まひる 17
文字数 2,018文字
あたしとエカチェリーナさんは軽自動車に乗り込み、夜空の中を飛び去って行くヴァンパイアを追いかけた。
「瞰望岩にいくようです」
「どうしてそれが?」」
「あいつらはいつも瞰望岩で戦いたがるんです」
瞰望岩は見晴らしもいいので、町の観光スポットにもなっている。
しかし、そここで戦うとなったら話は別だ。
頂上は狭いうえに落下防止の柵も無く、間違って足をすべらせたら80mの崖下に真っ逆さま、叩きつけられて即死だ。
しかし、あいつはフライヤー。羽根がある。
あいつにしてみれば格好の戦闘場 だ。
「兄もあそこで殺されました」
エカチェリーナさんが復讐を想っていた人だ。
「お兄様のことをお話しくださいませんか?」
雪で明るくなった夜道を真っ直ぐに睨んでいたエカチェリーナさんは、ゆっくりと一つ頷くと、若くして散ったバンパイアスレイヤーのことを語り出した。
「兄は拳銃の名手でした」
ロシアのスレイヤー訓練所で拳銃を習得したのだそうだ。
「学生服を着て二丁拳銃で戦う姿は本当にカッコよかった」
エカチェリーナさんが遠くを見る目をしている。
「兄は無敵でした。兄のことを見るとヴァンパイアたちは逃げまわったものです」
エカチェリーナさんはお兄さんに憧れてロシアに渡りスレイヤーになった。
最初はお兄さんのように拳銃をマスターするつもりだったが、在ロシア中にお兄さんを惨殺されて、対抗策として剣術を習得しなおした。
お兄さんの仇には拳銃が効かないと聞かされたからだ。
「あいつが現れて形勢が逆転したのです」
拳銃に絶対の自信を持っていたお兄さんは、あいつも簡単に殺せると思っていた。
しかし、簡単に殺されたのはお兄さんのほうだった。
「あたしは、兄の仇を討つために何度もあいつに挑戦しました」
しかし、いつも今日のように軽くあしらわれて終わりだった。
「もて遊ばれているんです。殺せばいいものをそれすらしない」
必ず部屋でお兄さんの姿に擬態していて、最初に頭を撃ち抜いて見せる。
「あれは本当に自分の頭を撃ち抜いているんです。自分には拳銃なんて効かないって見せつけるために」
そして、
「お兄様はこうして死んだと、見せつけるために?」
あたしは、ヴァンパイアがやりそうなことだと思っていた。
「そうです。兄は絶望して自分の頭を撃ち抜いて亡くなりました」
瞰望岩で。
大きな羽根を広げてゆっくりと羽ばたくヴァンパイアの姿が月に重なって見えている。
そこにぶら下がった形の人の影。
キノッピだ。
あたしとエカチェリーナさんの軽自動車は、それを見失わないように雪の道を猛スピードで追いかけたのだった。
敵はエカチェリーナさんが言ったとおり、瞰望岩の頂上で羽根を休めていた。
「急ぎましょう。あいつはキノッピの血でさっき受けた傷を癒やす気かも知れません」
それはおおいにありうることだった。
頂上に向かいながらエカチェリーナさんと作戦を練った。
あたしが先にあいつと対戦する。
エカチェリーナさんは、あたしが戦っている間に隙をみてキノッピを救出する。
それが基本の行動計画だ。
それ以外は各自の意志を尊重する。
「仇を討てると見たら躊躇しません」
エカチェリーナさんの技量ならばそれは可能だと思う。
問題はあいつの見切りの早さだ。
あいつはあたしと同じように読心術を持っているのかもしれない。
相手の心を読めればこその見切りだと思う。
奴らはチートだらけだ。
まずはフライヤーチート。
どんなシューティングゲームでも上を取ることは絶対的有利だ。
次に、高速移動チート(通常の速度を超えた移動が可能)。
雪の上での高速連続キック。低い態勢からの高速頭突き。
それに読心術となるとウォールハックチート(本来見えないはずの障害物の影にいる敵を目視)級だ。
これだけチートに手を染めればゲームなら即BAN(運営からアカウントを即時凍結されること)だが、これはゲームではない。
こういう相手にはサトリの故事よろしく、無心で挑むしかなさそうだった。
エカテリーナさんの心を覗く。
沸々と復讐心がたぎっている。
無心とはほど遠かった。
瞰望岩の頂上までは、積もった雪をラッセルしながら進んだ。
先日来たときの足跡など跡形もなかった。
頂上に着くと枯れ木のてっぺんに蹲るようにあいつがとまっていた。
その下の雪が黒く染まっているのはおそらくあたしが付けた刀傷から出た血だろう。
キノッピを探す。
展望台の先の広場にエカチェリーナさんが着ていた黒いベンチコートがあった。
樹上を警戒しながらベンチコートに近づく。
樹上の影はあたしに気付いているだろうのに微動だにしない。
そうとう深めにえぐってやったから、回復に時間がかかっているのか。
ベンチコートの側に寄るとキノッピは小さな声で、
「草履、あったまれ。草履、あったまれ。草履、あったまれ」
と唱えていた。
キノッピは無事のようだ。
草履の件、了解しました。
「あたしがいいと言うまでじっとしてて」
