2節(1)
文字数 6,136文字
「では、今回の対受注 の詳細を再度説明するぞ」
昨日に引き続き、セクメーア砂漠へとやって来た一行は、狩り場の中でも入り組んだ場所にあり、尚且 つ日陰となっているスペースに集合していた。
時刻はだいたい昼過ぎぐらい。
朝の十時頃にレクサーラを竜車に乗って出発した彼等は、ここまで何の問題もなく到着し、ベースキャンプを設置した所である。
手分けして素早く設置を終えたディーン達に向かって、ルークが自分に注目を集める様に少し声を張って言った。
「このベースキャンプからそれぞれチームごとに出発し、どちらかのディアブロスを倒
すないし捕獲したら信号弾で知らせる事。いいな?」
相変わらず、やや横柄な態度だ。自分は設置作業を殆ど手伝わなかったのにも関わらずである。
どれだけ偉いつもりなのか、いかにもディーン達新人組に“説明してやってる”感アリアリだ。
ムッとしながらも、皆を代表したフィオールが「諒解した」と返答する様子に、傍(はた)から見るかたちのレオニードは若干の苦笑を浮かべるのだった。
ちなみに、それぞれのチームについては下記の通りである。
ディーン、フィオール、ミハエル、エレンの新人組に対して、先輩組とでも言えばしっくりくるだろうか、ルークとリコリスの2人のチームには、“ラストサバイバーズの斬り込み隊長”ことレオニードと“粗野なる紫 ”のイルゼが加わっている。
ハンターのランクで言えば、レオニードは言うに及ばず、イルゼも他のメンツよりも抜きん出ており、ディーン達からすればとんでもないハンディキャップであるが、慣れ親しんで息の合ったチームが高い成果を得ることが出来るのもまた事実。
まぁ、概ね順当なチーム分けと言えよう。
みんなそれぞれのアイテムポーチの中身や装備に余念 はない、準備万端である。
「さて、そんじゃあ行きますかね。俺達はどのルートで行く?」
いち早く準備を終えて口を開いたのはレオニードだ。
そこら辺の手早さはさすがと言った所か。
「今回の受注主はルークちゃんだ、指示に従うぜ?」
いつもの様に飄々 と、シニカルな笑みを浮かべるレオニードの言い様は、言葉の裏に『お手並み拝見』 と言うニュアンスが多分に含まれていた。
ディーン達新人組とは違い、言動や態度にかなった実力が有るならば文句は無い。
といったレオニードの対応は、流石先輩ハンターというところであろうか。
だがその実 、実力がともなっていなかった場合はどうなる事か、ルークはけして無視できぬプレッシャーを感じずにはいられなかった。
それはイルゼに関しても同様であり、無言でテキパキと作業を終える彼女の態度こそレオニードとは対照的であったが、スタンスはそう変わらないようだった。
先輩組の筆頭である二人は、他のメンバーよりも手早く準備を終えて、自身の得物を背中に担ぐ。
丸腰であったイルゼはもちろんの事、二人の身に纏 う装備は昨日の“それ”とは様変わりしていた。
レオニードは鋭い棘が特徴の昨日の防具、棘竜 エスピナスの素材から生産したエスピナシリーズから、特殊な繊維素材や装甲板で編み上げられた、青を基調にしたライトアーマーとコートを足した様な防具に着替えていた。
兜の類 は付けている様には見えず、自慢の真っ赤な髪が青い装備の上に映えている。
この装備の銘はアスールシリーズと言う。
青 の名が示す通りの色合いのこの防具は、軽装の様に見えるがその実かなり頑丈に作られており、この場の誰の装備よりも防御力が高いから驚きだ。
防御力はもとより、デザイン性も高い優秀な装備である。
しかし、洗練されたデザインの防具とは対照的に、背中に担がれた武器の方はお世辞にも趣味の良いものとは言えないものであった。
まるでヒキガエルの化物の様な頭部を模した、狩猟笛と呼ばれる種類のその武器の名はドン・フルートと言う。
これは呑竜 パリアプリアと言う名の飛竜の素材から作り出された物で、防具のアスールシリーズと共に、メゼポルタでしか生産されていない物である。
見た目の良し悪しこそあれ、性能面では他のメンバーの装備よりも優秀な逸品 なのは間違いない。
