まひる 47
文字数 2,190文字
ライブ前の楽屋でのことだ。
メンバーたちは緊張を解くためにそれぞれルーティンがあったが、コトハはスマフォゲームに興じることだった。
「まひるネーネー、このゲーム知ってる?」
コトハがスマフォをあたしに見せて来た。
ギラギラとした背景に小太りのキャラが映った画面が表示されていた。
「?」
あたしの反応を見て、
「これはポリドリっていうラスボス。で、こっちがタイトル」
画面を見直したコトハがスワイプすると、
「スレイヤー・V」という文字が表示された。
「知らない」
「YSSって会社が作ってるんだけど」
「流行ってるの?」
「カルト的に」
聞けばDL数2500万越えだそうで、そういうゲームがカルトとは言えないと思うが、
「ノスフェラトゥーの鍵ってアイテムをゲットするのに数十万の課金が必要な鬼畜ゲームなの」
ラスボスを倒してからがこのゲームの真の目的で、そこにカルト性があるという。
RIBの初期、メンバーをキャラに仕立てた恋愛ゲームを作ることになった。
当時の運営に頭の固いオトナがいて、その人の主張がこうだった。
「アイテムなんて、確率にしろレア度にしろこっちがなんとでもできる。
デザインを派手にしたり、逆に渋めにしたりして勝手に差別化すればいいだけのもの。
安いデザイナーを使えば制作費も微小だし、デジタルデータだからどんだけ出ても元値はタダ、丸儲けだ。
俺はそんなものに身銭を切る人間がいるとは思わない」
その恋愛ゲームが『RIB あなたが生贄になる日』だった。
結果は配信が始まったら大バズり、グループの売り上げを下支えするキラーコンテンツとなった。
そしてその頭の固いオトナはいつの間にか運営からいなくなっていた。
コトハは「ノスフェラトゥーの鍵」は他のそういうアイテムとは性質が違うといった。
「『スレイヤー・R』の会員鍵なんだって」
その鍵を持っている者に参戦資格が与えられるのだ。
「『スレイヤー・R』は、ある地域をフィールドにして行われてる非合法バトルゲームで、それに参戦するためにみんなお金払ってる」
ある地域というのが辻沢であるのは容易に想像が出来た。
YSSとは辻沢発祥のコングロマリット、ヤオマンHD傘下のシステム開発会社だからだ。
Y ・S ・S 。
「やっとラスボス倒したけど、これからが本番なんだ」
コトハはため息をついてスマフォに向かったのだった。
その時、後ろでスマフォをいじっていたアヤネが一言、
「ノスフェラトゥーの鍵、3つめゲット」
ガチャ運最強の本領を発揮していた。
あたしも『スレイヤー・R』がどんなバトルゲームか興味があった。
アヤネがゲットした3つのノスフェラトゥーの鍵を使ってアンセラフィムで早速入会手続きを行った。
しばらくするとコトハのもとに運営から案内のメールが届いた。
「団結式だって、まひるネーネー行く?」
初参加のスレイヤー(=ユーザー)を集めて契約書を交わすということらしかった。
「それ行かないと参戦できないんでしょ。匿名でもいいの?」
「基本、ハンドルネームでいいみたい」
オトナには一応断っておいて、リザーブの日に合わせて団結式に参加することにした。
その当日になって突然オトナがついて来ると言い出した。
「イベントにゲストで出演することになったから」
どうやら誰かがあたしたちが団結式に出ることを嗅ぎ付けてセッティングしたらしい。
結局、『スレイヤー・R』参戦はお飾り参加で終わってしまった。
その時に会ったのが辻川町長だ。
イベント後に町長室に呼ばれたのだ。
トラ皮の絨毯に、マホガニーの巨大な机と天井まであるかという背もたれれの椅子。
棚には真っ黒い木刀が飾ってあって、代紋まであるじゃんって思ったらそれは町章だったけど、まるで反社の事務所かっていう町長室で待っていると、背の高いすらっとしたイケおじ風の人が入って来た。
そしてあたしたちの座っている正面のソファーに腰かけると、
「君たちがゲームアイドルかい? ゲーム女などてっきりおかっぱ頭にメガネの地味で根暗な女ばかりだろうと思っていたら、とても美しいじゃないか」
どんだけ古い先入観なのか。
あきれてコトハとアヤネと顔を見合わせたのだった。
「ちょっと立ってみなさい。そう、一回りして。はやく! スカートが長過ぎるな。うちの制服を着てみなさい。足が格段に美しく見えるから。君! あの制服をここへ」
矢継ぎ早に注文をしてくるので、3人して唖然としていると、
「町長!」
と、切れ者そうな女性秘書が横やりを入れてくれた。
それでとりあえず落ち着いたようで、それからは脈略もなく例の「やっちゃ場」の話を延々聞かされてお開きとなったのだった。
町長室を退出すると、見送りに出てくれた秘書さんが、
「すみませんでした。きれいな人を見ると見境がなくなる人格破綻者なもので。辻沢町からお詫び申し上げます」
と頭を下げてくれた。
透き通るような肌に真っ赤な唇が印象的な、とても美しい人だった。
「何で呼ばれたんだろう?」
帰りの車でコトハが言ったけれど、あたしには町長が探りを入れるために呼んだことが分かった。
そして町長がヴァンナパイアだろうことも。
それは最初にソファーの向かいに座った時、あたしたちの目の奥をじっと覗き込んでいたからだ。
ヴァンナパイアの中には、人の目を覗くことでその来し方行く末を見通すことができるものがいると言われているのだ。
