2節(8)

文字数 3,006文字

 それからディーン達は、ギルドマスターからしばらくの間ギルドに関する説明を受け、ギルドからハンターへの支援がいかなる物か、クエスト受注から達成までの流れ、報酬の受け取りについてまでを()くこととなった。

 ギルドマスターの説明は、予備知識の全く無いエレンにはわかりやすく、しかしフィオールにも退屈することなく時間が過ぎた。


・・・
・・



「さて、説明は以上でお終いよ。何か質問はあるかしら~?」

 説明が終わるや否や、普段の口調に戻るマスター。つかみ所のない人物である。

「ああ、よくわかったぜ」

「私もです。ありがとうございました」

 ディーンとエレンの新人二人が応える。説明は二度目となるフィオールにも当然異論はない。

「ハイ! それじゃ、小難しい話はこれにて終了~」

 そんな三人の様子をみて、マスターはポンと手を打って「食事にしましょう~」とうれしそうに言った。

 すると、いつの間に準備をしていたのか、先程ハンター達を一喝したシャーリーが両手のトレイにいっぱいの料理や飲み物を乗せてやってきていた。

「みんな、お疲れさま! あたしはシャーリーって言うの。ヨロシクね!」

 器用に配膳(はいぜん)しながら軽快(けいかい)に自己紹介をするシャーリーに続き、他の娘達も手にトレイを持ち、配膳に加わる。

「今日はもう遅いし、クエストに出てるハンターも居ないし、ギルドも閉めちゃいましょうよ~姐さ~ん。と言うか、もう閉めちゃいました~」

 ピンクの服の娘が、マスターに透明な液体がなみなみと注がれた(さかずき)を手渡しながら、ご機嫌を伺うように言う。

 マスターは「しょうがないわね~」と表面上は『困ったもんだ』といった表情で返すが、杯を取った方の逆の手は『グッジョブ!』と親指を立てていた。

 普通、ハンターズギルドは24時間営業である。深夜遅くに帰還するハンターや、夜間に入る依頼だってある。そして、ポッケ村のように出張所として機能しているギルドの場合には、別ギルドのハンターが(ポッケ村の場合は)フラヒヤ山脈に訪れる場合のケア等も重要な役目だ。

 よって、(おの)ずと1日中休まず営業する形となる。

 このポッケ村出張所も基本的にそうではあるのだが、所属のハンターもスタッフも少ないため、この日のように特に何の用向きも無い日には、待機人員だけ残してギルドを閉めることもあった。

「おいおい、いいのかよ……?」

 流石(さすが)に色々不用心な気がしてディーンが口を開くが、変わりにシャーリーが「大丈夫だいじょーぶ」と笑顔で彼にジョッキを手渡してくるので、そのまま有耶無耶(うやむや)にされてしまう。

「大丈夫だよディーン君。朝方僕が見回った限りじゃ、今のところフラヒヤ山脈には、大きな脅威は無いよ。ギアノスが数頭居た程度だし、そいつ等はさっきの人達が狩ってくれたから 」

「そ、そうか? ならまぁ、いっか」

 案内役として雪山を見回るミハエルが大丈夫というのだ、彼が言うのなら本当に大丈夫なのだろう。

 ふとディーンの脳裏に、先程マスターの言葉で引っかかっていた疑問が浮かび上がった。話のついでに聞いてみることにした。

「そう言えば、さっき姐さん……あ、俺もこう呼んでいいかな? ……姐さんが言ってたのが気になったんだが、ミハエルの親父さんって、何やってる人なんだ?ギルドの世話焼くんだから、やっぱハンターとか?」

 と、ここまで言ったところでディーンは『しまった』と胸中で後悔した。
 ミハエルの表情がほんの一瞬(かげ)ったからだ。軽々しく口に出すんじゃなかった。

「あ……その……すまない」

「いや、良いんだ。気にしないで」

 ミハエルがハッとなって笑顔を作る。

「ディーン君の言う通り、父は村のハンターだったんだ。双剣を使っていて、それなりに腕は立ったらしいんだけどね。5年ほど前だったかな? このフラヒヤ山脈で正体不明のモンスターが現れてね。その調査に行って、それきり」

 ミハエルの言葉に悲痛さはあまりなかった。5年という月日が、彼に苦しみを乗り越える力を与えているのかもしれない。

「それなりなんてとんでもないわよ~。それなりどころか、ミハエル君のお父さん。アイルトン・シューミィはとても優秀な双剣士だったわ~。ミハエル君もね、お父さんに負けずスッゴいのよ~」

 マスターが気を利かせて話題を変えてくれた。

 それでももう一度謝っておきたくて、「すまなかったな」と言うディーンに、ミハエルは悪戯っぽく笑いながら「気にしないでって言ったはずだよ」と返してくれたので、ディーンの方としてもありがたかった。

「ホント、案内役にしておくのがもったいないくらいなんだから!腕っ節や知識だったら、さっきの奴らよりずっと上なのよ、ミハエルってば」

 配膳を終えたのか、いつの間にか予備の椅子を持ち出してちゃっかり食卓に加わったシャーリーが話に入ってくる。

「そうよね~。いっそ彼らと一緒にハンター登録しちゃわない?きっと良いハンターになるわ~」

「やめてください姐さん。僕にその気はありませんよ」

 便乗するマスターだったが、ミハエルが苦笑混じりに、だがしかし丁重に断るので、
「そお? 残念ね~」と心底残念そうに肩を落とした。

「何度も誘っていただいてるのに、すみません」

「何の、私は諦めないわよ~」

 どうやらこのやりとりは、日常茶飯事(にちじょうさはんじ)であるらしい。変にやる気に満ちた表情を見せるマスターに、ミハエルは相変わらずの苦笑いを返すだけだった。

「さて、そうこうしてる内に準備ができたみたいね。みんなありがとう~。こっちに来て掛けてちょうだい」

「はーい」と黄色い返事で、他の受付嬢も予備の椅子を取り出してきて食卓に加わった。

 皆が席に着き、皆のジョッキに麦酒(エール)が注がれているのを確認すると、マスターも自分の杯……彼女だけは別のタイプのもの、シキの国製の(うるし)()りの直径45センチ程の椀型の杯を手に取ると、ちょっとだけ芝居がかった口調で乾杯の音頭をとるのだった。

「さて、それでは我等がハンターズギルドポッケ村出張所に来てくれた、新たなハンター達の歓迎会を、ささやかながら行おうと思います」

 ただでさえすらりとした長身で、おまけに美人であるため、芝居がかった仕草も様になっていた。

「フィオール君。ディーン君。エレンちゃん。あなた達三人の今後の活躍と成功を祈って……」


「「かんぱーい!!」」


 最後はみんな揃っての乾杯となった。

 そして、その後は他の受付嬢がそれぞれ自己紹介をし、皆それぞれが楽しい時間を過ごすのだった。

 ギルドは基本的に、酒場も兼任している。

 ポッケ村出張所も、テーブルはたったの一つだが、ハンター達にはサービスで酒や軽食が振る舞われるのだ。

 もちろん、ランクによって格段の差があるのだが、この日は特別である。

 ディーンもフィオールもエレンも、ポッケ村で新たに知り合った仲間達との宴を存分に満喫し、その宴は深夜にまで続いたのだった。



 To be continued……
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