そしてもう一人。イルゼの装備はコンガシリーズだ。
桃色の体毛に覆われた大型牙獣種 、桃毛獣 ババコンガの素材で作られた、軽量かつ丈夫な防具であり、頑丈なレザーの下地にババコンガの剛毛を編み込んだパッドで各部を守っている。
彼女の二つ名、“粗野なる紫 ”の名に恥じぬワイルドなデザインは、イルゼによく似合っていた。
彼女の場合、より頑丈に強化を施された、コンガSシリーズと言うワンランク上の物のようである。
得物の方はと言うと、エレンの防具と同じフルフルという飛竜種の素材で鍛え上げられた大剣、フルミナントブレイドが背中のマウントにセットされている。
体内で発電する能力を持つフルフルの特徴通り、電圧を帯びた刀身から仕手 を守る為に、フルフルの皮脂 などで刃の腹や鍔 の部分を覆っており、やや肉厚な印象を見る物に与えていた。
「あ、ああ。解っている。まずは、そうだな……」
高名な猟団、ラストサバイバーズのレオニードに指示を出すという緊張からであろうか、若干狼狽 えたよに言いよどむルークと、彼の相方であるリコリスの装備は昨日とは変わらない。
ギルドナイトシリーズに身を包み、フルミナントブレイドと同じ雷属性の太刀、鬼斬破 を背負うルークに、リコリスはザザミシリーズに麻痺属性 の片手剣デスパライズを腰にさしていた。
「ディーン君達はどのルートでまわるつもりなの?」
そのリコリスから問いかけられるディーン達の装備も、昨日から若干の変更がなされていた。
「そうだな~。俺達は特に砂漠に詳しいわけでもないからな、順当に広いエリアからあたって行こうかと思ってる」
問われて応えるディーンの背中の太刀は、火属性の飛竜刀 【紅葉 】から、ルークと同じく鬼斬破を担いでいる。
これから相手にするディアブロスは、一般的に氷の属性に耐久が無いとされている。
だが、それはあくまで原種での話であって、亜種とななれば話は別である。
日が落ちてからの、急激に気温の落ちた夜の砂漠を主に徘徊 するディアブロス亜種は、冷たい氷属性にある程度の耐久力をつけるのだ。
それ故 のこの選択である。それはイルゼやルークも同じである。
雷 の力であれば、頑強な皮膚に覆われたディアブロスにも、高いダメージを期待できる。
因みに、ディーンがいつの間に鬼斬破をこしらえたかと言うと、先日の火竜の番 との戦いで折れた鉄刀 【神楽 】を修繕するついでに、コツコツと貯めた素材で強化を依頼しておいたのだ。
それをムラマサが持ってきてくれたという訳である。
「そうだな。このまま裏道を使わずにまっすぐ砂漠地帯に出てみよう。私は何度か来ているが、他のメンバーは2度目だからな。大まかにこの狩り場の地理をおぼえさせておきたい」
「ちょっと大回りになっちゃうけどね」
ディーンの言葉を引き継ぐフィオールとミハエル。
彼らの装備は昨日のガノトトス戦のままである。
フィオールが口にした裏道とは、ベースキャンプとして使われているこの場所に設置された古い井戸から、砂漠地帯に向かう道とは逆側に位置する地底湖に出る事が出来るのだ。
井戸が出来た当初は知らないが、今やこの井戸は専 らハンター達の近道扱いである。
ディーン達も昨日のガノトトス戦ではこの道を使って、ガノトトスが生息しているオアシスのエリアに直行したのだ。
「そっか。ウチらはその裏道使ってオアシスへ出ようと思う。ディアブロスも結構頻繁に現れるエリアらしいから、多分最初に発見するのはウチらだね」
やや得意げに言うリコリスではあるが、彼女も早く発見すればそれが優位に直結しない事は理解している。
海を渡った東の大陸にも生息するが、そちらの個体よりも非常に生命力の高い西の大陸の角竜 ディアブロスは、当然狩るのに相当の時間を要する相手だ。
さらに、地面に潜る特性を持つ彼らは、エリア移動の際も地中に潜るのだ。
しっかりペイントボールでマーキングしておかないと、再度発見するのはかなりの手間となる為、ほんの少し早く発見出来た所で大した意味は無い。
「まぁ、ウチらの方にはハンディキャップもあるからね。対受注 とは言え勝敗は気にせずに、しっかりとクエストをこなす事を考えてね」
