に立つ赤衣の男が言ったように、彼らはシア達の望むものに“ふさわしい”のだろう。
正直、彼女の本心としては、たかが“ニンゲン”風情を認めること自体が、なんとも屈辱的なのだが、あの様な働きをまざまざと見せつけられてしまっては、やはり認めざるを得ない。
その様子を見ていた赤衣の男ルカは、フードに隠れた顔で含み笑いをこぼすのである。
「なによ?」
それに反応するシアが、再びルカを睨みつける。
「わかってるわよ。ちゃんと認めるわ。ディーンお兄様だけじゃない。彼らは確かに“ふさわしい”。貴方の言うとおりよ」
ルカに何か喋らせる前にそう言って、シアはプイッとそっぽを向く様なそぶりを見せると、眼下へと視線を戻す。
どうやら剥ぎ取りを終えたハンター達が、移動を始めた様である。
帰路に着く前に、命を落としたハンターの簡易埋葬でもするのだろうか、彼が亡くなった岩山のエリアへと向かう様である。
道すがら、ディーンがイルゼに対し何度も低頭している。
恐らくは彼女の大剣を壊してしまった謝罪をしているのだろう。
イルゼの方も先程から何度かディーンに対し文句を言っていた様だ。
それを周りの仲間達がフォローしているようである。
「君たち」
不意に、シアの耳朶にバリトンが響く。
下界の激闘にしばし存在を忘れてしまっていたが、もう一つの目的である彼に“例のこと”を伝えなければならないのだった。
「ええ。なぁに? “村正”のおじ様?」
振り返り応えるシア。
ムラマサは対峙する異形達へ、今更ながらの疑問をぶつけるのだった。
「君達は、一体何者なんだ? ディーン君達のことを、私以上によく知っている様だし、それに……」
問いつつも一瞬、言い淀むムラマサ。
恐らく続けたい言葉は、この狩場に現れたモンスター達の事であろう。
アクラ・ヴァシムは別として、二頭の角竜、しかも番いの片割れはあの片角の魔王である。
そして怒り食らうイビルジョー。
「ごめんなさい“村正”のおじ様。今はまだ、答える事は出来ないの」
応えてシアは、なんと素直に頭を下げてみせたのだ。
今までの尊大な態度や言動からは想像ができない反応に、ムラマサが少し面食らうと、傍に立つルカが言葉を続ける。
「我々の方も、未だ探りを入れている部分が多いものでして。それに、少々
そう言って、シアにならって首を垂れて見せる赤衣の男。
「でもね、おじ様。今回ディーンお兄様達に“あの子”達をけしかけたのも、あえて貴方にだけそれを見せたのも、理由があるの。今はまだ何も言えないのだけれど、一つだけ私達のお願いを、聞いてくれないかしら?」
下げた顔を上げたシアは、あどけなさの中に驚くほど大人びた表情をしていた。
「少々、都合が良過ぎるね、お嬢さん」
軽口で返して見せるムラマサだが、恐らく眼前の二人がその気になれば、自分など瞬く間に“消されて”しまうに違いない。
「ええ。そうね」と、不敵に応えて見せたムラマサに気を悪くするでもなく、シアは「そこは本当に悪いと思ってるのよ?」と苦笑を浮かべて見せるのであった。
「我々の素性や、今回の件の真意については、貴方を含め、ディーン様達にもいずれ必ずお伝えさせていただく事になるでしょう。ですが、本当に申し訳ないのですが、今はまだ」
その時ではない。と、赤衣の男は真白い童女の言葉を引き継ぐ。
「……そうか」
確かに、得体の知れぬ連中だが、自分に対する彼女達の姿勢は真摯なものであった様にも思う。
「正直、是非に及ばず。と言った心境だが仕方ない。聞こうじゃないか。その“お願い”とやらをね」
どのみち、ムラマサには拒否権は無さそうである。
それならばと腹を括ったムラマサの返答に、シアは漸く外見通りの愛らしい表情を浮かべ、赤衣のルカは再び、今度は先ほどよりも深々と頭を下げるのだった。
…To be Continued.