メンバーたちは緊張を解くためにそれぞれルーティンがあったが、コトハはスマフォゲームに興じることだった。
「まひるネーネー、このゲーム知ってる?」
コトハがスマフォをあたしに見せて来た。
ギラギラとした背景に小太りのキャラが映った画面が表示されていた。
「?」
あたしの反応を見て、
「これはポリドリっていうラスボス。で、こっちがタイトル」
画面を見直したコトハがスワイプすると、
「スレイヤー・V」という文字が表示された。
「知らない」
「YSSって会社が作ってるんだけど」
「流行ってるの?」
「カルト的に」
聞けばDL数2500万越えだそうで、そういうゲームがカルトとは言えないと思うが、
「ノスフェラトゥーの鍵ってアイテムをゲットするのに数十万の課金が必要な鬼畜ゲームなの」
ラスボスを倒してからがこのゲームの真の目的で、そこにカルト性があるという。
RIBの初期、メンバーをキャラに仕立てた恋愛ゲームを作ることになった。
当時の運営に頭の固いオトナがいて、その人の主張がこうだった。
「アイテムなんて、確率にしろレア度にしろこっちがなんとでもできる。
デザインを派手にしたり、逆に渋めにしたりして勝手に差別化すればいいだけのもの。
安いデザイナーを使えば制作費も微小だし、デジタルデータだからどんだけ出ても元値はタダ、丸儲けだ。
俺はそんなものに身銭を切る人間がいるとは思わない」
その恋愛ゲームが『RIB あなたが生贄になる日』だった。
結果は配信が始まったら大バズり、グループの売り上げを下支えするキラーコンテンツとなった。
そしてその頭の固いオトナはいつの間にか運営からいなくなっていた。
コトハは「ノスフェラトゥーの鍵」は他のそういうアイテムとは性質が違うといった。
「『スレイヤー・R』の会員鍵なんだって」
その鍵を持っている者に参戦資格が与えられるのだ。
「『スレイヤー・R』は、ある地域をフィールドにして行われてる非合法バトルゲームで、それに参戦するためにみんなお金払ってる」
ある地域というのが辻沢であるのは容易に想像が出来た。
YSSとは辻沢発祥のコングロマリット、ヤオマンHD傘下のシステム開発会社だからだ。
「やっとラスボス倒したけど、これからが本番なんだ」
コトハはため息をついてスマフォに向かったのだった。
その時、後ろでスマフォをいじっていたアヤネが一言、
「ノスフェラトゥーの鍵、3つめゲット」
ガチャ運最強の本領を発揮していた。
あたしも『スレイヤー・R』がどんなバトルゲームか興味があった。
アヤネがゲットした3つのノスフェラトゥーの鍵を使ってアンセラフィムで早速入会手続きを行った。
しばらくするとコトハのもとに運営から案内のメールが届いた。
「団結式だって、まひるネーネー行く?」
初参加のスレイヤー(=ユーザー)を集めて契約書を交わすということらしかった。
「それ行かないと参戦できないんでしょ。匿名でもいいの?」
「基本、ハンドルネームでいいみたい」
オトナには一応断っておいて、リザーブの日に合わせて団結式に参加することにした。
その当日になって突然オトナがついて来ると言い出した。
「イベントにゲストで出演することになったから」
どうやら誰かがあたしたちが団結式に出ることを嗅ぎ付けてセッティングしたらしい。
結局、『スレイヤー・R』参戦はお飾り参加で終わってしまった。
その時に会ったのが辻川町長だ。
イベント後に町長室に呼ばれたのだ。
トラ皮の絨毯に、マホガニーの巨大な机と天井まであるかという背もたれれの椅子。
棚には真っ黒い木刀が飾ってあって、代紋まであるじゃんって思ったらそれは町章だったけど、まるで反社の事務所かっていう町長室で待っていると、背の高いすらっとしたイケおじ風の人が入って来た。
そしてあたしたちの座っている正面のソファーに腰かけると、
「君たちがゲームアイドルかい? ゲーム女などてっきりおかっぱ頭にメガネの地味で根暗な女ばかりだろうと思っていたら、とても美しいじゃないか」
どんだけ古い先入観なのか。
あきれてコトハとアヤネと顔を見合わせたのだった。
「ちょっと立ってみなさい。そう、一回りして。はやく! スカートが長過ぎるな。うちの制服を着てみなさい。足が格段に美しく見えるから。君! あの制服をここへ」
矢継ぎ早に注文をしてくるので、3人して唖然としていると、
「町長!」
と、切れ者そうな女性秘書が横やりを入れてくれた。
それでとりあえず落ち着いたようで、それからは脈略もなく例の「やっちゃ場」の話を延々聞かされてお開きとなったのだった。
町長室を退出すると、見送りに出てくれた秘書さんが、
「すみませんでした。きれいな人を見ると見境がなくなる人格破綻者なもので。辻沢町からお詫び申し上げます」
と頭を下げてくれた。
透き通るような肌に真っ赤な唇が印象的な、とても美しい人だった。
「何で呼ばれたんだろう?」
帰りの車でコトハが言ったけれど、あたしには町長が探りを入れるために呼んだことが分かった。
そして町長がヴァンナパイアだろうことも。
それは最初にソファーの向かいに座った時、あたしたちの目の奥をじっと覗き込んでいたからだ。
ヴァンナパイアの中には、人の目を覗くことでその来し方行く末を見通すことができるものがいると言われているのだ。