「言われるまでもねぇよ」
少しだけ苦笑気味に言うリコリスにニヤリと不敵に笑って応えるディーンだが、彼をはじめチームの面々に、負ける気など更々 無かった。
そんな彼らの考えが読めたのだろう。レオニードがいつも笑みをより深くしていた。
その様子を見るルークが少しだけ苛立った様な表情を見せる。
自分が少し緊張している間に、リコリスがディーン達に内容を告げてしまった為である。
先程から先輩風吹かせていた手前、立つ瀬が無い様に感じたのかも知れない。
「今リコリスが言った通りだレオニード。俺達は裏道から進むぞ。“ラストサバイバーズの切り込み隊長”があえて狩猟笛 を担いで来ているんだ。期待を裏切らないでくれよ」
口から出た憎まれ口は自身の威厳を保とうとしてであろうか、不機嫌そうに言うルークの言葉を、レオニードは「あいよ~」などとヒラヒラ手首から先を振って受け流す。
レオニードが有名になった理由の一つに、双剣など一気に手数を稼ぐ武器でモンスターへダメージを与え、数多くのクエストを成功へと導いて来たからである。
そんな彼が、どちらかと言えばサポート役としての色が強い狩猟笛を担いで来たのだ。
その時点でルークの期待からは外れている。
さて、ここで少しだけ狩猟笛についての説明をしておこう。
防具にスキルと呼ばれる特殊効果を持たせるという、竜人族の鍛冶師たちの代表的な高等技術であるが、勿論彼らの技術はそれだけではない。
数ある技術の内、狩猟笛における特殊技術もその一つである。
その最大の特徴は、奏でる旋律により自分は勿論の事、味方のハンター達の身体能力や耐久力などを上昇させるという物だ。
様々な種類ある狩猟笛には、それぞれ特定の旋律を奏でる事が出来、それを聴く者に精神高揚や自己暗示、代謝の活性などの影響を与えるのだ。
その効力たるや凄まじく、チームに一人いるだけで劇的に狩りの成功率を上げる事もある。
当然の事ながら、ハンターの武器としての側面も併せ持ち、立派な打撃武器としての性能も持ち合わせており、演奏家が聞いたら卒倒モノであるが、狩猟笛で力任せにモンスターをぶっ叩いても、笛としての演奏機関は破損する事はない。
「お待たせしました。私の方も準備完了です」
そうこうしてる間に、漸くエレンが準備を終える。
ガンナーと呼ばれる部類に位置する彼女の弓と言う武器種は、近接武器である他のメンバーよりも準備に時間がかかる。
エレンが現在装備しているのは、昨夜まで背負っていたハンターボウの強化版のハンターボウⅡから、昨日のガノトトス戦でついでに倒した砂竜 ガレオスより手に入れた魚竜の牙で、昨夜の内に強化を施(ほどこ)してもらったハンターボウⅢだ。
弦の張りや矢の先に付着させる薬物の入ったビンのチェック、矢のストックが充分にされているかなど細かな作業が多く、準備の終了が今になってしまった次第である。
「ほぅ。ハンターボウⅢか、こりゃ中々考えたモンだな」
準備を終えたエレンの装備を見て、レオニードが少しだけ感心したように声をかける。
フルフルシリーズで身を固めたエレンは、レオニードが自分の武器を評価してくれるなど思ってもみなかったので、思わずキョトンと首を傾げてしまった。
「出来ればソレの発展型のパワーハンターボウが欲しいとこだけども、まだハンターになって3~4ヶ月だから仕方ないか」
なおも言うレオニードに、エレンが何の事かと聞き返そうとした時には、レオニードはくるりと踵を返してしまっていた。
「こいつは案外いい勝負なるかもしれないな」
聞き返すタイミングを逸してしまったエレンに向けてか、はたまた誰に向けてか、レオニードはそう呟いて裏道である井戸の方へと歩いて行く。
「お、おい待て!?」
慌ててルークがそれに続き、リコリスも一回ディーン達に向かって手を振ると、彼に続いて井戸の方へ小走りにかけて行く。
何時の間にやらイルゼもそちらへ移動していたようだ、相変わらずの仏頂面で井戸の入り口で彼らを待っていた。
見送る形になるディーン達のチームも、井戸とは反対側の、本来正規のルートとなる下り坂の前に集合する。
