まひる 21

文字数 1,556文字

 キノッピ紹介の養蜂家の拠点に着いたのはお昼すぎだったが、コトハとアヤネをお風呂に入れてあげられたのは夜になってからだった。

「水道局が来ました」

夕方暗くなりかけたころ、玄関でキノッピの声がした。

出てみると、キノッピが額の汗を拭きながら立っていた。

二人の身支度の間、外で待ってもらった後も、キノッピはずっと庭仕事をしていたのだった。

「これでお風呂に入れるようになりますから」

どこまでも、あたしたちのことを慮ってくれるキノッピなのだった。

 ところが水道局の人は水道代の支払い方法を説明しに来ただけで、水栓は自分で開ければよかったらしい。

それを聞いてキノッピは申し訳なさそうにしている。

そんなこといいのに……。

 お風呂場は一人がやっと入れる湯舟が一つに洗い場も狭かったので、コトハとアヤネ一人ずつにする。

あたしは鉢巻き&パンイチ姿で介護士さんだ。

アヤネから入って貰う。

まず髪から洗う。

髪の毛は紫がかったロングのストレート。

髪が自慢のアヤネは使うシャンプーやトリートメントも特別なやつだ。

セルゲイに頼んで遠くの街まで買いに行ってもらって助かった。

屍人になってもつやつやは守ってあげたいから。

次はボディー。なんか嫌な言い方だな。

アヤネは本当にスタイルがいい。

クオーターだったはずで日本人ばなれして足も長いし、

おっぱいだってとっても大きい。

中学生で成長が止まっているあたしにしてみれば、うらやましい限りだ。

ほんと、うらやましいぞ。こいつ。

えい、おっぱいパンチ。

ついでにー、

乳首ドリル!

ン? いま、「すなっ」て言わなかった? まさかね。

アヤネの場合はお湯を掛けて終わり。湯舟に入るのはなし。

 次はコトハの番。

コトハは昔からお風呂が大好きで、忙しくなっても2時間は入るって言っていた。

初期のころ、寮のお風呂で長湯しているコトハとよく一緒になった。

その時コトハに教えて貰った洗顔と洗髪を実践してあげると本当に嬉しそうな顔になった。

温かいお湯にゆっくり入れてあげる。

アヤネは指示しても頑として湯舟に入ろうとしないが、コトハは体を洗い終わると自分から入ってくれる。

そういえばアヤネはシャワーしかしないって言ってたな。

屍人になっても生前の習慣が出るなんて知らなかった。

 湯舟につかったコトハの肩に手酌でお湯を掛けてあげる。

つやつやのお肌をお湯が伝うのを見て、コトハの悩みをこうしてお湯を掛けながら聞いた昔を思い出した。

 二人の体を拭いて下着だけ付けて部屋で待っててもらい、あたしがお風呂をいただいたあと、服を着せる。

着るのはセルゲイが買ってきてくれたジャージだ。

制服はしわになるし食餌の時に血がつくと洗濯するのがやっかいだからだ。

遠軽ロシア正教会では、悪ふざけしてナースコスで食餌したけれど、一回で血だらけにして使えなくなってしまった。

今は制服とジャージの他は、ゴスロリメイドコスがあるだけだ。

制服は移動時、ゴスロリメイドコスは大事な時用だからジャージ一択。

 部屋はお台所とリビング。

それと6畳の部屋が2つ。

その奥の方をあたしたちの部屋に充てた。

昼の間に干しておいたお布団を敷いてコトハとアヤネを寝かせ、仕切りの襖を閉めてから玄関に出る。

「キノッピいいよ」

お風呂の間、外で待っていて貰ったキノッピを呼び入れる。

暗闇の中からキノッピが玄関灯の下に笑顔で現れた。

そしてあたしを見るなり突然泣き出した。

「どうしたの?」

と聞くと、いつになくキツい目つきで、

「まひるさん。芋ジャーはだめです」

だそうだ。

「あなたは世界一のゲードル、夜野まひるです。いつでもちゃんとした格好しててください」

まるで口うるさいマネージャーのようだ。

「これ、寝間着だから」

と言うと、

「それでもです。寝るまでは制服でいてください」

かくのごとくファンの要求は厳しいものなのだ。
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