と言うとキノッピは体を丸くしたまま、一度だけ頷いたのだった。
「瞰望岩にいくようです」
「どうしてそれが?」」
「あいつらはいつも瞰望岩で戦いたがるんです」
瞰望岩は見晴らしもいいので、町の観光スポットにもなっている。
しかし、そここで戦うとなったら話は別だ。
頂上は狭いうえに落下防止の柵も無く、間違って足をすべらせたら80mの崖下に真っ逆さま、叩きつけられて即死だ。
しかし、あいつはフライヤー。羽根がある。
あいつにしてみれば格好の
「兄もあそこで殺されました」
エカチェリーナさんが復讐を想っていた人だ。
「お兄様のことをお話しくださいませんか?」
雪で明るくなった夜道を真っ直ぐに睨んでいたエカチェリーナさんは、ゆっくりと一つ頷くと、若くして散ったバンパイアスレイヤーのことを語り出した。
「兄は拳銃の名手でした」
ロシアのスレイヤー訓練所で拳銃を習得したのだそうだ。
「学生服を着て二丁拳銃で戦う姿は本当にカッコよかった」
エカチェリーナさんが遠くを見る目をしている。
「兄は無敵でした。兄のことを見るとヴァンパイアたちは逃げまわったものです」
エカチェリーナさんはお兄さんに憧れてロシアに渡りスレイヤーになった。
最初はお兄さんのように拳銃をマスターするつもりだったが、在ロシア中にお兄さんを惨殺されて、対抗策として剣術を習得しなおした。
お兄さんの仇には拳銃が効かないと聞かされたからだ。
「あいつが現れて形勢が逆転したのです」
拳銃に絶対の自信を持っていたお兄さんは、あいつも簡単に殺せると思っていた。
しかし、簡単に殺されたのはお兄さんのほうだった。
「あたしは、兄の仇を討つために何度もあいつに挑戦しました」
しかし、いつも今日のように軽くあしらわれて終わりだった。
「もて遊ばれているんです。殺せばいいものをそれすらしない」
必ず部屋でお兄さんの姿に擬態していて、最初に頭を撃ち抜いて見せる。
「あれは本当に自分の頭を撃ち抜いているんです。自分には拳銃なんて効かないって見せつけるために」
そして、
「お兄様はこうして死んだと、見せつけるために?」
あたしは、ヴァンパイアがやりそうなことだと思っていた。
「そうです。兄は絶望して自分の頭を撃ち抜いて亡くなりました」
瞰望岩で。
大きな羽根を広げてゆっくりと羽ばたくヴァンパイアの姿が月に重なって見えている。
そこにぶら下がった形の人の影。
キノッピだ。
あたしとエカチェリーナさんの軽自動車は、それを見失わないように雪の道を猛スピードで追いかけたのだった。
敵はエカチェリーナさんが言ったとおり、瞰望岩の頂上で羽根を休めていた。
「急ぎましょう。あいつはキノッピの血でさっき受けた傷を癒やす気かも知れません」
それはおおいにありうることだった。
頂上に向かいながらエカチェリーナさんと作戦を練った。
あたしが先にあいつと対戦する。
エカチェリーナさんは、あたしが戦っている間に隙をみてキノッピを救出する。
それが基本の行動計画だ。
それ以外は各自の意志を尊重する。
「仇を討てると見たら躊躇しません」
エカチェリーナさんの技量ならばそれは可能だと思う。
問題はあいつの見切りの早さだ。
あいつはあたしと同じように読心術を持っているのかもしれない。
相手の心を読めればこその見切りだと思う。
奴らはチートだらけだ。
まずはフライヤーチート。
どんなシューティングゲームでも上を取ることは絶対的有利だ。
次に、高速移動チート(通常の速度を超えた移動が可能)。
雪の上での高速連続キック。低い態勢からの高速頭突き。
それに読心術となるとウォールハックチート(本来見えないはずの障害物の影にいる敵を目視)級だ。
これだけチートに手を染めればゲームなら即BAN(運営からアカウントを即時凍結されること)だが、これはゲームではない。
こういう相手にはサトリの故事よろしく、無心で挑むしかなさそうだった。
エカテリーナさんの心を覗く。
沸々と復讐心がたぎっている。
無心とはほど遠かった。
瞰望岩の頂上までは、積もった雪をラッセルしながら進んだ。
先日来たときの足跡など跡形もなかった。
頂上に着くと枯れ木のてっぺんに蹲るようにあいつがとまっていた。
その下の雪が黒く染まっているのはおそらくあたしが付けた刀傷から出た血だろう。
キノッピを探す。
展望台の先の広場にエカチェリーナさんが着ていた黒いベンチコートがあった。
樹上を警戒しながらベンチコートに近づく。
樹上の影はあたしに気付いているだろうのに微動だにしない。
そうとう深めにえぐってやったから、回復に時間がかかっているのか。
ベンチコートの側に寄るとキノッピは小さな声で、
「草履、あったまれ。草履、あったまれ。草履、あったまれ」
と唱えていた。
キノッピは無事のようだ。
草履の件、了解しました。
「あたしがいいと言うまでじっとしてて」
と言うとキノッピは体を丸くしたまま、一度だけ頷いたのだった。