さぁ、狩りの始まりである。
両チームはそれぞれのスタート地点に立つと、振り返って視線をかわす。
皆の視線が交わったのは一瞬。
それからハンター達は各々の選んだルートへと足を進めるのだった。
新人組はベースキャンプからまっすぐ進んで砂漠地帯へ。先輩組は井戸を通って地底湖の洞窟へと降りたあと、昨日ディーン達がガノトトスと戦ったオアシスのエリアへと向かう段取りだ。
ルークを先頭に、先輩組の面々が次々に井戸の中へと飛び降りて行き、ディーン達も砂漠地帯に続く坂道を下り出す。
エレンもディーン達に続き、砂漠地帯の狩り場へと足を踏み出したその時である。
「おーい。エレンちゃんや」
かかる声に振り返った彼女の視線の先には、レオニードだけ一人その場に残ってエレンに向けて声をかけていた。
「何でしょうか?」
聞き返すエレンに対し、レオニードは人差し指をピッと立てて見せると、少しだけいたずらっぽく笑って言った。
「尻尾の裏側だ」
「えっ?」
一体なんの事であろうか。
思いのほか短い言葉が返って来たために、思わず聞き返すエレンであったが、レオニードはそれには応えず、ひらひらと手を降りながら踵を返すと、最後に一度だけ「尻尾の裏側、やや付け根近くだ。頑張んな~」と言葉を返し、他のメンバーを追って井戸の中へと消えていった。
昨日に引き続き、セクメーア砂漠へとやって来た一行は、狩り場の中でも入り組んだ場所にあり、
時刻はだいたい昼過ぎぐらい。
朝の十時頃にレクサーラを竜車に乗って出発した彼等は、ここまで何の問題もなく到着し、ベースキャンプを設置した所である。
手分けして素早く設置を終えたディーン達に向かって、ルークが自分に注目を集める様に少し声を張って言った。
「このベースキャンプからそれぞれチームごとに出発し、どちらかのディアブロスを倒
すないし捕獲したら信号弾で知らせる事。いいな?」
相変わらず、やや横柄な態度だ。自分は設置作業を殆ど手伝わなかったのにも関わらずである。
どれだけ偉いつもりなのか、いかにもディーン達新人組に“説明してやってる”感アリアリだ。
ムッとしながらも、皆を代表したフィオールが「諒解した」と返答する様子に、傍(はた)から見るかたちのレオニードは若干の苦笑を浮かべるのだった。
ちなみに、それぞれのチームについては下記の通りである。
ディーン、フィオール、ミハエル、エレンの新人組に対して、先輩組とでも言えばしっくりくるだろうか、ルークとリコリスの2人のチームには、“ラストサバイバーズの斬り込み隊長”ことレオニードと“
ハンターのランクで言えば、レオニードは言うに及ばず、イルゼも他のメンツよりも抜きん出ており、ディーン達からすればとんでもないハンディキャップであるが、慣れ親しんで息の合ったチームが高い成果を得ることが出来るのもまた事実。
まぁ、概ね順当なチーム分けと言えよう。
みんなそれぞれのアイテムポーチの中身や装備に
「さて、そんじゃあ行きますかね。俺達はどのルートで行く?」
いち早く準備を終えて口を開いたのはレオニードだ。
そこら辺の手早さはさすがと言った所か。
「今回の受注主はルークちゃんだ、指示に従うぜ?」
いつもの様に
ディーン達新人組とは違い、言動や態度にかなった実力が有るならば文句は無い。
といったレオニードの対応は、流石先輩ハンターというところであろうか。
だがその
それはイルゼに関しても同様であり、無言でテキパキと作業を終える彼女の態度こそレオニードとは対照的であったが、スタンスはそう変わらないようだった。
先輩組の筆頭である二人は、他のメンバーよりも手早く準備を終えて、自身の得物を背中に担ぐ。
丸腰であったイルゼはもちろんの事、二人の身に
レオニードは鋭い棘が特徴の昨日の防具、
兜の
この装備の銘はアスールシリーズと言う。
防御力はもとより、デザイン性も高い優秀な装備である。
しかし、洗練されたデザインの防具とは対照的に、背中に担がれた武器の方はお世辞にも趣味の良いものとは言えないものであった。
まるでヒキガエルの化物の様な頭部を模した、狩猟笛と呼ばれる種類のその武器の名はドン・フルートと言う。
これは
見た目の良し悪しこそあれ、性能面では他のメンバーの装備よりも優秀な
そしてもう一人。イルゼの装備はコンガシリーズだ。
桃色の体毛に覆われた
彼女の二つ名、“
彼女の場合、より頑丈に強化を施された、コンガSシリーズと言うワンランク上の物のようである。
得物の方はと言うと、エレンの防具と同じフルフルという飛竜種の素材で鍛え上げられた大剣、フルミナントブレイドが背中のマウントにセットされている。
体内で発電する能力を持つフルフルの特徴通り、電圧を帯びた刀身から
「あ、ああ。解っている。まずは、そうだな……」
高名な猟団、ラストサバイバーズのレオニードに指示を出すという緊張からであろうか、若干
ギルドナイトシリーズに身を包み、フルミナントブレイドと同じ雷属性の太刀、
「ディーン君達はどのルートでまわるつもりなの?」
そのリコリスから問いかけられるディーン達の装備も、昨日から若干の変更がなされていた。
「そうだな~。俺達は特に砂漠に詳しいわけでもないからな、順当に広いエリアからあたって行こうかと思ってる」
問われて応えるディーンの背中の太刀は、火属性の
これから相手にするディアブロスは、一般的に氷の属性に耐久が無いとされている。
だが、それはあくまで原種での話であって、亜種とななれば話は別である。
日が落ちてからの、急激に気温の落ちた夜の砂漠を主に
それ
因みに、ディーンがいつの間に鬼斬破をこしらえたかと言うと、先日の火竜の
それをムラマサが持ってきてくれたという訳である。
「そうだな。このまま裏道を使わずにまっすぐ砂漠地帯に出てみよう。私は何度か来ているが、他のメンバーは2度目だからな。大まかにこの狩り場の地理をおぼえさせておきたい」
「ちょっと大回りになっちゃうけどね」
ディーンの言葉を引き継ぐフィオールとミハエル。
彼らの装備は昨日のガノトトス戦のままである。
フィオールが口にした裏道とは、ベースキャンプとして使われているこの場所に設置された古い井戸から、砂漠地帯に向かう道とは逆側に位置する地底湖に出る事が出来るのだ。
井戸が出来た当初は知らないが、今やこの井戸は
ディーン達も昨日のガノトトス戦ではこの道を使って、ガノトトスが生息しているオアシスのエリアに直行したのだ。
「そっか。ウチらはその裏道使ってオアシスへ出ようと思う。ディアブロスも結構頻繁に現れるエリアらしいから、多分最初に発見するのはウチらだね」
やや得意げに言うリコリスではあるが、彼女も早く発見すればそれが優位に直結しない事は理解している。
海を渡った東の大陸にも生息するが、そちらの個体よりも非常に生命力の高い西の大陸の
さらに、地面に潜る特性を持つ彼らは、エリア移動の際も地中に潜るのだ。
しっかりペイントボールでマーキングしておかないと、再度発見するのはかなりの手間となる為、ほんの少し早く発見出来た所で大した意味は無い。
「まぁ、ウチらの方にはハンディキャップもあるからね。
「言われるまでもねぇよ」
少しだけ苦笑気味に言うリコリスにニヤリと不敵に笑って応えるディーンだが、彼をはじめチームの面々に、負ける気など
そんな彼らの考えが読めたのだろう。レオニードがいつも笑みをより深くしていた。
その様子を見るルークが少しだけ苛立った様な表情を見せる。
自分が少し緊張している間に、リコリスがディーン達に内容を告げてしまった為である。
先程から先輩風吹かせていた手前、立つ瀬が無い様に感じたのかも知れない。
「今リコリスが言った通りだレオニード。俺達は裏道から進むぞ。“ラストサバイバーズの切り込み隊長”があえて
口から出た憎まれ口は自身の威厳を保とうとしてであろうか、不機嫌そうに言うルークの言葉を、レオニードは「あいよ~」などとヒラヒラ手首から先を振って受け流す。
レオニードが有名になった理由の一つに、双剣など一気に手数を稼ぐ武器でモンスターへダメージを与え、数多くのクエストを成功へと導いて来たからである。
そんな彼が、どちらかと言えばサポート役としての色が強い狩猟笛を担いで来たのだ。
その時点でルークの期待からは外れている。
さて、ここで少しだけ狩猟笛についての説明をしておこう。
防具にスキルと呼ばれる特殊効果を持たせるという、竜人族の鍛冶師たちの代表的な高等技術であるが、勿論彼らの技術はそれだけではない。
数ある技術の内、狩猟笛における特殊技術もその一つである。
その最大の特徴は、奏でる旋律により自分は勿論の事、味方のハンター達の身体能力や耐久力などを上昇させるという物だ。
様々な種類ある狩猟笛には、それぞれ特定の旋律を奏でる事が出来、それを聴く者に精神高揚や自己暗示、代謝の活性などの影響を与えるのだ。
その効力たるや凄まじく、チームに一人いるだけで劇的に狩りの成功率を上げる事もある。
当然の事ながら、ハンターの武器としての側面も併せ持ち、立派な打撃武器としての性能も持ち合わせており、演奏家が聞いたら卒倒モノであるが、狩猟笛で力任せにモンスターをぶっ叩いても、笛としての演奏機関は破損する事はない。
「お待たせしました。私の方も準備完了です」
そうこうしてる間に、漸くエレンが準備を終える。
ガンナーと呼ばれる部類に位置する彼女の弓と言う武器種は、近接武器である他のメンバーよりも準備に時間がかかる。
エレンが現在装備しているのは、昨夜まで背負っていたハンターボウの強化版のハンターボウⅡから、昨日のガノトトス戦でついでに倒した
弦の張りや矢の先に付着させる薬物の入ったビンのチェック、矢のストックが充分にされているかなど細かな作業が多く、準備の終了が今になってしまった次第である。
「ほぅ。ハンターボウⅢか、こりゃ中々考えたモンだな」
準備を終えたエレンの装備を見て、レオニードが少しだけ感心したように声をかける。
フルフルシリーズで身を固めたエレンは、レオニードが自分の武器を評価してくれるなど思ってもみなかったので、思わずキョトンと首を傾げてしまった。
「出来ればソレの発展型のパワーハンターボウが欲しいとこだけども、まだハンターになって3~4ヶ月だから仕方ないか」
なおも言うレオニードに、エレンが何の事かと聞き返そうとした時には、レオニードはくるりと踵を返してしまっていた。
「こいつは案外いい勝負なるかもしれないな」
聞き返すタイミングを逸してしまったエレンに向けてか、はたまた誰に向けてか、レオニードはそう呟いて裏道である井戸の方へと歩いて行く。
「お、おい待て!?」
慌ててルークがそれに続き、リコリスも一回ディーン達に向かって手を振ると、彼に続いて井戸の方へ小走りにかけて行く。
何時の間にやらイルゼもそちらへ移動していたようだ、相変わらずの仏頂面で井戸の入り口で彼らを待っていた。
見送る形になるディーン達のチームも、井戸とは反対側の、本来正規のルートとなる下り坂の前に集合する。
さぁ、狩りの始まりである。
両チームはそれぞれのスタート地点に立つと、振り返って視線をかわす。
皆の視線が交わったのは一瞬。
それからハンター達は各々の選んだルートへと足を進めるのだった。
新人組はベースキャンプからまっすぐ進んで砂漠地帯へ。先輩組は井戸を通って地底湖の洞窟へと降りたあと、昨日ディーン達がガノトトスと戦ったオアシスのエリアへと向かう段取りだ。
ルークを先頭に、先輩組の面々が次々に井戸の中へと飛び降りて行き、ディーン達も砂漠地帯に続く坂道を下り出す。
エレンもディーン達に続き、砂漠地帯の狩り場へと足を踏み出したその時である。
「おーい。エレンちゃんや」
かかる声に振り返った彼女の視線の先には、レオニードだけ一人その場に残ってエレンに向けて声をかけていた。
「何でしょうか?」
聞き返すエレンに対し、レオニードは人差し指をピッと立てて見せると、少しだけいたずらっぽく笑って言った。
「尻尾の裏側だ」
「えっ?」
一体なんの事であろうか。
思いのほか短い言葉が返って来たために、思わず聞き返すエレンであったが、レオニードはそれには応えず、ひらひらと手を降りながら踵を返すと、最後に一度だけ「尻尾の裏側、やや付け根近くだ。頑張んな~」と言葉を返し、他のメンバーを追って井戸の中へと消えていった。